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第6話 マリエ・フランデレン

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。

「陸奥君、あの二人は?」

「最新型の国産車の方が遠野と同室の泉崎奈々……アメ車の方に乗っているのはミネソタ校から本日付けで転校してきた棚倉正雄です」

 その半分ががれきの山と化してしまった所長室で、雄物川は奈々と正雄のバトルに見入っていた。

「まるでプロレスだな」

「お気に召しませんか?」

「いや、素晴らしい才能だ。彼らもパイロット候補に入っているのか?」

「もちろんです」

「頼もしいな……それに、そろそろ久慈君も帰ってくる頃だ」

「彩香……く、久慈教官が?」

 陸奥はちょっと驚いた表情を見せたが、すぐに平静を取り戻した。

「ああ。例のパイロット候補を連れてくることになっている」

「例のと言いますと……アムステルダムの?」

「そうだ。ヨーロッパ支部の話では、今のところ全世界の全ての候補生の中で、彼女の数値が最も高いとのことだ」

「久慈教官は何と?」

「神を眠りから醒ますのは彼女しかいない……そう言っている」

 所長室にノックの音が響いた。

「ウワサをすれば……入りたまえ」

「失礼します」

 所長室のドアが開いた。ショートカットでパンツスーツ姿の美女が入って来る。この教習所の教官の一人、久慈彩香だ。

 久慈家と言えば、日本では知らない者のいない名家である。そんな家の一人娘がどうして教習所の教官として勤めているのか、いぶかしがる声も多い。だが、この場所にこそ彼女はふさわしい。彼女が持つ類い希なる才能と科学的知識が、人類の未来のために必要なのだ。

「所長、お久しぶりです。ただ今戻りました」

「ごくろう。で、例のパイロット候補は?」

「一緒です。マリエ、入りなさい」

 彩香の後に続いて、一人の美少女が入ってきた。白夜を連想させるほどに色が白く、うす紫に近い色をたたえたプラチナブロンドが美しい。

「マリエ・フランデレン、本日付けでアムステルダム校からの転入手続きは完了しました」

「うむ……マリエ君、私はここの所長の雄物川だ。よろしく」

 マリエの生い立ちは聞いている。心を閉ざし、全ての他人に警戒心を持つことも仕方のないことだ。

 笑顔でゆっくりと語りかける雄物川。だがマリエはうつむいたまま……一言も声を発しない。

「すいません。まだ普通の社会に慣れていないものですから」

「……そのようだな」

「しかし、ひどい騒ぎですね」

「ああ。大切にしていた盆栽もあのザマだ」

 まるで高級な観葉植物のように窓からの日差しをあびてのんびりと育っていたはずの盆栽も、今となっては床に散乱しているコンクリートの破片達と同じ価値しか持ってはいない。つまり、バラバラなのだ。

「所長、遠野のマシンがまた!」

 あまりに無惨な盆栽には目を向けず、外の様子を見続けていた陸奥が叫んだ。

「まだ動くのか!」

 プロレスもどきの一大バトルを展開している奈々と正雄を尻目に、ひかりのマシンが再び暴走を始めたのだ。両腕を腰のあたりに付け、イッチニイッチニと、その場で駆け足をしている。

「ありゃりゃ〜、また動き始めちゃったよ〜!どうすれば止まるんだろ……これかな」

 ひかりが押したスイッチはターボボタンだった。ひかり機のスピードが倍加される。

「あちゃ〜、速くなっちゃった!どうしてなの〜?」

 突然ひかり機が飛び上がった!五メートルはジャンプし、そのまま猛烈な勢いで走り始める。ダッシュだ。

「奈々ちゃん、まただよ〜!たしけて〜!」

 奈々と正雄の元から猛スピードで離れていくひかり機。だが、奈々は今それどころではなかった。

「今手が放せないの!自分で何とかしなさい!」

「そうこなくっちゃ。それでこそ俺のライバルだゼ!」

「勝手に決めないでよ!」

 奈々のキックが正雄を襲う!

 正雄はそれをひらりとよけ、回転して回し蹴りをくらわせる!

 奈々はジャンプしてそれをかわす!

「うれしいゼ、こんなところで骨のあるライバルさんに出会うなんて……マイトガイの血が燃えるゼ!」

「マ、マイトガイ?」

「俺のニックネームさ」

「ジョニーじゃなかったの?」

「それは名前」

「名前は棚倉正雄でしょ!」

「俺の名前を覚えてくれたんだね、眉毛の怖いハニー」

「うわぁぁ〜〜〜っ!あんたとしゃべってるとこっちまで変になりそうよ!」

 まだまだ続くプロレス大会。そんな二人とは関係なく、ひかり機はくるりときびすを返し、再び所長室のある校舎めがけて爆走し始めた。

「む、陸奥君。またこっちへ来るぞ!」

「そのようですね……」

「何とかしたまえ!」

「とりあえず、ここから逃げましょうか」

「所長、私にまかせてもらえませんか」

「久慈君、何かいい手があるのかね?」

 彩香は、無表情で外の様子を見つめていたマリエにゆっくりと微笑んだ。

「マリエ、出て」

「はい」

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