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第60話 砂漠

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 強烈な日差しが、三台のロボットをジリジリと焦がしていた。

 ダスク共和国南側に広がる広大なジガ砂漠。日が高い日中の気温は40度を越えている。我々が想像する砂漠は砂に覆われているが、ジガは岩石砂漠だ。その地表には大小様々な岩石や砂礫、粘土などが露出している。時にその巨大な岩は、まるで山や谷の様相を見せてくる。二足歩行のロボットでさえ、簡単に走破できる場所ではなかった。

「あっちいな」

 後藤茂文の額から大粒の汗が落ちる。ポタポタと落下したそれは、迷彩柄のズボンのヒザに染み込んでいく。

 歩いている三台のロボットは同型だった。ロボットの製造には各国政府の認可が必要だが、ブラックドワーフと呼ばれるこいつは、どこからも製造の許可を得ていない闇ロボットである。軍用でも自家用でもないそれは、主に格闘戦に用いられることが多かった。

「この国はいつでも蒸し上がっているのさ」

 後藤機に男の太い声が入電する。この国の政府に反旗をひるがえしている反政府組織シャンバラの兵士、バータルだ。年齢は30代なかばの後藤と、あまり変わらないように見える。筋肉が盛り上がるガタイの良い男だ。

「ブラックドワーフのエアコンがポンコツなんじゃねーのか?」

 もう一台のパイロット、バータルと同じ組織の兵士ボルドが悪態をついた。こちらも、あまり年齢は変わらない。だがバータルとは違い細めの体形をしている。そのカラダを鋼のような筋肉がギュッと締め上げ、鋭い刃物を思わせた。

「ちげーねぇ」

 後藤も同意する。闇ロボットはその全てを、いちから設計されるわけではない。可能な限り有り物の部品を利用してコストカットされている。ブラックドワーフのエアコンは、中古の自動車用エアコンを無理矢理に装備したものだ。

「どうせなら日本車のエアコン付きが良かったぜ」

「そんな上物、滅多におめにかかれねーさ」

 後藤の悪態に、バータルが笑った。

「ところでよぉ」

 ボルドが言う。

「日本人がどうしてこんな所で、俺達に手を貸しているんだ?」

「そうだなぁ、ゴッドさんよぉ、そのあたりのこと聞いておいたほうがいいかもなぁ」

 バータルもボルドの質問に乗ってきた。

 蒸し暑いブラックドワーフのコクピットで、後藤がニヤリと笑う。

「別にあんたらの思想や価値観に共鳴してるわけじゃない」

「ほう」

「じゃあどうしてだ?」

「傭兵だからね」

「なるほど、金のためってことか」

「正解だ」

「それが一番信用できるぜ」

 バータルとボルドが同時に笑った。

「おっと、止まれ」

 ボルドの声にわずかに緊張がこもっている。

「見えたぞ」

 ボルド機が大岩に身を隠すようにして、その先を指差している。

 そこには一つの移動式住居が建っていた。モンゴル語でゲル、中国語でパオと呼ばれる遊牧民の建造物だ。円形で、中心の2本の柱によって支えられている。屋根として中心から放射状に梁が渡されており、ここに布やヒツジの毛でつくったフェルトをかぶせて完成する。ゲルは家族構成によって様々な大きさが作られるが、今見えているのはふた家族程度用のあまり大きくないものだった。

「見張りは?」

 後藤の問いかけに、ボルドがカメラをズームアップする。

「二台だ。機種は……ありゃガーゴイルだな」

 ガーゴイルはブラックドワーフと同様の闇ロボットである。ロボット犯罪に使われることの多い、やはり近接格闘用の機体だ。

「二台だけか?」

「そうだな……あのサイズのゲルにロボットは入らないだろう。恐らく今見えている二台だけだと思うぜ」

 ボルドの言葉に後藤とバータルがうなづく。

「俺とボルドが見張りをぶっ潰す。その間にゴッドはゲルに突入してくれ」

「了解、いっちょやりますか」

 ボルド機とバータル機が、腰に装備していた巨大なピッケルを外し、その柄を右マニピュレーターでぐっと握った。

「三、二、一、ゴー!」

 巨岩の陰から飛び出す二台のブラックドワーフ。バータルとボルドだ。

 ゲルの入り口左右に立つ見張りのガーゴイルに突進する。

 一拍置いて、後藤機も飛び出してダッシュをかける。

 ガキン!バータルとボルドが見張り機に到達、巨大ピッケルで殴りかかった。それを鉄骨のような棍棒で受け止める見張り機。

 そのスキにゲルの入り口へと向かう後藤機。急ブレーキをかけ、その直前で停止する。右のアームで、入り口のフェルトを持ち上げて中の様子をうかがう。

 敵の姿は無い。

 ゲルの中はひどい有様だった。むき出しの地面に、わずかばかりの藁がばらまかれている。入り口すぐには頑丈そうな鉄格子。衛生状態の悪さから、耐え難い悪臭が充満している。

 そこには五人の子供たちがいた。バラツキはあるが、恐らく全員小学生ほどの男の子だ。

「今出してやる。鉄格子から離れろ!」

 後藤の声がブラックドワーフの外部スピーカーから響く。ダスク語だ。急いでゲルの奥まで下がる子供たち。

 後藤機は腰に装備したシースから、巨大なアーミーナイフを抜いた。後藤自慢の日本製だ。それを鉄格子に叩きつける。

 グワン!と轟音が響き、鉄格子はあっさり切り裂かれていた。

「コマンド、聞こえるか?!」

 後藤の呼びかけに無線が返答する。

「聞こえている。状況は?」

「子供たちを五人確保。移送用のヘリをよこしてくれ」

「了解」

 ダスク共和国では人身売買が横行していた。しかも、今回のように腐敗した政府の役人が主導していることも多い。後藤とシャンバラとの契約は、そんな子供たちの救出なのである。

 ゲルの外が静かになった。どうやら、バータルとボルドが見張りを倒したらしい。

「しかしあっちぃな」

 後藤の額から、大粒の汗がこぼれた。

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