第81話 合流
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「なんや睨み合いが続いとるなぁ」
両津ら生徒たちは安全だと思われる距離をとり、暴走ヒトガタとキドロの戦闘を見守っていた。
「でも、ヒトガタさんがジワジワと距離を詰めてきていますわ」
「ありゃあ一触即発ってヤツだぜ」
「いっしょくそくはつってなんですかぁ?」
「ちょっと触れただけで爆発しそうな状態のことですわ。転じて、とても緊迫した状況を表す四文字熟語として使われますのよ」
「へぇ〜」
ひかりがいないと、愛理の疑問は即解決するようだ。
「あのキドロが持ってるの、機関砲ちゃうか?」
「ああ、ありゃあヘリ搭載用の30ミリM230機関砲を、キドロ専用にカスタムしたものさ。NATOの標準共通弾30✕113mmBを毎分625発も連射できるんだぜ」
「すげ〜」
さすがロボットマニアの正雄である。特に資料等を見ることもなく、空でスラスラと機関砲の説明を語る。キドロの装備全てを暗記しているようだ。
キドロのもう一台は、巨大なナイフのような武器を右手でかざしている。
「棚倉さん、あのナイフはなんですの?」
「でっかいですぅ」
だが、正雄は少し眉をひそめた。
「形から見るとアーミーナイフと言っていいとは思うんだが……」
「思うんだが?」
両津が首をかしげる。
「キドロの標準装備はダガーナイフのはずなのさ」
ダガーナイフは短剣と言い換えることも出来る両刃のナイフである。現代日本の法律ではまさに「剣」に分類され、刃渡りが5.5センチ以上のダガーは所持が禁止されている。購入する事はおろか、自宅で保管することも許されていないある意味危険物でもある。
一方のアーミーナイフは、軍隊が戦闘以外の日用的な用途に使用するための折りたたみナイフだ。ナイフ以外にも、缶切りや栓抜き、ドライバーなどのツールが内蔵されている。十徳ナイフ、万能ナイフとも呼ばれ、キャンプなどでも重宝されているスグレモノだ。19世紀末にスイス陸軍の装備品として開発されたもので、ビクトリノックス社のミニツールがスイス陸軍に正式採用されたことで世界中にその名が轟いた。
「でも、ありゃあナイフの機能が強化されているぜ。他のツールも内蔵されてるようだが、ナイフだけが特にデカくなっている。十徳ナイフと言うより、一徳ナイフだぜ」
「お得は愛理も好きですぅ」
「愛理ちゃん、その得ではないですわ」
奈央の株式投資講座を聞いて以来、愛理もお得が大好きになっていた。
「ひとことで言うと、俺ほどのマニアさんでも知らない武器なのさ。今年のロボット名鑑最新版にも、キドロの装備としてあんなものは載ってなかった。いや、ロボット装備としてのアーミーナイフなんて聞いたこともないぜ」
正雄はまるで自分が知らないことが自慢のように、白い歯を見せてニヤリと笑った。どうやらロボット名鑑にも載っていない新兵器、あるいは隠し武器を見ることができて心底嬉しいようだ。
「まぁ、素晴らしい!あれはレアですのね。と言うことは愛理ちゃん、私たちこの戦いを観戦できてとってもお得ってことですわ」
「愛理はお得好きですぅ!」
「男好きだって?」
「ちゃう!お得好きや!」
遠野さんがいなくても、結局誰かがボケるんやなぁ。
両津はちょっと楽しげだ。
「マリエちゃん!みんな〜!」
その時、ガシンガシンと野暮ったい足音を響かせて、ひかりの火星大王が生徒たちの所に追いついて来た。もちろん、奈々のデビルスマイルも一緒である。
奈々のデビルスマイルは、火星大王と違いダイナミックではあるがスマートなランニングスタイルだ。足音も、ひかりに比べてちょっとオシャレに聞こえる。
「おお!二人とも、無事やったか!」
両津のなにわエースが、両手を大きく広げて二人を迎えた。
「両津くんと抱き合って喜ぶ女子はいないと思うぜ?」
「そんなん言わんといてよ〜」
いつもの面々が揃うと、一気に平和な雰囲気に包まれる。
「お二人、軍用のヒトガタと渡り合うなんてすごかったですわ、泉崎さん、そして『私のひかり』さん」
ひかりと奈々がキョトンとする。
「このマイトガイがまたまた見直したぜ、泉崎くんと『私のひかり』くん」
「『私のひかり』って、可愛い呼び方ですぅ」
「私も……『私のひかり』って呼んでもいい?」
マリエの小声に、ハッと気付いた奈々の顔が一気に真っ赤に変わった。
「あれれ?奈々ちゃん、エアコンの設定温度、もう少し下げたほうがいいよ」
心配げなひかり。
「ほら『私のひかり』さんが心配してるで」
両津の言葉に、一斉にこの場が笑顔に包まれる。
「でも泉崎さん、どんどんデレていきますわね」
「デレデレですぅ」
「えーと……デレてなんか、ないわよ」
奈々の抗議は小声である。
「だって、親友だもん!」
ひかりの笑顔に、奈々もそれ以上は抵抗しなかった。
「泉崎さん、ゴッド、ちょっと試してみたいことがあるんです」
トクボ指揮車から、技術主任の田中美紀が二機のキドロに呼びかける。
「ヒトガタのこの図面なんですが、これではどの部分が装甲が厚いのか、薄い場所はどこなのか、全く分からないんです」
メインディスプレイには、謎の男、もしくは組織から送られてきたヒトガタの設計図が、暴走ヒトガタの上にオーバーレイされている。だが、そのほとんどは黒塗りであり、コントロールモジュールの場所以外の情報を読み取るのは困難だった。もちろん、有能な美紀の部下たちトクボ部員は懸命の分析を続けている。だが、いつヒトガタが攻撃の口火を切るのかが分からない現状では、あまり時間を使ってはいられない。
美紀の判断に白谷部長も了承を出していた。
「コントロールモジュールを守っている装甲の状態を知るために、お二人それぞれの攻撃をお願いします」
美紀の計画は以下である。
まずはヒトガタの情報が欲しい。それぞれ、二箇所のコントロールモジュールを得意な武器で攻撃する。もちろん、一方が攻撃する時にはもう一方はヒトガタの動きを止める必要がある。困難を極めるかもしれないが、まずはそれがヒトガタ攻略の第一歩なのだ。
「泉崎さんは機関砲で正面腹部を、ゴッドはそのナイフで頭部を狙ってください」
「了解した!」
「了解だぜ!」
二人の声が指揮車内に響く。
そして二機のキドロは、ゆっくりと動き出した。




