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第68話 HSN

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「陸奥さん、俺が追っかけてなんとかするわ!」

 南郷はそう叫ぶと、教習所内移動用のEVが停められている車庫へと走り出した。

 その時、陸奥の携帯端末から久慈の声が響く。

「陸奥教官、今すぐこちらへ戻ってください」

「何かあったのか?」

「それはこちらで説明します。できるだけ急いで」

「分かった」

 陸奥は通信を切ると、皆の顔を見渡した。

「俺は教室へ戻る。後のことは南郷さんがなんとかしてくれるはずだ」

 ほんまかなぁ、と両津がつぶやく。

「佐山さん、面倒なことになってすいません」

「いえ。ヒトガタと、あの二人のポテンシャルが見られて、なかなかの収穫です」

「後はお願いします」

「分かりました。南郷さんが戻られたら、一緒に対処します」

 きびすを返し、陸奥は校舎へと急いだ。


「奈々ちゃん止めて〜!」

 自衛隊から都営第6ロボット教習所に貸与されたばかりの新型軍用ロボット、25式人形機甲装備、通称ヒトガタは暴走を続けていた。乗っているのは例によって遠野ひかりである。

「待ちなさいってば!」

 後を追っているのもヒトガタだ。パイロットはひかりの親友、ひかりによるとだが、泉崎奈々だ。

 ひかりのヒトガタがS字カーブに突っ込む。カーブを作っている柵が目に入らないように、バタバタと全てを倒して一直線に走り抜ける。

「いつもどおりだぜ」

「相変わらずむちゃくちゃやなぁ」

 遠目で見物している正雄と両津は呆れ顔だ。

「でも、新型の軍用ロボットを見事に乗りこなしていますわ」

「遠野先輩も泉崎先輩もすごいですぅ」

 奈央と愛理は感心しているようだ。

「いやいや、遠野さんは乗りこなしてないやろ」

「俺が故郷のミネソタでやっていたPBRを思い出すぜ」

「故郷って、棚倉くん日本生まれやん」

「PBRってなんですかぁ?」

「ロデオの競技さ」

 PBR(Professional Bull Riders)は、数あるロデオ種目の中でも最も危険度が高いと言われている。しかし1試合ごとの賞金が高額なため、多くのブルライダー(ロデオ競技者)や、その見ごたえから観戦ファンにも、とても支持されている種目だ。

「ジョニー、カウボーイさんでもあったのですね」

「棚倉先輩、牛さんなんですかぁ?」

 奈央と愛理も通常運転である。

「みなさん、あわてたりしないのですね」

 ヒトガタの試乗に立ち会いに来ている佐山が皆を見渡した。

 彼は陸上自衛隊東部方面隊機甲科人形機甲装備部隊所属の三等陸佐だ。

「そうなんですわ。遠野さん、毎日暴走しとりますから」

「泉崎先輩も、毎日追っかけてるですぅ」

「しかし南郷さん、どうやって二人を止めるんでしょうね」

 二台のヒトガタに目を戻して、佐山がそう言った。


 ガシンガシンと地響きを立てて、ひかりのヒトガタが爆走する。それを追うが、なかなか追いつけずにいる奈々のヒトガタ。

 ひかり機が坂道発進の教習エリアに入る。

 急な上り坂に、その速度が少し落ちた。

「もらった!」

 奈々機がジャンプ、ひかり機に後ろから抱きつく。両腕で締め上げ、動きを封じようとする奈々機。

「奈々ちゃん、痛いよ〜!」

「遠野さんが痛いわけないでしょ!」

 ジタバタと暴れるひかり機。

「遠野さん落ち着いて!いつも陸奥教官が言ってるでしょ、エンジンを切ればいいのよ、エンジンを!」

「あ、そうだった」

 ひかりは火星大王の暴走を止める時と同様に、イグニッションキーの位置に右手を伸ばす。

「あれれ?キーが無いよ、奈々ちゃん」

 しまった!

 奈々が舌打ちをする。

 キドロと同じく、この機体のエンジン停止ボタンはまた別の場所にあるのだ。

 だが、場所の説明が難しい。

「イグニッションキーの場所にあるのは始動ボタンよ!停止ボタンは左側!」

「分かんないよ〜、奈々ちゃん」

 あせると余計にボタンが見つけられない。

「あと、始動ボタンはもう押しちゃダメよ!」

 始動ボタンの二度押し、三度押しは、エンジンの出力を上げるターボ機能を発動させるのだ。

「ひぇぇ〜!もう押しちゃったよ〜!」

 グガン!と轟音を立て、ひかり機が奈々機の拘束を払いのけた。

「きゃっ!」

 跳ね飛ばされて倒れそうになる奈々機だが、最新のオートバランサーが起動して難を逃れる。

「奈々ちゃん、ごめ〜ん!」

 そう叫んだひかりは、坂道発進エリアの下り坂を猛烈なスピードで下って行った。


「何があった?」

 校舎地下に作られた指揮所の扉がスライドし、陸奥が走り込んで来た。

 対袴田素粒子防衛線中央指揮所、それがこの部屋の正式名称である。

「ちょっと大変なことになってね」

 雄物川所長が重苦しい声で答えた。

 広い指揮所の中では、多くの所員が忙しそうに動いている。

「これを見てちょうだい」

 久慈が壁のディスプレイを指差す。

 そこには地球と、それをすっぽりと覆う網のようなものが表示されている。その一部分、まさに日本の上空だけが赤く点滅していた。

「まさか?!」

「そのまさかだ。HSNが破られた」

 陸奥の顔が驚愕にゆがむ。

 HSNとは、袴田素粒子防御シールドSatellite Networkの略称だ。衛星携帯電話用に張り巡らされた衛星ネットワークを利用して、地球全体を覆う防御シールドを展開している。

「ISSからの連絡だと、シールド発生機を新型に交換するほんの数秒を、ピンポイントで狙われたらしいの」

「やはり、袴田教授の説が正しかったのですね」

「そうだな、これは、」

 雄物川は一拍置いて言った。

「侵略だ」

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