第78話 キドロの到着
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
ひかりたち七台の教習用ロボットは、蜘蛛の子を散らすようにバラバラな方向へ逃げ出した。その光景に、さすがの暴走ヒトガタも一瞬の躊躇を見せる。だが次の瞬間その目が捉えたのは、モタモタした動きで逃走に遅れを取っている一台の無骨なロボットだった。
ひかりの火星大王である。
「遠野!急いで逃げるんだ!」
陸奥の声は、ひかりをますますあせらせてしまう。
「教官!そんなこと言われても〜!」
火星大王は民生品の中ではとびきり頑丈なロボットだ。生徒たちが乗る他のロボよりは、ヒトガタの攻撃に少しは耐えられる可能性がある。だが、軍用の装甲とは比べるべくもない。このままでは大変なことになってしまいかねない。
陸奥はあせっていた。だが、レスキューロボは走行速度でも、ヒトガタには遠く及ばない。ターボをかけて最大馬力で速力を上げても、ヒトガタに距離を離されていく。
間に合わない!
陸奥がそう思った時には、ヒトガタはすでに火星大王につかみかかろうとしていた。
「痛いのイヤだよ〜!」
火星大王が、伸ばされてきたヒトガタの右アームを左腕で弾き飛ばす。
頑丈な外板が功を奏して、火星大王の左腕はたいしてヘコんでいない。
即座にヒトガタは、火星大王の肩をつかもうと左アームを伸ばす。
それも右腕をふるうことではね飛ばす火星大王。
「あれ、回避教習の時と同じや!」
ひかりの健闘に、生徒たち全員が立ち止まってその様子を見始めた。
「遠野くん、ランダムに飛んでくる弾丸を全くよけずに、すべてを手で払いのけてたからな、ベイビー」
「電光石火ですわ」
「目にも止まらないですぅ」
機動力で遥かに上回るヒトガタの攻撃を、火星大王の持てるポテンシャルの全てを引き出して応戦するひかり。だが、このままの状態が長く続くはずもない。一瞬のスキや迷いがあるだけで、ヒトガタの一撃をくらってしまうだろう。そうなると、いかに頑丈な火星大王であっても無傷でいられるはずもない。なにしろ火星大王は自家用ロボットなのだから。
「陸奥さん。あの子、火星大王でヒトガタと渡り合っています」
「遠野は、才能はあるんです。ただ、まだそれをコントロールすることが難しくて」
陸奥と佐山は全力でヒトガタに向かっている。
「私のひかりに何するのよーっ!」
奈々の声がデビルスマイルの外部スピーカーから轟いた。
火星大王をつかもうと素早く伸ばされたヒトガタの右アームに、デビルスマイルの飛び蹴りが炸裂した。体勢を崩し、一歩後ずさるヒトガタ。
「奈々ちゃん、来てくれたんだね!」
「いいから!急いで逃げるわよ!」
「ねぇ奈々ちゃん!さっき、私のひかり、って言った?」
「え?!」
ひかりの言葉にハッと気付き、思わず赤面する奈々。
「そ、そんなこと言ってないわよ!」
「ううん、ちゃ〜んと聞いたもん、奈々ちゃん。ねぇ私の、なの?」
デビルスマイルのメインデイスプレイに、ひかりの表情がワイプのように表示されている。その瞳はキラキラと輝き、まさに「わくわく」しているようだ。
「その話は後で!とにかく今は逃げることが先よ!」
そう言ってかぶりをふり、ヒトガタから離れようとしたデビルスマイル。
だが、ヒトガタの右マニピュレータが、がっとその頭部をわしづかみにした。
「ちっ!」
「奈々ちゃん!」
ヒトガタの拘束から逃れようとするデビルスマイルだったが、ヒトガタはその強力な握力でデビルスマイルの頭部を締め付けてくる。そして上へと持ち上げていった。デビルスマイルの足が地面を離れていく。
デビルスマイルのコクピットに、ギシギシと嫌な音が聞こえ始めた。
「奈々ちゃんを離せ〜!」
奈々をつかんでいるヒトガタの腕を、火星大王がバンバンと叩く。だが全くびくともしない。それどころか、今度は左アームで火星大王を捉えようと腕を伸ばしてくる。
ひょいとそれをかわし、再びヒトガタの右腕をバシバシとたたき始めるひかり。
「奈々ちゃんを離してよ〜!」
デビルスマイルのコクピットが非常照明で真っ赤に染まる。
アラーム音が激しくなった。
『圧力上昇。このままでは危険です。原因を排除するか、早急に脱出してください』
コンピュータの冷たい声が響く。
「ひかり、これ……もうだめかも。ひかりだけでもさっさと逃げなさい!」
「そんなのイヤだよ!奈々ちゃんは、初めてできた私の親友だもん!」
親友!
それは奈々にとっても、初めての経験だった。とても優秀な姉にコンプレックスを抱きつつ、大好きな姉をひたすら目指した青春。友達を作る余裕なんてどこにも無かった。
だから「親友だよ」と言ってくるひかりと、どう向き合えばいいのかが分からなかった。
でもこの子は、そんな奈々のことをずっと親友だと言い続けていてくれる。
奈々の目にキッと光が宿る。
「分かったわ!頑張っていっしょに帰りましょう!」
「うん、奈々ちゃん!」
「ひかり!腕じゃなくて、私の頭部をつかんでる指を狙って!腕よりパワーが弱いはずよ!」
「了解、奈々ちゃん!」
デビルスマイルがその頭部をしっかりとつかんでいるヒトガタの指に両手をかけ、力を込めてその指をひきはがそうとする。ひかりもヒトガタの指に自分の指を食い込ませる。
「奈々ちゃんから手を離せ〜っ!」
少しずつヒトガタの指がゆるみ始めた。
「ひかり!もうちょっとよ!」
そんな攻防を見つめている両津たちも手に汗を握っていた。
「なんかイケそうになってきたで!」
「頑張れオレのライバルさんたち!」
「もうちょっとですわ!」
「頑張るですぅ〜!」
だが、力を合わせているひかりと奈々に、ヒトガタは無情にももう片方の腕を振り上げた。
「あかん!あの一撃を食らったら!」
「一発でオダブツだぜ!」
生徒たちが恐怖に震える。
パンッ!
その時、埋立地に乾いた破裂音が響いた。
生徒たち、そして陸奥と佐山が見たものは、今まさに到着した二台のキドロの姿だ。
夕梨花の放った30ミリ機関砲の単射は、ヒトガタの左腕ヒジ関節に命中、大きく後ろへはね飛ばす。その勢いで、ヒトガタの右マニピュレータが一瞬力を失った。
「今だ!」
ひかりと奈々が、その指を引き剥がすことに成功、デビルスマイルはそのまま方ヒザをついた姿勢で着地した。
「奈々!逃げなさい!」
夕梨花の声が奈々のコクピットに響く。
「お姉ちゃん!来てくれたんだ!」
「あ、奈々ちゃんのお姉ちゃん!私、遠野ひかりです!奈々ちゃんの親友です!」
夕梨花はこの緊迫した場面で、ちょっと笑いそうになる。
これがウワサのポンコツさんね。ホント、奈々と仲が良さそう。
「ひかり、その話は後で!離脱するわよ!」
「りょ〜か〜い!」
ひかりと奈々は、急いでその場から離れていく。
ヒトガタと向かい合う二台のキドロ。
「ここからは俺たちに任せてもらおぅじゃねぇか」
全車の無線から、後藤の不敵な笑いが響いた。




