第70話 ゴッド
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
警視庁機動隊の特科車両隊トクボ部の広い会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
メンバーはトクボ部部長白谷雄三警視長、キドロチーフパイロット泉崎夕梨花警部、酒井弘行理事官と板東保則捜査主任、そしてトクボ部所属の捜査員たちが十二名。
キドロパイロットの沢村泰三と門脇進は出動中である。原宿駅前で違法駐車ロボットが暴走の通報を受け、その対処に出ている。小型の軽ロボット一台のため、チーフの夕梨花はこの会議を優先することになった。
「おいよぉ、いつまで俺とにらめっこしてるつもりなんだ?トクボの皆さんよぉ」
ガタイのいい男が太い声で言った。
軍事ロボット専門の傭兵、後藤茂文だ。
冬だと言うのにモスグリーンのシャツ一枚に下はジーンズ。コートなどの上着は持っていない。バッグらしきものも無く、財布などは恐らくジーンズのポケットに押し込んでいるのだろう。
「私は部長の白谷だ」
トクボ部から、まずは部長が口火を切った。
「こっちはよく知っているだろう。チーフパイロットの泉崎くん。こちらが酒井理事官と板東捜査主任、そしてトクボ部の捜査員たちだ」
後藤は全員を値踏みするように見渡した。ほんの少しニヤけてはいるが、その目つきは恐ろしく鋭い。
「俺は後藤茂文、階級は……警部なんだぜ」
そう言うと彼はジーンズの後ろポケットから、何かを取り出した。
一同が驚愕する。
「ホンモノだよ」
チョコレート色の革製で縦約11センチ、横約7センチ。二つ折りを縦に開くバッジケースタイプのそれは、紛れもなく警察手帳だ。
上側には、後藤の顔写真と名前、階級「トクボ部付警部」などと記されたカード。下側には都道府県警名が組み込まれたエンブレムが付いている。後藤のそれは警視庁のエンブレムである。
「手帳なんて言うからメモ帳が付いてるとばかり思ってたぜ。書くとこねぇんだなぁ」
後藤はのんびりとした口調でそう言うと、警察手帳をふるふると振る。
「2002年の改定で、手帳からこの身分証タイプに変更になったんです」
美紀がまとはずれな説明をする。
いや、今はそこじゃないでしょ。
一同はそう思っていた。
「なぜあなたがそんなものを持っているの?」
ここにいる全員を代表するかのように、夕梨花が後藤に言葉を投げた。
「細かいいきさつは、俺より部長さんの方が知ってるんじゃねぇのか?」
後藤の視線に白谷がうなづく。
「後藤さんとの捜査は、」
「おっと、さん付けはくすぐったいぜ。ゴッドと呼んでくれよ」
「分かった、ゴッドとの共同捜査は、総監から直々に下ってきた命令だ」
会議室の全員が目を見開いた。
総監とは警視総監のことだ。東京を管轄する警視庁のトップだが、各都道府県警のトップは警視監のため、実質日本警察のトップである。
「そこから上は、俺にも分からん」
白谷がフッと息を吐いた。
「まぁそれに関しては、俺だってよく分からんのさ」
後藤がうそぶく。
「何を言ってるんだ?!」
酒井理事官が後藤をにらみつける。
「そこのお嬢ちゃんにも言ったんだがよぉ、俺はクライアントのことをあまり詮索しないことにしてるんだ。金払いさえ良ければ誰だっていいからよぉ」
後藤がニヤリと笑う。
「だがよぉ……今回はちょっと興味が湧いててなぁ。少し探りを入れてみたんだが、ピシャリと情報を探れなくなっちまった」
「どういうこと?」
夕梨花が後藤を見つめる。
「警視総監殿さえ動かせる勢力……。公安や別班にもそれは無理だろ?」
一同がごくりとつばを飲む。
「俺は、内調の仕業じゃねぇかと踏んでる」
「部長のご友人が言っていたのはこのことでは?」
夕梨花の質問に白谷がうなづいた。
「確かに辻褄は合うな」
「お、さすが白谷部長だな。情報通でいらっしゃる」
なぜか後藤は嬉しそうだ。
「あなた、部長の何を知っていると言うのよ?!」
夕梨花の非難の言葉に、後藤は視線を向ける。
「結構知ってるぜ。まぁ機密事項らしいから、ここでは言えねぇ。なぁ部長さんよ」
「その話は後だ。まずは次のテロについて、君が知っている情報を聞かせてくれ」
「もちろんだぜ。そのために敵地に乗り込んできたんだ」
やはり敵地じゃないか。
夕梨花がそう思った時、大会議室に大音響でアラーム音が鳴り響いた。
「何事だ?!」
白谷の言葉に、会議室奥のコンソールに向かっているトクボ部員が答えた。
「ロボットの暴走事案が発生、キドロによる鎮圧の緊急要請が来ています!」
「どこだ?!」
「場所は東京湾の埋立地、都営第6ロボット教習所です!」
部長、そして夕梨花の顔が青ざめる。
「奈々……」
都営第6ロボット教習所には、夕梨花の妹、泉崎奈々が合宿しているのだ。
「機種は分かるか?!」
白谷のその声に、コンソール前の部員が一瞬絶句する。
「そんなことって……」
「どうした?!」
「暴走しているのは、陸自所属の25式人形機甲装備、ヒトガタです!」
会議室の全員が驚愕した。
「沢村と門脇は?!」
「まだ原宿で対処中で、戻るにはあと数時間かかると思います」
美紀が苦しげに白谷を見る。
夕梨花がキッと顔を上げた。
「ゴッド、あなたキドロの操縦は?」
「もちろんだ」
「部長、ゴッドと行かせてください。彼はロボットでの軍事経験があります。陸自のヒトガタとやり合うなら、それが生きるかもしれません」
「お嬢ちゃん、大胆だねぇ」
「予備機の四号ロボのオーバーホールは終わっています!」
美紀がコンソールの画面を見つめて言う。
白谷は一瞬の逡巡の後、命令を下した。
「分かった。泉崎くんとゴッドはキドロで出てくれ。トランスポーターの運転は三国くんと森下くん、田中くんは俺と指揮車だ!」
《了解!》
一同は会議室を駆け出していた。




