第72話 追いかけっこ
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「佐山さん!レスキューロボットの操縦は?」
佐山三等陸佐の無線機から陸奥の声が響いた。
「もちろん、訓練でマスターしています」
すかさず佐山が答える。
「では、私と一緒にあいつらの所へ向かってもらえませんか?暴走ヒトガタの対処は機動隊のキドロに任せるとして、その補助や生徒たちの救助ならレスキューロボでも可能だと思うんです」
「了解、すぐそちらへ向かいます」
そう言うと佐山は、格納庫前広場にいる生徒たちを見渡した。
「聞こえていましたね?私はこれから陸奥さんと一緒に、トクボの補助に向かいます。危険なので、君たちはすぐに校舎へ避難してください。いいですね?」
「了解ですわ」
「同じくですぅ」
奈央と愛理が答えた。
「では」
そう言うと佐山はきびすを返し、レスキューロボットの格納庫へ走り出した。
救助関係のロボットや装備は、こことは違う専用の格納庫にある。佐山と同時に、陸奥もそこへ向かっているはずだ。
「ひかり……心配」
ぽつりと、マリエのつぶやきが聞こえる。
「そうやな。大丈夫やろか?」
「暴走している遠野さんと暴走しているヒトガタって……いったいどうなってしまうのでしょう?」
「泉崎先輩のことも心配ですぅ」
一同押し黙ってしまう。
正雄がスッと顔を上げた。
「なら、俺たちも二人を助けに行かないか?ベイビー」
「軍用ロボットに、俺らの教習用ロボでかなうわけないやん」
両津が苦しげに言う。
「そうですわね」
「困ったですぅ」
そんな皆の顔を、正雄はニヤリとして見回した。
「別に戦って勝とうなんて思ってないさ」
「ほんならどうするんや?」
「さっきも佐山さんと陸奥教官が話してただろ?補助ならできるって」
「ほじょってなんですかぁ?」
「そうやな……みんなで遠くから岩とか投げてぶつけるとか」
「鉄骨とかなら、投げるだけでも威力がありますわ」
「棚倉キックはどうかな?」
両津が首を横に振る。
「近づいたらアカン。俺らは遠くから手助けするんや」
「じゃ、決まりだな」
キラリと正雄の歯が輝いた。
「マリエちゃん、みんなで行こうぜ」
「うん」
マリエは微笑みながらうなづいた。
「奈々ちゃん!あれ、どんどん追いついて来るよ〜!」
その頃奈々とひかりは、暴走ヒトガタからひたすら走って逃げていた。
「いいから頑張って走りなさい!追いつかれたら大変よ!」
奈々から激が飛ぶ。
「でも近づいて来るの、とっても怖いよ〜」
「遠野さん、いつも暴走してすごいスピードで走ってるじゃない!あれよ、あれ!」
「わざとじゃないもん!」
次第に迫ってくる暴走ヒトガタ。
「あれって、今私達が乗ってるロボットと同じ機種よ、そんなに怖がらなくてもいいわ」
「本当?奈々ちゃん。でも……」
「でも?」
「あれって無人なんでしょ?」
「そうよ、暴走してるんだから」
「オバケが操縦してたりして」
「ひぇぇ〜!」
奈々機のスピードが上がった。
「待ってよ奈々ちゃん!追いつけないよ〜」
そんなやりとりのなか、暴走ヒトガタはどんどん加速して来ている。このままではすぐに追いつかれてしまいそうだ。
ひかりのスピードを上げるのに、何かいい方法は無いのか?
奈々はひらめいた。
「遠野さん!もっと速く走れたら、あなたのこと、遠野さんじゃなくて『ひかり』って呼んでもいいわ」
「へ?」
「何度も言わせないでよ、ひかり!」
ばひゅーん!
ひかりのヒトガタがすごい勢いで加速した。
先行していた奈々を追い抜く。
「やればできるじゃない」
やっぱりこの子には才能がある。私が伸ばしてあげたいな。
そんなことを思い、奈々はほんの少し頬を赤く染めた。
「奈々ちゃん、顔が赤いよ?暖房の温度下げた方がいいよ?」
こんな状況でも、ひかりはいつものボケた突っ込みを入れてくる。
絶体絶命の危機のなか、奈々の心に温かいものが広がっていた。
海上自衛隊の護衛艦白龍の甲板には、二機のキドロが立っていた。
海上運搬中に、キドロトランスポーターの荷台から降りたのである。
トクボで採用しているトランスポーターは、陸上自衛隊が戦車の運搬に使用している特大型運搬車に、ガルウィング式の銀色のカバーを取り付けたものだ。全長16.99mにもなる超大型車両だ。こいつにはキドロの補修パーツや手持ち用の様々な武器、予備バッテリーなどが積まれており、一台で小さな要塞ともなり得るシロモノである。
「詳細が分かって来ました」
キドロのコクピットに、指揮車にいる田中美紀技術主任からの無線が入る。
「あのヒトガタは昨日、教習所に到着した三台のうちの一台です」
「防御シールドの起動は?」
夕梨花の問いに美紀が答える。
「シールド起動前に、袴田素粒子に感染したとのこと」
「あの逃げてる二台はどうなってるんだ?」
後藤が首をひねる。
「あの二台は、それぞれここの生徒が操縦しています」
夕梨花が息を呑んだ。
「名前は、遠野ひかり。それから泉崎奈々」
「泉崎だって?」
後藤の声が夕梨花の心に突き刺さる。
「私の妹よ」
奈々がそう言ったその時、美紀の声が大きくなった。
「もうすぐ接岸します!」
「了解!」
夕梨花が決前と言った。




