第83話 対ヒトガタ戦
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
25式人形機甲装備、通称ヒトガタの性能は、全ての面で機動隊の機動ロボット、通称キドロを上回っていた。
民生機から派生した最高性能のキドロではあるが、ヒトガタは最初から軍用として開発された機体である。市販車の中では最高性能であるスポーツカーだとしても、レースに特化したF1マシンとの性能差は埋めるべくもないのと同じだ。ひとことで言うなら、自家用車と戦車の違いと言えばわかりやすいだろうか。
まず、素人目にもひと目で分かるのはその大きさだろう。一般の自家用車と大差ない大きさのキドロと比べて、ヒトガタはひとまわり大きく体形もゴツい。対ショック、対弾丸性能を上げることを主眼にしたそのボティは、デザイン性などは一切考慮されていない。実用1点主義で、装甲や機動力の強化を最優先に設計されているのだ。
「俺がなんとかコイツを抑えてみせる。お嬢ちゃんはそこを狙って機関砲をぶっ放してくれや」
ひょうひょうとした後藤の声に、機動隊ロボット部隊キドロチームのチーフパイロット、泉崎夕梨花は苦笑する。
「だから、そのお嬢ちゃんての、いい加減やめてよね」
「まあいいじゃねぇか。俺から見たら、あんたはまさにお嬢ちゃんだぜ」
褒められているのか、それとも小馬鹿にされているのか、夕梨花には判断がつかない。だが、そののんきな声色には、謎の自信と夕梨花に対する信頼が込められているのを夕梨花は感じていた。
夕梨花はとっさの行動にも対応できるよう、キドロの標準装備30ミリ機関砲を右マニピュレータでしっかりと握り直す。
「いくぜ!」
後藤がヒトガタの後ろから仕掛けた。一足飛びにその距離を詰める。
夕梨花は左手で持つ超硬合金製の特殊警棒をジャキン!とひと振りで伸ばし、大上段に振りかざす。後藤の行動に対するヒトガタの対応を遅らせるためのけん制だ。
夕梨花の警棒を警戒するように、一瞬ヒトガタの動きが止まった。
そこに背後から組み付く後藤。まさに、はがいじめである。
もちろん、ヒトガタのパワーならキドロの締め付けなど数秒で払いのけてしまうだろう。だが後藤の狙いはその数秒なのだ。その瞬間があれば、夕梨花であれば機関砲を命中させられる。そんな後藤からの信頼を、夕梨花は瞬時に理解した。
コンマ何秒かで機関砲を構える。
照準はヒトガタの正面腹部、コントロールモジュールのある部分だ。
ガガガガガ!っと、毎分625発の暴力がヒトガタを襲う。
一秒で10発以上。ほんの数秒引き金を絞るだけで、数十発の弾丸がヒトガタの腹部に命中、ガンガンガン!とヒトガタの腹部を打つ轟音が響いた。
ヒトガタの反撃を警戒し、後藤がジャンプで後退、距離をあける。
「おいおい、マジかよ」
トクボ部隊指揮車の面々は、その攻防を固唾を呑んで見守っていた。
ドローンからの監視映像がズームアップされ、ヒトガタの腹部がディスプレイいっぱいに拡大される。
「ヒトガタに大きな損傷はありません!」
田中美紀の声が、悔しげに響いた。
夕梨花の機関砲が命中したはずのヒトガタ正面腹部は、光の角度によってはほんの少しヘコんでいるように見えなくもない。だが、破壊には程遠いのが現実である。
「構造を機密扱いにするだけはあるな」
ディプレイを見つめる白谷部長の声も重い。
30ミリ機関砲だぞ?いったいどんな装甲をしてるんだ?
指揮車内に、そんな声が広がっていた。
「なんでや?!機関砲がぜんぜん効いてへんやん!」
驚きのあまり、両津が大声を出した。
「M230でもダメなのか……自家用ロボなら粉々に破壊される威力なのに」
正雄のその言葉に、一同押し黙ってしまう。
「お姉ちゃん……」
心配げに奈々がつぶやいた。
「奈々ちゃん……奈々ちゃんのお姉ちゃんなら、きっとだいじょうぶだよ。だって、とっても強いんでしょ?」
ひかりは奈々のことが心配のようだ。
「そうですわ、泉崎さん。あなたからいつも聞いているお話から推測しますと、お姉さまの強さは相当なものですわ」
「太鼓判ですぅ」
「愛理ちゃん、難しい言葉知ってるんだね。すごいね!」
「えへへ」
その時、マリエが小声でつぶやいた。
「太鼓判って……どういう意味なの?」
愛理の笑顔がパッとはじけた。
「知らないですぅ〜!」
「あちゃちゃ〜」
そう言ったひかりも、もちろん知らなかった。
「なるほど。やはりコントロールモジュール周りは装甲が頑丈なようね」
夕梨花が悔しそうに、だが冷静にそう言った。
「今度は俺の番だ。お嬢ちゃん、頼むぜ」
「だから、お嬢ちゃんと呼ばないで!」
その言葉と同時に、夕梨花はガッと機関砲の銃身を上げ、再びヒトガタに向ける。
夕梨花の動きを警戒しヒトガタが身構えた。予想通り、コントロールモジュール周り以外の装甲は薄いのかもしれない。
その一瞬を見逃す後藤ではなかった。夕梨花の機関砲の動きとほぼ同時に、ヒトガタの背後からジャンプで襲いかかる。後藤自慢のロボット用アーミーナイフの多数のツールから、巨大なナイフがセッティングされている。
キンっ!と、鋭い音が響いた。
ヒトガタの頭部を狙って振り下ろされた後藤のアーミーナイフが、火花を散らしてはじかれたのだ。ヒトガタの頭部には傷すらも付いていない。
「こっちもダメみたいだぜ」
「予想通りよ」
「まぁ、そういうこった」
後藤と夕梨花はニヤリと笑った。どこか似た笑顔だ。
その時二人のコクピットに陸奥の声が響いた。無線である。
「状況は把握した!ひとつ、俺から提案がある!」
「陸奥さん、何かいい手が?」
「よし乗った!」
後藤が楽しそうに叫んだ。
「俺はまだ何も言ってないぞ?」
陸奥のいぶかしげな声に、後藤は歯を見せて笑顔を深めた。
「伝説の戦士、ダスクの英雄様の作戦に間違いはないだろ?」
「なんだよ、その伝説ってのは?」
陸奥のとまどう声が聞こえる。
「あの後ダスクじゃ、あんた、東からやって来た謎の英雄って呼ばれてるんだぜ」
「マジか?」
「おおかた、バータルとボルドの野郎が酒の席とかで吹聴したのが広がったんだと思うなぁ」
仕方ないやつらだ、と陸奥はニヤリと笑う。
「まぁいい。じゃあ俺の話を聞いてくれ」
「おうよ!」
「お願いします!」




