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第63話 ジョギング

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 深夜の二時ともなると、広い公園に人通りは無い。冷たい冬の風にざわめく葉擦れの音が夕梨花を包んでいる。緑の木々を通り抜けてくる風が頬に心地良い。あんなににぎやかだった秋の虫たちは鳴りを潜め、わずかにカネタタキの「チッチッチッ」という声だけが聞こえていた。

 泉崎夕梨花はジョギング中である。トクボ勤務の終了が何時であっても、この公園を走ることは欠かさない。常に体力の向上を計ることは、キドロパイロットにとって当然の日課なのだ。

 深夜の木場公園は闇に包まれていた。24.2haヘクタールのほとんどが、漆黒のベールの中だ。だが二十四時間開園されたままのここには、必要最小限の街灯が灯っている。暗視能力に優れた夕梨花にとってこの闇は、気にもとめない些事でしかない。しかもジョギングコースとなっている3.5キロの外周歩道には、0.1キロごとにフラッシュするマーカーが埋め込まれている。そのおかげで、その日の体調によってペース配分を変えることも容易だ。

 多目的広場からテニスコートの横を走り抜ける。もちろん営業時間外のテニスコートの照明は落ちている。そのまま一度公道へ出て、末広橋で川を越える。再び公園内に戻るとそこにはイベント池が待っていた。

 江戸時代からこの地は木材産業で大いに栄えた。山間から切り出した木材でイカダを組み、川を流して木材を運ぶ。その到着地が木場で、運んだ木材の集積場が多く存在していた。その思い出のようにイベント池には、当時のように木材が浮かべられている。

 突然、夕梨花の足が止まる。

 殺気?

 違う。だが、何者かの気配が夕梨花の後ろに突然現れた。

「誰?」

 振り向かずに夕梨花が問う。

「俺だよ」

 その声には聞き覚えがあった。

「後藤?」

「ゴッドと呼んでくれよ」

 後藤は不敵にフフッと笑った。

 すかさず振り向く夕梨花。同時にフランスのスポーツメーカー「ルコックスポルティフ」のウィンドブレーカーに隠されていた拳銃を抜いて構える。照準は後藤の眉間だ。

 イタリアの老舗ガンメーカー、ベレッタのM92FSバーテックモデル。アメリカ軍でも正式採用されているベレッタM92の発展型だ。全長を短くし、フレーム前方下部にレールを装備して、スポットライトなどを装着できるように改良されている。9mmパラべラム弾を15発装填できるスグレモノで、日本ではSITなどの装備となっている。

「物騒だな、お嬢ちゃん。深夜の公園とはいえ、街なかだぜ」

 後藤はひるむ様子もなく、両手を肩のあたりまで上げてニヤニヤしている。

「どうしてここに?」

 夕梨花の質問は端的だった。

「お嬢ちゃんに会うためさ」

「なぜ私がここにいることが分かった?」

「そんなこたぁどうでもいいだろ」

 投げやりに言う後藤。

「どうでも良くない」

 夕梨花の拳銃は後藤を狙ってピクリとも動かない。

「まあ、今のクライアント、雇い主が教えてくれたんだよ」

 私のスケジュールを把握しているのは警察だ。

 まさか、内部からの情報漏えいか?

 夕梨花の頭に疑念が浮かんだ。

「そのクライアントとは誰だ?」

「言えねぇなあ。でも、」

 後藤はひと息つくと、驚愕の言葉を放った。

「今はそっち側の組織に雇われてるんだぜ」

「なに?!」

 夕梨花は後藤を問いただす。

「公安か?!それとも……別班?!」

「それは俺が考えることじゃねぇ。俺は傭兵だ。相手が誰であろうと、金を払ってくれるところのお手伝いってわけだ」

「話す気は無いんだな」

「ああ」

 二人の間を寒々とした風が吹き抜ける。

「分かった。では、私に何の用だ?」

 ここからが本題だ、とばかりに後藤の顔から笑みが消えた。

「おたくの部長さんにつないでもらいてぇことがあってな。白谷とか言ったか?」

 どこまでこちらのことが知られているんだ?!

 夕梨花は内心驚愕していた。

「俺の雇い主は表立って動けないらしいのさ。まぁ法律の話は、イマイチ俺には分からねぇけどよ」

 後藤が再びのんきな顔になる。

「あんたら機動隊はキドロで機関砲ぶっ放すだけじゃなくて、ちゃんと捜査権も持っているんだろ?」

 後藤の言う通りだ。2000年代の初頭から、機動隊は警視庁の捜査活動の補助や、遊撃捜査活動、パトカーによる機動警察活動等の多角的な運用が可能となっている。つまり、刑事のような捜査も可能なのである。

「だからどうした?」

 夕梨花の問いに、再びニヤリと後藤が笑った。

「俺たちと一緒に、テロを未然に防ごうってことだ」

 夕梨花の目が大きく見開かれる。

「そんな情報を持っているのか?!」

「もちろんだ」

「だが……我々警察がテロリストに手を貸すわけにはいかない」

 夕梨花の声には少しの迷いがうかがえる。

「ちょっと待ってくれ。俺は傭兵であって、テロリストじゃないぜ」

「何を言っている!」

「どこかのテロに俺が関わった証拠があるのか?」

 夕梨花は無言になる。

「この前の渋谷にしても、店の営業妨害とあんたらのトラックを撃っただけだ。逮捕されたとしても、よくて威力業務妨害と器物破損程度の微罪じゃねぇか」

 フッと笑う後藤。くっとそれを睨む夕梨花。

「だいいち、俺が本当に後藤茂文かどうかも分からんだろ?本当の後藤はダスクの砂漠で、とっくにおっ死んでるかもしれねぇぜ」

 確かにそうである。夕梨花たちには、まだ彼の情報は探れていないのだ。しかも、すでに戸籍上死亡している彼を、指名手配することすら不可能なのが現状だ。

 夕梨花がゆっくりとベレッタM92FSを降ろしていく。

「話を聞いてくれる気になったか?お嬢ちゃん」

「その前に、そのお嬢ちゃんて言うの、やめてくれない」

「まあいいじゃねぇか、お嬢ちゃん」

 後藤が少し楽しげにそう言った。

「まず、どんなテロが計画されているの?」

 後藤の目が、途端に真剣になった。

「袴田素粒子を無差別にばらまくテロだ」

 夕梨花は自分の顔が青ざめていくのを感じていた。

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