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第82話 永田町一丁目

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「現状はどうなっている?」

 都営第6教習所地下の対袴田素粒子防衛線中央指揮所に、雄物川所長の声が重々しく響いた。現在この指揮所は、暴走ヒトガタ対処のため非常事態モードに突入している。校舎のワンフロア全体を使った広い室内では、多くの所員たちが忙しく動いていた。

 モニター画面に向かって何かを分析している者。

 66機もの人工衛星ネットワークで、地球全体を防御シールドですっぽりと包んでいる対袴田素粒子防御シールド・サテライト・ネットワークを監視している者。

 ISS(国際宇宙ステーション)と連絡を取っている者。

 東郷大学袴田研究室や、城南大学遠野考古学研究室へ、現状を連絡する者。

 皆、スーツに白衣といったいで立ちだ。彼らのほとんどは、教習所の所員であると同時に各分野の研究者でもあるのだ。

「対ヒトガタ戦ですが、現在機動隊のキドロ二機が作戦進行中です」

 久慈彩香教官が、コンソールのメインディスプレイを指し示した。警備用ドローンからの映像である。

「これから田中技術主任発案の作戦を実行するとのことで、攻撃によりヒトガタの装甲について調べると」

「うむ。機密扱いでデータが公開されていないとなれば、仕方あるまい」

 雄物川がうなづく。

「陸奥教官と陸自の佐山三等陸佐は、レスキューロボでヒトガタとキドロが対峙している南側後方で待機中です。陸奥さんは、必要となればキドロの援護にまわると言ってます」

「レスキューロボで可能なのかね?」

 雄物川の問いに、久慈は首を横に振った。

「単純な実力では、レスキューロボはヒトガタに遠く及びません。ですが、陸奥さんは直接対決しなくても手はある、と言っていました」

「ふむ。彼になら、何か考えがあるのだろう。生徒たちはどうしている?」

 久慈がコンソールのサブディスプレイをタップすると、七台のロボットが集まっている様子が映し出された。警備用ドローンに気がついた彼らは、なぜか楽しそうにカメラに手を振っている。

「南郷さんに、生徒たちを校舎へ避難させるようにお願いしたんですが……」

「南郷くんもあそこにいるようだね」

 七台の教習用ロボットと共に、所内移動用のEVも停車していた。

「みんな、言うことを聞いてくれなかったとのことです」

 ふうっと雄物川がため息をつく。

「また、所長室に呼び出しかな」

「それと、もうひとつ所長にお伝えしたいことが」

 雄物川が久慈に顔を向けた。

「トクボの部長から連絡があったのですが」

「白谷くんから?」

「現在作戦で使用しているヒトガタの設計図ですが、正体不明の相手から送られてきたそうです」

 うむと雄物川がうなづいた。

「所長、お心当たりが?」

「あちらさんの本音は読めないが、まあお互いに利用するのが得策だろう」

 久慈に聞かせるでもなく小声でそうつぶやいた雄物川の横顔を、久慈は不思議そうに見つめていた。


 東京メトロ丸ノ内線と千代田線の「国会議事堂前駅」3番出口を出て左手へ進む。そしてすぐの交差点「総理官邸前交差点」を左折。15メートルほど進むと左手に見えてくる建物が内閣府庁舎だ。多くの官庁施設が集約・合同化されている中央合同庁舎第8号館の隣に位置している。住所だと東京都千代田区永田町一丁目。まさに日本の政治、そして官僚組織の中枢である。

 内閣府庁舎をエレベーターで6階まで上がる。

 このフロアには、一般人はおろかマスコミでさえ滅多に訪れることのない組織が本拠を構えている。

 内閣情報調査室、俗に内調と呼ばれる内閣の情報機関だ。日本のCIAといえば、その活動がなんとなく理解できるかもしれない。

 その奥に位置する部屋、内調国際テロ情報集約室の会議室に、今二人の男が向かい合って座っていた。

「佐々木くん、ヒトガタの様子はどうだね?」

 そう言ったのは高級そうなスーツで、いかにも高級官僚と言った感じの男である。年の頃なら50代前半ぐらいに見える。国家公務員らしく、国産のスーツに国産のシャツとネクタイだ。だが、おそらくその価格を聞いたら目が飛び出してしまうほどの額に違いない。

 一方の、佐々木と呼ばれた男は、もう少し若く40歳前後だろう。

 ビジネス街へ出ると人混みに紛れて見つからなくなる、そんなありきたりのスーツ姿だ。情報機関の実働部隊としては、目立たないことこそ最低限の技術なのである。

「都営第6教習所の動きは、内閣衛星情報センターで逐一監視しています」

 内閣情報調査室では、衛星画像を利用しての情報収集を日常的に行っている。内閣衛星情報センターは、内閣情報調査室の部局の一つであり、監視衛星の開発・運用及び衛星画像の分析を行う専門の部署なのだ。

「例の設計図は、あちらに届けたかね?」

「はい。どうやらあの図面から、何か作戦を立案したようです」

「ほう。では、いよいよ彼らの手腕が見れるということか」

 年配の男の目がギラリと光る。

「そうなります」

「後藤はどうしている?」

「予定通り、トクボと共にキドロでヒトガタと対峙していると思われます」

 男がふむ、とうなづいた。

「実力は確かだが彼は異分子だ。おカタイ警察組織が彼とどう連携できるのか、なかなかの見ものだな」

「それに、ヒトガタはまだ実戦経験の無い新型です。暴走しているとはいえ、その戦闘データは今後に役立つと思われます」

「そうだな。結果が楽しみだ」

 年配の男は窓の外に目をやった。ここからは全く見えないが、東京湾の方向である。

 そこでは今まさに、対ヒトガタ戦が始まろうとしていた。

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