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第84話 陸奥の提案

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「その提案、俺が認証する」

 トクボ指揮車で、白谷部長が夕梨花からの無線に答えた。

 いつも冷静な白谷だったが、その額には脂汗が浮かんでいる。

 東京湾の埋立地、都営第6ロボット教習所にトクボ部隊が到着してすでに数時間。ずっと張り詰めた緊張感に包まれているのだ。それは指揮車内の全員とて同じであった。

 ディスプレイを見つめる田中美紀技術主任の顔も、緊張にゆがんでいる。だが、黒髪ボブのキレイな直毛は相変わらずサラサラだ。

「各方面への説明は俺にまかせろ。泉崎とゴッドは現場に専念してくれ」

「了解!」

「まぁ、俺にはそれしかできねぇんだけどよぉ」

 後藤はニヤニヤしながらポリポリと鼻の頭をかく。しかもその声は、妙に間が抜けていた。

 その声音には、なぜか緊迫した現場をなごませる不思議な力があるようだ。

 指揮車の全員に、いつしか即席コンビへの信頼感のようなものが生まれている。

「田中くん、君は中央指揮所の雄物川所長に現状の説明を」

「はい!」

「私は陸自に話を通しておく」

 そう言うと白谷は、コンソールに装備されている陸自への直通回線の受話器を上げた。


 暴走ヒトガタが大股で、夕梨花のキドロに一気に迫る。

 全く同タイミングで、夕梨花機はジャンプで後退し距離をとる。

 パワーも機動性もキドロを上回っているヒトガタの攻撃を、夕梨花はこれまでの経験と努力により身につけたテクニックでかわし続ける。ポイントは、絶対にヒトガタの間合いに入らないこと。ヒトガタの手の届く圏内に踏み込めば、瞬時にキドロはその凶悪なパワーで破壊されてしまうだろう。だから夕梨花は、ヒトガタの間合いの外を維持し、機関砲でヒトガタをけん制し続ける。

 さきほどの実験で、コントロールモジュール近辺の装甲は非常に厚く、30ミリ機関砲の連射でさえ破壊は不可能だと判明している。しかも提供された設計図には黒塗りが多すぎて、装甲の弱点の推測ができない状況だ。であれば、単射で各部を撃ち続け、強度の低い場所を探すのみである。

 キドロの機関砲はチェーンガンだ。一般的な機関砲のようにガス圧、反動などを利用して動作するのではなく、チェーンで連結された電動モーターが機関部を動かし、薬きょうの排出、次弾装填を行う。一般的な機関砲であれば銃弾が不発になると当然動力も失われ、その動作が止まってしまう。だが、外部から動力が供給されるチェーンガンではその心配はなく、動作不良が大幅に減る。キドロの標準装備に選定されたゆえんである。

 だが弱点もある。それは熱の発生によるオーバーヒートだ。数秒の連射の後は冷却のため、数分のインターバルが必要となる。そのため、キドロの操縦マニュアルでは、通常時には単射を用いることが推奨されていた。

 また、戦闘車や艦船に搭載されている機関砲ならば、弾丸はベルトによりぼ無尽蔵に供給が可能だ。だがキドロではそうはいかない。キドロの機関砲には、60発の弾丸が装填されたカートリッジが採用されている。連射では、たった五秒で撃ち尽くしてしまう弾数である。

 夕梨花はすでに1つ目のカートリッジをカラにし、腰に装着されていたふたつ目のカートリッジに交換済みだ。これ以上の交換は、トランスポーターか指揮車へ戻らないと不可能なのである。

 ヒトガタが一歩踏み込み間合いを詰めてくる。巨大な右腕をブンとふるい、夕梨花のキドロ頭部を狙ってきた。腰を低くしてそれをかわし後方へジャンプ、再びヒトガタとの間合いをあける。と同時に機関砲の単射を、ヒトガタの首に撃ち込んだ。

 キン!と鋭い音をたて、30ミリ弾がはね返される。

「ちっ!ここもダメか!」

 夕梨花が毒づいた。


「なんだこりゃあ、スイッチだらけじゃねぇか」

 コクピットに後藤の驚きの声が響く。

 彼の目の前の操縦用コンソールに、ロボットによくあるタッチパネルのようなコントローラーは皆無だった。トラブルの多いデジタル系の操作パネルではなく、サバイバルに適したアナログ中心のスイッチが並んでいるのだ。

「基本的な操縦法は他と変わらない。各国の闇ロボットに乗りまくって来たお前なら、こんなもの問題無いだろ?」

 陸奥の無線に、後藤がニヤリと笑った。

「まぁな」

 陸奥の作戦はこうだ。

 この場所には、対袴田素粒子防御シールドが起動中のヒトガタが二機ある。生徒たち、ひかりと奈々が乗り捨てたものだ。それを利用しない手はないだろう。ヒトガタにはヒトガタで対処すればいい。しかもこちらは二機である。負ける道理はない。

「やっぱり、伝説の英雄様に乗っかって正解だったぜ」

「その伝説っての、やめてくれないか?」

 陸奥の困ったような声が無線から聞こえる。

「じゃあ英雄ってことで」

「それもなぁ」

 陸奥は苦笑していた。


「おい!センセたち、泉崎さんと遠野さんが乗り捨てたヒトガタに乗り込んだで!」

 両津の声に、太鼓判についてワイワイと話し込んでいた生徒たちが一斉に顔を上げた。

「すごいぜ。ヒトガタVSヒトガタの戦闘が見られるなんて、こりゃあ幸運だぜベイビー」

 正雄の目はキラキラと輝いている。

 新型軍用ロボのヒトガタは、現在のところまだ実戦投入された例はない。つまり、訓練ではない本当の戦闘は、世界初のことと言えるだろう。

「しかも、俺の大好きな格闘戦じゃねーか!ワクワクするぜ」

「格闘せん……格闘しないのですかぁ」

「愛理ちゃん、それが平和でいいよね」

「それには私も賛成するわ」

 よく分からない形で、ひかりも奈々も愛理に同意した。

「でも、どのヒトガタさんにどなたが乗っているのか、サッパリですわ」

 奈央が小首をかしげる。

「ああ、それなら分かるで」

 両津機が奈央機に顔を向けた。

「背中に番号が見えるやろ?」

「ああ、背番号みたいなアレですね」

「そうや。コクピット搭乗口のドアに書いてある番号や」

「ああ!愛理にも見えました!」

「1番が遠野さんが暴走させたヤツ、今は陸奥センセが乗ってる」

 両津が指差しながら説明していく。

「2番が、泉崎さんが遠野さんを追っかけたヤツや」

「ふむふむ」

「3番が暴走してるヒトガタや」

 三機のヒトガタをじ〜っと見つめながら正雄がつぶやいた。

「そうだったのか。これで観戦がしやすいぜ!」

「あんたも分かってなかったんか〜い!」

 今日も奈々の突っ込みは鋭かった。


「ほんじゃあ、お嬢ちゃんを助けに行くかぁ」

「そうだな」

 陸奥と後藤の乗るヒトガタが、ゆっくりと向きを変えた。

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