第75話 出撃
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「遠野!泉崎!」
袴田素粒子の感染で暴走している陸自の軍用ロボット、通称ヒトガタに追いつかれないよう全力で走っているひかり機と奈々機のコクピットに陸奥の声が響いた。無線である。
「教官!私もう暴走してませ〜ん。ヒトガタさんと追いかけっこしてま〜す」
ひかりの呑気な声が返ってくる。
「それは分かっている!」
「奈々ちゃんが止めてくれたんです。親友の友情パワーは暴走も止めちゃうんですよ、すごいでしょ〜、えへへ」
「誰が親友なのよ!」
「サモアの旗あげたし、毎日学食であ〜んしてくれてるよ?奈々ちゃん」
そんな二人の会話に陸奥が割り込んだ。
「その話は後にしなさい。とりあえず両機とも、ここで止まるんだ!」
「でも、止まったらアイツが追いついてきます!」
陸奥の言葉に奈々が反論した。
「大丈夫だ、私と佐山三等陸佐がおとりになってヒトガタを引きつける」
「任せて下さい」
陸奥と佐山の頼もしげな言葉が二人のコクピットに響く。
「奈々ちゃんどうする?」
「ひかりは陸奥教官のこと、信頼してるんでしょ?」
「奈々ちゃん、それ教官に聞かれたら恥ずかしいよ〜」
「聞こえてるぞ」
「あちゃちゃ〜」
「それはともかく泉崎」
「はい?」
「お前いつから遠野のことを下の名前で呼ぶようになったんだ?」
「親友だもん!」
「違うってば!」
そんなやりとりを聞いて、佐山は微笑んでいた。
こんな緊急事態に巻き込まれているっていうのに、本当にこの子たちは。
それに陸奥さんも。
「分かりました教官。ひかり、止まるわよ」
「りょうか〜い」
二機のヒトガタが急制動をかける。
踏ん張った足元から、もうもうと土煙が上がった。
「これからのことを指示する」
陸奥が緊張感のある声音で言った。
「二人にはここで、そのヒトガタを乗り捨ててもらう、そして、」
そこまで言った時、無線に南郷の声が割り込んできた。
「今、教習所の運搬車でザキーズの二人が、君らの火星大王とデビルスマイルをこっちに運んで来とる真っ最中や。二人は乗り慣れた自分のロボで、急いで校舎に避難するんや」
南郷のEVが接近してくるのが見える。
「俺がEVで先導するから、追いてくるんやで!」
なるほど!
奈々もひかりも、そう思いうなづいた。
「ほらあれや。来よった」
南郷の言葉に顔を向けると、巨大なロボット運搬車の上げる土煙が見えた。
「俺はよぉ、飛び道具が好かねぇんだ」
ゴッドこと後藤茂文は、搭乗する機動隊の機動ロボット、キドロの腰にシース(さや)を装備している。中身は軍事ロボット用の巨大なアーミーナイフだ。後藤が長年愛用している自慢の日本製。こいつのおかげで、後藤は幾度も死地をかいくぐってきた。彼にとって、とても頼もしい相棒なのである。
一方泉崎夕梨花のキドロは、彼女が使い慣れたいつもの装備だ。超硬合金製のキドロ専用三段式特殊警棒。そして、連射だけでなく単射機能もある30mmの大口径機関砲だ。
ヒューズ・ヘリコプターズがアパッチ等の軍用ヘリコプターのために開発したM230機関砲を、キドロのために手持ち武器としてカスタムしたものである。弾薬はNATOの標準共通弾である30x113mmBを使用するため、その運用や弾丸の調達が容易だ。もちろん一発あたりの価格も安価である。
「泉崎くん、ゴッド、聞こえているか?」
指揮車の白谷から入電した。
「聞こえています」
「聞こえてるぜ」
二人が同時に答える。
「ロボットの暴走を止める常套手段は、そのコントロールモジュールを破壊することだ。だが、ヒトガタのどの部分にそれがあるのか、軍事機密扱いのため設計図が手に入っていない」
「そりゃそーだよなぁ。そんなものが外に出ちまったら、アイアンゴーレムみたいに粗悪コピーが出回っちまう」
後藤がニヤリと笑った。
「でも、なんとか入手できるよう、今手を尽くしています。手に入ったらお二人のキドロのディスプレイにオーバーレイさせますので、もうしばらくお待ち下さい」
技術主任の田中美紀の声は自信ありげだ。
「問題はまだある」
だが、白谷の声はまだ暗い。
「ヒトガタの装甲は、これまでの軍用ロボットの中でもとびきり頑丈だ。恐らくほとんどの戦車と比べても、だ」
「マジかよ。ってことは、お嬢ちゃんの機関砲でも貫通は難しいってことか?」
「その可能性は高い」
だが今度は夕梨花がニヤリと笑った。
「正面装甲はそうでしょう。でも、全体の装甲を全て同じ強度にすれば、あまりにも重量が増加して機動力が下がります。恐らく上部や下部、搭乗用ハッチなどは装甲が薄いでしょう」
「そこに連射すればなんとかなるってのか?」
「その可能性はあると思う」
「でもよぉ、コントロールモジュール部分は、装甲分厚くしてあるんじゃねぇか?」
「そうね。でも、動きをにぶらせることができれば、コントロールモジュールを破壊できる可能性が増すわ」
「なるほどねぇ。やっぱりお嬢ちゃん大胆だわ」
後藤がへへへと笑った。
「接岸用スロープ、展開完了しました!」
美紀の声が勇ましく響いた。
「ではお嬢ちゃん、出撃しようじゃねぇか」
「了解した」
キドロ二機が護衛艦白龍の甲板を蹴り、埋立地に接岸されているスロープを駆け下りる。
急いでヒトガタの設計図を手に入れないと。
コンソールのキーボードを叩く美紀の指が、激しさを増した。




