第76話 対峙
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「陸奥さん!あまり近づいたら危険です!」
陸奥と佐山三等陸佐が乗る二台のレスキューロボが、暴走ヒトガタと対峙していた。
すでにひかりと奈々の姿は無い。試乗中のヒトガタを乗り捨てた二人は、ザキーズに運ばれてきた火星大王とデビルスマイルに乗り換え、避難のために校舎へと向かったのである。
「分かっています。機動隊のキドロならともかく、装甲の薄いレスキューロボではヒトガタの一撃で廃車ですよ」
レスキューロボはキドロと同型のロボットである。だが、安定運用を重視してひと世代前の機体が採用されている。しかも、レスキュー現場での身軽さを考え、その装甲は薄い。機体重量が増せば、おのずから機動力が落ちてしまうためだ。その上、この機体には武器らしいものは何も装備されていなかった。
「機動隊が到着するまで、アイツの間合いに入らないようにして牽制するのがいいと思います!」
「了解!」
生徒たちの機体から、コイツの注意をそらすのには成功した。
後は機動隊の到着を待つばかりだ。
「陸奥さん!佐山さん!」
その時、二人のコクピットに久慈彩香教官の声が入電する。
「機動隊のキドロ二機が到着しました!今そちらへ向かってます!」
ありがたい!
陸奥と佐山の顔に安堵の色が浮かんだ。
「佐山さん、キドロが来るまでアイツをここに足止めしましょう!」
「了解!」
「君ら、何してんねん!」
その頃、南郷のEV率いるひかりと奈々は、現場へ向かおうと走っていた生徒達と出会っていた。
「南郷センセ!俺ら、センセたちを助けに行こう思て」
「俺の棚倉キックが炸裂するぜ!」
「炸裂ならいいですけど、破裂とかしたら危険ですわ」
「はれつって何ですかぁ?」
「それはね愛理ちゃん、とってもひきょうなことだよ」
「それは卑劣!宇奈月さんが言ったのは破裂!」
みんなが揃うとこうなるんやなぁ。
両津はそんな光景をニヤニヤしながら見つめていた。
「キック炸裂て、棚倉くんのキックが通用するほどヒトガタの装甲は薄くないで」
南郷は呆れ顔だ。
「君らのロボットでヒトガタに勝てるわけないんや。さっさと避難するで」
「そんなこと分かってるんです!」
両津が大声で南郷に抗議する。
「分かってるんやったら、さ、避難や」
「別にヒトガタと一戦交えようなんて思もてません。俺らはただ、センセたちが危ない状況なのに、知らんぷりしたくないっちゅーか」
「そうですわ。離れたところからみんなで石投げ攻撃大作戦の予定です」
「それ楽しそ〜!」
ひかりの目が輝く。
「遊びじゃないのよ、ひかり」
奈々の言葉に、その場の一同がデビルスマイルに注目した。
「今ひかりって言うたで」
「あらあら、泉崎さんついにデレてしまったのですね」
「お二人、一線を越えてしまったんですかぁ?」
「俺のことはジョニーと呼んでくれ」
奈々の顔が真っ赤になる。
「デレてなんかないわよ!」
「奈々ちゃん、エアコンの温度設定下げた方がいいよ?」
「暑いんじゃないって言ってるでしょ!」
「じゃあどうして顔が赤いの?奈々ちゃん」
「うぎゅぅ……そんなこと私に言わせないで!」
「やっぱりデレてますわ」
「泉崎先輩、可愛いですぅ」
「うきーっ!」
南郷が肩をすくめた。
「ひかりでもジョニーでもええけど、とにかく避難や」
「ほんなら、みんなは南郷センセと一緒に避難してくれ。でも……やっぱり俺はレスキューロボを補助するのが正しいと思うんや!」
そう叫ぶと両津のなにわエースは、地面を蹴って暴走ヒトガタのいる方向に走り始めた。
「おい!両津!あかんて!」
南郷の声もむなしく、両津は加速する。
「あらあら、仕方がありませんわね。わたくしも行きますわ」
「私もですぅ」
「マリエちゃんはどうする?」
「ひかりが行くなら私も……」
火星大王がデビルスマイルに顔を向ける。
「奈々ちゃんは?」
「……ひかりが行くなら……私も行くわよ」
「あれぇ?奈々ちゃん、また顔が赤くなったよ?エアコンの、」
「大丈夫って言ってるでしょ!」
奈央のコスパが動いた。
「では、お先に失礼しますわ」
ダッシュで両津を追う。
「しょうがねぇなぁ。マイトガイの根性を見せてやるぜ」
「私も根性ですぅ!」
「マリエちゃん、奈々ちゃん、私たちも!」
生徒たちのロボット全機が走り出した。
「しゃーない、俺も行くか」
南郷もEVで後を追った。
「はい……分かりました」
白谷トクボ部長の声が指揮車内で暗く響いた。
現在トクボ部指揮車は、先行している泉崎夕梨花とゴッドこと後藤茂文の乗るキドロを追い、暴走事案の現場へと急いでいた。
「部長、どうでしたか?」
トクボ技術主任の田中美紀が白谷に顔を向ける。
「ヒトガタの図面を使用する許可は下りるだろう、とのことだ」
美紀の顔が明るくなる。
「ただ……」
「ただ?」
「時間がかかるらしい」
「時間て?!」
「3日はかかるそうだ」
そんな!
それでは今回の戦闘に間に合うわけがない。
美紀はキリッと顔を引き締めて白谷を見る。
「防衛省のサーバーをハッキングさせてください」
美紀の目に決意の色が見えた。
その時、指揮車のコンソールに取り付けられている電話に着信した。
「部長!お電話です」
トクボ部員の言葉に、白谷は首を横に振る。
「誰だか分からんが事案の対処中だ、後にしてくれと伝えろ」
「それが……官邸からの緊急回線でつながっているんです」
なんだと?!
指揮車の全員が驚愕した。
「分かった、こちらへ回せ」
白谷は目の前のコンソールにある受話器を持ち上げた。
「もしもし、トクボの白谷ですが……はい……はい、そうです」
指揮車の一同が白谷に注目している。
「なるほど……では、よろしくお願いします」
受話器を下ろす白谷。ゆっくりと顔を上げる。
「相手は名乗らなかった。だが……」
車内に緊張が走る。
「ヒトガタの設計図を、ここへ転送してくれるそうだ」
わっと歓声が上がった。
「受信しました!今、田中主任のコンソールへ送ります!」
指揮車のメインディテスプレイに、複雑な設計図が映し出される。
ヒトガタだ!
コントロールモジュールの位置がハッキリと分かる。
だが、それ以外のほとんどが黒塗りで隠されていた。
「部長……」
「そうだな……ゴッドの言うように、内調がからんでいるのかもしれん」
「でも、使わせてもらいましょう!」
「もちろんだ」
後は泉崎さんとゴッドがなんとかしてくれる!
美紀の心に希望の光がさしていた。




