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第67話 国際宇宙ステーション

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「愛菜、今日は日本の上を通過するんじゃなかったっけ?」

 背の高いアメリカ人男性が、日本人女性にそう言った。

 宇宙物理学者のダン・ジョンソンだ。ちょっとくせのある茶色の髪と、澄んだ青色の目がさわやかな青年科学者である。

「あっという間だから、思い出した時にはもう通り過ぎていたわ」

 素粒子物理学者の伊南村愛菜はちょっと笑いながらダンを見返した。

 国際宇宙ステーションの速度は、なんと秒速約7.7km。時速に直すと約28,000kmとなる。地球を約90分で1周し、1日あたり約16回もまわり続けている。分かりやすく言えば、東京・大阪間が約1分。あっという間に日本列島の上を通り過ぎてしまう。

「ランチを何にするか、選んでいたからね。愛菜にとって食事が一番大切な時間だから」

 そう言って金髪の青年が笑った。フランスの宇宙生物学者レオ・ロベールだ。その緑の瞳が楽しげに揺れている。

 三人はプロジェクトルームでランチの真っ最中だ。

 全員同じブルーの作業着のようなジャンプスーツ姿で、それぞれ今日の気分に合った宇宙食を楽しんでいる。

 ダンはハンバーガー。パッケージに「宇宙ソース付き!」と言うよく分からない言葉が踊っている。

 レオはクロックムッシュ。彼のランチは毎日変わらない。子供の頃から昼といえば、母特製のクロックムッシュと決まっていたらしい。

 そして愛菜のランチはおにぎりである。具はシャケと南高梅。

 各国は宇宙食でも、威信をかけた戦いを繰り広げていた。その国の有名料理を投入し、乗組員にもマスコミにもアピールしているのだ。

「しかしフランス人のランチはいつもそれかい?よく飽きないなぁ」

「よく言うよ。アメリカ人だって、いつでもハンバーガーじゃないか」

「いやいや、ホットドッグの日もあるぜ」

 不毛な論争だなぁ。

 愛菜は苦笑しながら、おにぎりを頬張っている。

 やっぱりシャケのおにぎり最高。

 口内に広がる少し塩気のきいたその味に、愛菜は少々ニヤけてきた。

「ほら見ろ。愛菜は食事の時に一番いい顔をする」

「確かに」

 ダンとレオが笑った。

 現在の国際宇宙ステーションは初代とは様変わりしていた。そのサイズも約四倍となり、サッカー場約四面分ものソーラーパネルを備えている。その下側には巨大な筒状の建造物が三本ある。初代と最も違っているのは、この居住棟にはセントリフュージ技術によって人口重力が発生しており、地上とあまり変わらない環境での生活や実験が可能となっていることだろう。

 セントリフュージとは、建造物自体を回転させ、遠心力を発生させることによって疑似重力を発生させるものだ。実際NASAは、初代のISS(国際宇宙ステーション)でも、このアイデアを採用する予定だったが、予算の都合もあり見送られたという。ちなみに本来のセントリフュージの意味は遠心分離機のことである。

「ところで」

 愛菜が二人に向き直る。

「シールド発生機の交換作業って、順調にいってるの?」

「ちょっと遅れてるかな。とにかく数が多いからね」

 ダンが肩をすくめた。

「地球全体をカバーするんだから、それは仕方ないよ」

 衛星携帯電話をご存知だろうか。例えば日本で利用することができる衛星電話サービスは主に4種類、インマルサット、ワイドスター、スラーヤ、イリジウムだ。それぞれ人工衛星の特性や対応端末の違いによって、利用エリアや機能が異なっている。

 例えばインマルサットは静止衛星なので、数少ない衛星で広いエリアをカバーすることができる。たが、北極や南極などの極地はカバーできない弱点を持っている。それに対してイリジウムのような周回衛星の場合は完全に全世界をカバー可能だ。ユーザーはそれぞれの特徴を知り、使い分けることが大切なのだ。

「まあ、宇宙での作業だからマスコミにバレる心配が無いのはありがたいけどね」

 ダンがハンバーガーの最後の一口を飲み込んで言った。

 実はまだ世間には知られていないが、ISSにはこれらの衛星を使った全く違ったミッションが与えられていた。

 各衛星には東郷大学袴田研究室が開発した袴田素粒子防御シールド発生機が装備されている。各社の衛星を利用しネットワークを組むことで、地球全体を防御シールドですっぽりと包んでいるのだ。その管理運営もISSの、というよりこの三人の仕事なのである。

「システムはほぼ完成してるし、そろそろ世界に公表するらしいぜ」

 ダンの言葉に、レオと愛菜はため息をつく。

「そうなったら、もっと人員を増やしてもらえるかしら」

「やっぱり三人は少ないよなぁ」

 現在の彼らのミッションは、衛星搭載型防御シールド発生機の全てを最新型にアップデートすることだ。作業自体は、複数の無人衛星管理ドローンが同時に進めてくれるので、彼らはそれを管理するだけでいい。だが機密事項のため、ISSの他の乗組員にお願いするわけにもいかない。そして何かが起こった場合のことを考えると、精神的に疲れてしまうのだ。

「ボク、日本に行った時にコンビニでおにぎり食べたんだけど、とてもおいしかったよ」

「あら、この宇宙食作ってるのも大手コンビニチェーンよ。予備もあるし、ひとつ食べてみる?」

 レオの言葉に、愛菜がボックスからもうひとつおにぎりを取り出した。

「そりゃずるいぜ。だったら俺にも食わせてくれよ」

 駄々をこねるようなダンの声に、愛菜は微笑んだ。

「しょうがないわね。ひとつずつあげるから、あなたたちも何か私にちょうだいね」

「オッケー!」

「ダコール!」

 愛菜はおかかをダンに、ツナマヨをレオに手渡す。

「センキュー!」

「メルシー!」

 その時、プロジェクトルームにアラーム音が響いた。

 コンピュータの無感情な声が流れる。

「袴田素粒子反応、検知しました」

 あわててコンソールをタップする愛菜。

「どこ?!」

 ディスプレイに、日本上空のひとつの衛星が映し出された。アラーム音とリンクして、その上のオーバーレイが赤く点滅している。

「交換中の数秒を狙われた?!」

 ダンが驚きの声をあげた。

「衛星が感染したのか?」

 レオの質問にコンピュータが答える。

「いいえ。作業用ドローンが感染したようです」

「ちょっと待って。ドローンが感染したってことは、他の衛星もドローンで破壊できるってことじゃないの?!」

「そうです」

 コンピュータの声が非情にそう告げた。

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