第77話 戦闘
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「速い!」
暴走ヒトガタと対峙している陸奥と佐山のレスキューロボは、予想通りの苦戦を強いられていた。レスキューロボのほぼ1.5倍もの上背を持つヒトガタだが、そのガタイから想像される以上に動きが素早いのだ。
「ヒトガタの駆動系はこれまでのロボットのものから一新されています!恐らく、世界の軍用ロボットの中でも、トップクラスに俊敏でパワフルです!」
佐山は自機を、ヒトガタの強襲からの回避コースに乗せながら叫んだ。
「こりゃ牽制どころか、こっちがやられてしまう!」
「とにかく間合いを取らないと!」
ヒトガタが急接近、陸奥機に右こぶしをふるう。
間一髪、ジャンプで間合いを取る陸奥機。
ヒトガタの巨大なこぶしが、ブンと言う恐ろしい音を立てて空を切った。もし当っていたら、レスキューロボなど一発でひしゃげていただろう。
「おい!こっちだ!」
佐山機がヒトガタの気を引くように、その後方で構える。ファイティングポーズだ。
ロボットとは思えない、とても様になった構えである。
膝やつま先、体全体に平均した力を加え、両足を横に広く踏み出す。そして軽く両膝を曲げ、腰を下げて体の重心を低くする。その状態で右足を一歩前へ踏み出す。まさに柔道の右自護体の構えだ。恐らく、佐山は柔道の有段者なのだろう。
陸奥はロボットの、ここまで人間のような構えを見たのは初めてだった。
「佐山さん、柔道の有段者ですか?」
「ええ、五段をいただいています」
やはりそうか。
日頃の鍛錬が、ロボット操縦にも現れるいい例だな。生徒たちにも見せてやりたいものだ。
陸奥がそう考えていた時、遠くから土煙を上げて接近してくる一団が見えた。七台の教習用ロボットである。
「まさか、あいつらか?!」
「あれや!あそこで戦ってるの、陸奥センセと佐山さんや!」
走りながら両津が叫んだ。
「真っ赤なボディに白文字でレスキュー!カッコいいぜ!まるで俺みたいだ!」
「あんたのボディ、真っ赤じゃないでしょ!」
奈々のツッコミに正雄がニヤリと笑う。
「泉崎くんは、俺のボディを見たことがあるのかい?ベイビー」
「あんたじゃなくてロボットのボディ!コバヤシマルのよ!」
「ヒガシマルのうどんスープは絶品だぜ」
「それはお醤油屋さん!あんたのロボットはコバヤシマル!」
「俺は棚倉だ、コバヤシって誰だい?ベイビー」
「あんたジョニーなんじゃなかったの?!」
「俺はマイトガイさ!」
「うきーっ!」
そんな会話が聞こえていないかのように、奈央がポツリとつぶやく。
「でも、苦戦しているように見えますわ」
「ホントですぅ」
「奈々ちゃん、陸奥教官だいじょうぶかなぁ」
全員が陸奥と佐山の戦いに目をこらした。
「本当ね。頑張ってよけてるけど、当ったら大変なことになりそうね」
「ああ、ヒトガタのバワーは強力だ。レスキューロボなら、多分一撃で廃車になる可能性もあるぜ」
ロボットマニアの正雄の言葉には信憑性がある。一同は一瞬息を呑んだ。
「はよ行こ!石でもなんでも投げて、加勢せんと!」
「そうだぜ」
「そうですわ」
「了解ですぅ」
「私も頑張るよ、奈々ちゃん!」
「ひかりは暴走しないように気をつけるのよ」
「確かに、ここで暴走ロボが二台に増えるなんて悪夢や」
「ひどいよ奈々ちゃ〜ん」
「ヒトガタの解析が終わりました!」
夕梨花と後藤のキドロに、指揮車にいる美紀の声が無線で届く。
「メインディスプレイに表示します」
美紀がコンソールのデバイスをいくつかタップすると、キドロのディスプレイにヒトガタの設計図が浮かんだ。
「おい、点滅が二つあるじゃねぇか」
後藤がいぶかしげにつぶやく。
「そうなんです。ヒトガタのコントロールモジュールは二カ所。トラブルを予想して、予備のモジュールが積まれています」
「ぜいたくなこった」
呆れたような後藤の言葉を無視して、夕梨花が美紀に問いかけた。
「ということは、この両方を破壊しないと動きは止まらない?」
「その通りです。ひとつは腹部正面。もうひとつは頭部に内蔵されています」
後藤が不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあ俺とお嬢ちゃんでそれぞれひとつずつ、破壊すればいいんじゃねぇか、簡単だぜ」
「そうだといいわね」
二人のキドロは足を早めた。
佐山のレスキューロボは、暴走ヒトガタと相対していた。
いつの間にか、ヒトガタの間合いに入っている。一発くらわされたらひとたまりもないだろう。佐山はすぐに回避コースに入れるよう、左右どちらにでも動けるような体勢をとっている。だが、スピードで劣っているレスキューロボでの100%回避は不可能だ。まさに賭けである。
「佐山さん、今度は私がひきつけます!」
「ありがたい、お願いします!」
陸奥がヒトガタの背後から、その間合いに入った。
それを逃すヒトガタではない。急速に反転し陸奥機に接近、両腕を伸ばして掴みかかって来た。ここで捕まったら終わりである。陸奥も、回避の方向を考える。
「しまった!」
その一瞬にヒトガタは回避できない距離へと迫ったのだ。
その時、バラバラバラとヒトガタに、多くの岩や石が投げつけられた。
生徒たちだ。
「もっと投げるで!」
生徒たちのロボットは片手の腕にいくつもの岩をかかえ、右腕でひとつずつ投げている。
「俺の豪速球、棚倉スペシャルを受けるがいい!」
正雄機は、まるで野球アニメの投手のように左足を高く上げた。地面を押す反動で、その力を投球動作に落とし込み、投げる岩にパワーを預ける。
「いっけーっ!」
まさに豪速球である。
陸奥機に迫っていたヒトガタの顔面に命中。
ガイン!と大きな音が響いた。
「あらまあ、傷もつかないですわ」
「かたいですぅ」
陸奥を追っていたヒトガタの動きが一瞬停止する。
そして、生徒たちの方に顔を向けた。
「まずいで!こっち向きよった」
そして、いきなりダッシュでひかりたちの方へ走り出すヒトガタ。
「みんな!逃げるんだ!」
陸奥の叫びを聞くまでもなく、ひかりたちは散り散りに逃げ始める。
「佐山さん!」
「はい!」
陸奥機と佐山機はその後を追った。




