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第66話 隅田川テラス

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「今日も寒いねぇ」

 男が独り言をつぶやいた。

 浅草の蔵前橋から階段を少し下りると、隅田川の河川敷に作られた遊歩道、隅田川テラスだ。ここには隅田川の歴史が分かる案内があったり、江戸時代の隅田川の様子が分かる歴史資料が紹介されてる。この地を学びながら散歩できると評判のスポットなのである。また川の方も、屋形船の船着場があったり、クルーズ船や水上バスなどが行き交う賑やかな場所でもあった。また、ここを歩いていると、スカイツリーや某ビール会社本社の金色のビル、そしてフラムドールと呼ばれる黄金の炎のオブジェを臨むことができる。

 そんな遊歩道ということもあり、この場所は平日の昼間でも人通りがとても多い。

 ランニングをする者、愛犬の散歩をする者、外国人観光客の姿も見える。

「木を隠すなら森の中、ってことかねぇ」

 男は遊歩道に数多く設置されている石造りのベンチに座っていた。

 後藤茂文である。

 寒いとつぶやくだけあって、長袖ではあるが上はモスグリーンのシャツ一枚だ。コートは着ていない。荷物は特に持っていないようで、財布などは全てズボンのポケットに入れているようだ。

 その時、通りすがりの男が後藤が座るベンチの逆の端に座った。

 歳は60代だろうか。長年勤めた会社を定年退職してすでに年金生活。こうして平日の昼間に隅田川テラスをのんびり散歩するのが日課、という風ていだ。くたびれた水色チェックのシャツに、ファストファッションの薄手のダウンをはおっている。

「ゴッドさんですね」

 その男は、早くも遅くもない、実にナチュラルなテンポで後藤に話しかけた。

「そうだぜ」

 男は後藤の方に目を向けず、キラキラときらめく隅田川の水面を見つめている。

「テロの情報、ありがとうございました」

「まぁ、仕事だからなぁ」

 後藤がうそぶくようにそう言う。

「それにしても渋谷の一件には、私どもも少し驚きましたよ」

「俺もさ」

「あなたがアチラ側に寝返ったのではないか、と言う者もおりまして」

 後藤がフッと笑った。

「ああいう組織にいると、引っ込みがつかなくなることもあるんだよなぁ」

「断ったら怪しまれると?」

「そんなところだ。まあ、最低限の被害にしといたから、大したお咎めはないだろ」

 今度は男が少し笑う。

「恐らく」

 後藤はこの男が所属する組織からの依頼で、国際テロ組織「黒き殉教者」に潜入していたのだ。潜入捜査で最も大事なのは、相手に信用させること。それが無理ならば重要な情報はつかめない。そのために渋谷で、大立ち回りを演じたのである。

「あとさぁ、あんたらの言う通り、キドロのチーフパイロットと接触したぜ」

 後藤は気のないような口調でそう言うと、足元の小石をひとつ拾って隅田川に放り投げた。ポチャンと小さな水音がする。

「聞いています」

 男は平然とそう言った。

「へぇ、あんたら機動隊からも情報を取ってるのかぁ」

「まあそんなところです」

 後藤が、またひとつ小石を隅田川に投げた。

「ほんでよぉ、お嬢ちゃんがあんたらのことを気にしていたぜ」

「ほう、どんな風にですか?」

 ニヤリと笑う後藤。

「公安なのか、別班なのかって」

「なるほど」

「俺はさぁ、雇い主のことを詮索するのはあまり好きじゃないんだけどよぉ、お嬢ちゃんの言葉でちょっとばかり気になってしまってなぁ」

 後藤の笑顔に好奇心が混じっている。

「俺をあんたらに紹介したのは、俺が以前ODAで関わった外務省の人間だよな?」

 ODAとは政府開発援助(Official Development Assistance)の略称だ。開発途上国の経済や社会の発展、国民の福祉向上などに協力するために行われる、政府または政府の実施機関が提供する資金や技術協力のことである。後藤は以前、ロボットによるインフラの建設や、相手国の要人警護を担当したことがあった。

「でもよぉ、あんたら外務省って感じじゃないんだよなぁ。どう見ても高級官僚じゃない。俺と同じプロの臭いがプンプンしてる」

 後藤の笑顔が増す。

「そうですね……名乗るわけにはいきませんが、公安とはあまり仲が良いとは言えません。特に外事四課とは」

「へぇ」

「別班とは……まあ、協力することは無くもないです」

「なるほどねぇ」

 しばしの沈黙が訪れる。流れる隅田川の水音と、ジョギングをしているカップルの足音だけが響いている。

「まぁ、答えなくていいんだけどよぉ……」

 後藤の目がギラリと鋭くなった。

「あんたら内調じゃねぇのか?」

 男の表情は全く変わらない。

「しかも公安の外事四課と仲悪いってことは、内調の国際テロ情報集約室ってあたりかもなぁ」

 内調とは、内閣情報調査室(CIRO:サイロ)のことである。内閣に置かれている内閣官房に属する情報機関で、日本のCIAと呼ばれることもある。

「それぐらいにしておいてください」

 男が初めてフッと笑った。

「まぁいいけどよぉ。ところで、俺はこれからどうすればいいんだ?」

「機動隊のロボットチームと行動を共にしていただければと」

「俺がか?」

 驚きを隠さずに後藤は男の方を向いた。

「もう根回しは済んでいます。いつどこで加わるかは、また追って連絡します」

「たまげたねぇ。でもよぉ、どうしてそんなに機動隊にこだわるんだぁ?」

 男は一拍置いて話し始めた。

「我々は表立って動くことはできません。自衛隊の防衛出動や治安出動は、時間がかかる上に国会の承認が必要です。なので、いざと言う時に即座にキドロを出せるトクボとつながっておきたい、というわけです」

「ふむ。まぁ他にも俺に話せない理由がありそうだけどねぇ」

「そんなものはありませんよ」

 男は後藤にニッコリと笑顔を向けた。

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