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第80話 ファイヤードラゴン

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「よく戦車のことを鉄の棺桶なんて言うけどよぉ、グロボのコクピットの方が余程棺桶そのものだぜ。そうは思わねぇか?」

 灼熱のジガ砂漠に立ち止まる二機の軍用ロボット。不意の襲撃を避けられるよう、巨大な岩影に隠れるように停車している。ただし岩影と言っても、地面にはほとんど影が落ちていない。昼近い今は、過酷な太陽が真上から全てのものを照らしているのだ。

「グロボって、もしかして軍用ロボットのことか?」

 そんな陸奥の問いに、後藤が意外そうな顔をする。

「おめぇ、知らねぇのか?」

「ああ、初めて聞いた」

「やっぱりなぁ、この辺で活動してるなら知らねぇはずはねぇ。おめぇ、その機体のテストのために、ここへ来たばかりだろ?」

「まあ、否定はしない」

 陸奥は苦笑した。

 その時、二人のコクピットに無線が入電した。

「ゴッド、どこにいる?」

「そろそろ俺たちも近いはずだ」

 ダスク政府に反旗をひるがえしている反政府組織シャンバラの兵士、バータルとボルドだ。ここ数ヶ月、後藤はこの二人と共に、誘拐された子供たち奪還の任務を遂行していた。軍隊ではないので同期という言い方はしないが、戦友と呼んでもおかしくない関係になっている。

「今から1.5秒だけ、シャンバラの識別ビーコンを出す。それを目指してくれ」

 後藤はそう言うと、操縦レバー前のコンソールから無骨に飛び出している、それ自身も無骨な形状のスイッチを1.5秒だけオンにする。そのスイッチも内部の装置も、おそらく後付けのものだろう。溶接の跡が妙に生々しい。

 元々今回の任務は、後藤と陸奥の二人で決行する予定だった。だが、子供たちが囚われているゲル(遊牧民の移動住居)に向かっている途中、二人に本部から緊急の連絡が入ったのだ。

 いわく、二機だけで対応するには相手が悪い、と。そこでバータルとボルドも合流することになった。本部が新たに入手した情報では、そのゲルの守りについている護衛ロボットは、この界隈で最も強力と言われている難敵だった。

「ファイヤードラゴンについて、ちょっとは知ってるかぁ?」

「もちろん。ただ、実際にホンモノを見たことはないがな」

「俺自身は、戦ったことはねぇが、仲間がその餌食になった現場にいてなぁ」

 一瞬息を呑んでから、後藤は吐き捨てるように言った。

「ドラゴンの炎で、ロボットはそいつごとドロドロに溶けちまった」

 いつもひょうひょうとしている後藤には珍しく、憎悪の垣間見える声音である。

 ファイヤードラゴンは大型の軍用ロボットだ。

 身長は、後藤が乗るブラックドワーフのほぼ二倍、パワーも推して知るべしである。ドラゴンの名の通り、強力な火炎攻撃がメインの武器となっている。ただ、その名から想像されるような火炎放射器などの装備ではない。

 特殊なテルミット弾を打ち出すグレネードランチャーが、まさにドラゴンのような頭部、しかも口腔内に設置されているのだ。

 テルミットとは、アルミニウムの粉末と酸化した金属粉の混合物のことを言う。これに点火すると、爆発的なテルミット反応が引き起こされ、およそ2,500度の高熱で燃え上がる。鉄の融点は1,538度である。一般的な火炎放射器の温度は1350度~1400度程度なので、鋼鉄製のロボットが耐えることは困難ではない。だがテルミット弾にかかれば、一発でドロドロに溶けてしまうのだ。現実に、焼夷弾として使われた歴史を持つ恐怖の装備なのである。

「テルミット弾にさえ当たらなければ、まぁなんとかなると思うぜ」

 後藤の口調はいつもの、のんきなものに戻っていた。


「俺がヤツを引きつける。その間に、ゲルの子供たちを救出してくれ」

 後藤と陸奥たちはすでに、子供たちが幽閉されているゲルの前に到着していた。もちろん、岩影に身を潜めている。

「陸奥さんよぉ、新型か何か知らねえが、さっきの話聞いてなかったのかぁ?」

 後藤がいつもの、のんびりとした声で言った。

「大丈夫。実はゴッドの言う通り、これも俺の仕事なんだ」

「ほほう、その機体のテストってわけかぁ」

「そんなところだ」

 陸奥が笑顔を見せた。

「分かった。子供たちは俺とこいつらに任せてくれ」

「頼まれたぜ」

「おうよ!」

 バータルとボルドもニヤリと笑う。

 陸奥機は右手に握っていた棒状の金属をブンと振った。

 ジャキン!と、その棒は三段式に伸びる。

 ん?警棒か?……てことは、この新型は機動隊の新装備なのか?

 後藤はその警棒を見つめていた。

「では行くぞ……スリー、トゥー、ワン、ゴーっ!」

 陸奥の新型が走り出る。

 後に続く三機のブラックドワーフ。

 正面から突っ込んでくる陸奥機の姿を捉えたファイヤードラゴンが、カッとその口を開いた。陸奥は全くよけるそぶりを見せない。

「陸奥!気をつけろ!」

 後藤の叫びと同時に、ドラゴンの口からまるで魔法の火の玉のような弾丸が高速で打ち出された。それは真っ直ぐに、陸奥に向かって加速していく。

 陸奥はその火の玉を、警棒で無造作に払いのけた。

 弾かれた弾丸はその瞬間ババッと燃え上がり、警棒とそれを持つ陸奥機を覆い包む。

「やられたか?!」

 ゴッドはそれを横目に子供たちのいるゲルへと走っていた。

「!」

 驚愕したのはゴッドだけではない。バータルとボルドはもちろん、その場にいるすべての者が驚きに我が目を疑った。もちろん一番驚愕に震えたのは、ファイヤードラゴンの操縦者だろう。

 陸奥の新型ロボットは、何事もなかったかのようにドラゴンに肉薄しようとしていたのだ。そのボティには傷一つ付いていない。それどころか、炎の直撃を受けたはずの警棒にもテルミットの影響は見られなかった。

 この新型がテストしているのは、夕梨花が使っている特殊警棒のプロトタイプだった。その材質は超硬合金だ。鉄やステンレスよりも硬く、ダイヤモンドに次ぐ硬さを誇っている最新の合金である。だが今回陸奥がこの場で行ったテストは、その耐火性能についてのものなのだ。

 テルミット反応の温度はおよそ2,500度。超硬合金の融点は2900度だ。実戦で使えることが証明できれば、テルミット攻撃でさえ防ぐことができる。

 あせったドラゴンが二発目のテルミット弾を陸奥機に発射した。

 だが、左手に装備している盾も、超硬合金製なのである。

 激しく燃え上がるテルミット反応を突っ切って、ドラゴンの眼前に現れた陸奥機は、そのまま超硬合金の警棒を思い切りふるう。

 グシャン!と嫌な音を立てて、ドラゴンの頭部が吹き飛んだ。

「こりゃ驚いたぜ」

 その後陸奥はたった一機で、あのファイヤードラゴンを蹂躙したのであった。

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