第7話 爆発
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。
「そこでカッチョイイ一騎打ちを繰り広げているお二人さ〜ん!」
突然奈々と正雄のコクピットに宇奈月奈央の声が響きわたった。非常用の特別回線を使った通信だ。
「今日の勝負は引き分けってことで、そろそろお開きにしませんか〜?」
だが、そんな言葉に耳を傾ける二人ではなかった。
「まだまだ!勝負はこれからだ!」
「そうよ!ぜ〜〜〜ったいに負けないんだから!」
無線から奈央のあきれた声が響く。
「あらあら、二人とも暴走ロボットを止めるのが目的だったんじゃなかったんですか?その手柄、他の誰かさんに取られてしまいそうですよ」
「!」
驚いて動きを止める奈々と正雄。暴走しているはずのひかり機に目をやる。だが、そこには見慣れないロボットが立っていた。曲線を多用した美しいボディ。日本車ではない。正雄の乗っているアメ車とも全く違ったデザインだ。
「あれって、ヨーロッパ車じゃねぇか。高そ〜!」
正雄が口笛を吹く。
そのロボットは所長室のある校舎の前にすっくと立っていた。いや、それだけではない。その右腕で、さっきまで暴走していたひかり機を持ち上げているのだ。ひかり機はジタバタと暴れている。
「さかさまだよ〜!わたしどうすればいいの〜!」
制服のスカートを押さえて悲鳴を上げるひかり。無線機のスピーカーから陸奥の怒鳴り声が響いた。
「遠野!エンジンを切ればいいんだ!」
「あ、そ〜か」
ひかりは左手でスカートを押さえたまま右手を伸ばし、イグニションキーを左に回した。 プスプス……プスン。ひかりのロボットから急に力が抜け、ヨーロッパ車に持ち上げられたまま手足をだらりとさせて停止した。ゆっくりと地面に下ろす。
ひかり機が激突直前にまで迫っていた校舎から、多数の生徒達の拍手が響きわたった。逃げる間もなく破壊の悲劇に巻き込まれかけた彼らにとって、突然現れたヨーロッパ車はヒーローなのだ。
「宇奈月さん、あれって誰だか知ってる?」
奈々にとっては寝耳に水の事態だった。A級ライセンスコースで成績トップの彼女でさえ止めることができなかった暴走ロボットを、いとも簡単に宙づりにしてしまったのだから。
「さぁ……私は存じ上げません。愛理ちゃんはどうですか?」
「私も知りませ〜ん」
「俺と同じ新入りってわけか。こんなアジアのさいはてに、二人も凄腕のライバルがいたとはな」
正雄機はゆっくりと近くの格納庫にもたれかかった。ふところから葉巻を取り出し、ジッボーで火を付ける……ような動作をする。
「あんた、何やってんの?」
奈々がいぶかしがるように聞いた。
「ひと暴れした後の葉巻はうまいんだ。腹の底まで染みわたるゼ」
「高校生が葉巻なんか吸ってどうするのよ!」
そんな問題ではない。なにしろ吸っている……いや、吸っている格好をしているのは正雄ではなく正雄の乗ったロボットなのだ。本当なら奈々はそこを突っ込むべきだった。
「センセ、なんやこの格納庫、ミシミシ言うてますよ?」
「ホンマやな……何か変な圧力でもかかってるような……」
正雄機がよりかかったのは南郷と両津がいる格納庫だった。
「センセ!か、壁が!」
予算削減のためプレハブ工法で建てられたその格納庫は、正雄機の重量を支えるには少々強度が足りなかった。
「うわっ!どうして俺は傾いて行くんだ?」
壁を突き破って格納庫の中に倒れ込んでくる正雄機。その先には真っ赤に発熱した例の失敗作が突っ立っている。
「あ、あかん!両津君、逃げるんや!」
「そんなこと急に言われても!」
どっかぁぁ〜〜〜〜ん!
正雄機がその赤い物体に触れた途端、南郷が言ったとおりに……爆発した。