第59話 テロリスト
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「奈々ちゃん、あれって暴走してるのかな?」
学食のテレビに、渋谷の様子が映し出されている。
軍用ロボットが渋谷に出現!そんなタイトルを掲げ、テレビ各局は特番を組んでいた。何事かを早口でまくしたてるアナウンサー。画面ではヘリからの中継が、巨大なロボットの姿を捉えている。
「どうかしら。暴走しているようには見えないわね」
奈々がいぶかしげに言う。
「なにやら武器のようなものを持っていますわ」
「怖いですぅ」
「棚倉くんロボットマニアやろ?あの機種分らへんの?」
両津の問いに、正雄がいつものマイトガイスマイルになる。
「もちろん分かるさ。アメリカ軍で正式採用されている軍用ロボット、F56ファイヤーの旧型によく似ている」
「似てるって?」
「似てはいるが……多分第三国のコピー品じゃないかな。各部の作りがちょっと雑で、溶接がズレてたりしてるぜ」
「ジョニーはすごいね」
ひかりが感心したように言った。
「おや、機動隊が対応しているようですわ」
中継カメラが振られ、ロボットから少し離れた位置を映し出した。
そこにはキドロの運搬車が二台、軍用ロボットと平行に停まっている。その陰に隠れるようにして、機動隊のロボット「キドロ」が機関砲をかまえていた。
「キドロ部隊か。あれはこの前のレスキューロボと同じ機種の最新型だぜ」
「強いんか?」
「もちろん。だが、相手が軍用ロボだからなぁ、苦戦を強いられるかもしれないぜ」
正雄の言葉に、奈々はぐっとこぶしを握っていた。
「お姉ちゃん…」
「避難状況は?」
泉崎夕梨花は指揮車へ問いかけた。
「警察と消防が合同で避難を指揮してくれている。渋谷駅前から原宿まで、その通りを中心に、半径500メートルの避難はほぼ完了した」
白谷がそう告げると、キドロ内の沢村がいぶかしげに言う。
「しかしやっこさん、どうして動かないんですかね……まるで市民の避難を待ってくれているような……」
「それは無い。相手はテロリストよ」
夕梨花の口調が強くなる。
軍用ロボットの粗悪コピー、アイアンゴーレムは、スクランブル交差点から公園通りを少し進んだあたり、西武百貨店の前の道路に立っている。その渋谷駅側、スクランブル交差点の出口あたりに、アイアンゴーレムと平行にキドロ運搬車が二台停まっていた。夕梨花と沢村のキドロはその陰に身を潜めている。
一方、門脇のキドロは、アイアンゴーレムを越えて原宿方面、渋谷109正面あたりの運搬車の陰だ。
「泉崎、呼びかけてみろ」
白谷の声に夕梨花が外部スピーカーのスイッチをオンにする。
「あなたは包囲されています。ただちに投降しなさい」
スピーカーから夕梨花の声と同時に、キーンという大きなノイズが渋谷に響いた。
「うるせぇな」
男の声がキドロのコクピット、そして指揮車内に響いた。
「警察無線?!」
「現代人らしく、無線で会話しようじゃないか」
警察無線は暗号化された信号を、さらにデジタル変調方式で送受信している。そのため、第三者がその内容を聞いたり、逆に送信することはほぼ不可能だ。もちろん、その周波数はいっさい公開されていない。しかもその暗号を解くためのキーは頻繁に変更されている。警察内部からの情報漏えいでも無い限り、こんな状況は有り得ないのである。
「俺があんたらの無線に割り込んだことに驚いているんだろ?」
無言になるトクボの一同。
「まあ無理もねぇか。自分たちが世界で一番技術が進んでると思ってるんだろうからなぁ」
美紀が白谷に近づき、小声で言う。
「こいつの通信はそのままで、我々の会話だけチャンネルを変えます。第2周波数を使って」
「了解だ」
白谷はうなづいた。
「でもそんなことはどうでもいい」
男はちょっと間をおいてから言った。
「我々からの要求を伝える。武蔵野刑務所に収監されている我々の同士を返していただこう。さもないと、」
アイアンゴーレムが20ミリ機関砲を、夕梨花が身を隠している運搬車に向ける。ゼネラル・エレクトリック社のM61バルカンを、機動ロボットが手持ちで扱えるように改造したものだ。M61は20ミリのガトリング砲で、6本並べた砲身を反時計周りに回転させて連射する仕組みになっている。
ガコーン!轟音を響かせてゴーレムが発砲した。連射ではなく、一度引き金を引くと弾丸が三発発射される三点バースト射撃だ。キドロ運搬車の側面に三つの風穴があいた。
「こいつは20ミリの機関砲だ。毎分4000発を連射したら、この街は無茶苦茶になってしまう。それでもいいのか?」
「私は機動隊特科車両隊所属トクボ部隊のチーフパイロット、泉崎夕梨花だ。そちらは?」
「はぁ?」
男が驚いたように声をもらした。
「いやいや、俺が本名を名乗るとでも思ってるのか?」
一瞬、沈黙に包まれる。
「まぁいいか。俺は黒き殉教者……に雇われた傭兵、後藤茂文だ。連中からはゴッドと呼ばれてる。まあダジャレだな」
男がフフッと笑う。
「本庁に照会!」
指揮車で白谷が叫んだ。
「自分の名前を言うなんて、どういうつもりでしょう?」
「偽名で我々を撹乱するつもりかもしれん」
美紀の疑問にそう答えた白谷だが、その目的には皆目見当がつかなかった。
「泉崎、これは第2チャンネルで送っているので、おそらくヤツには聞かれていない。しばらく会話で引き伸ばしてくれ。今そいつの情報を本庁に当っている」
「了解」
夕梨花はうなづいた。
「それでどうなんだ?こっちの要求に答えるつもりはあるのか?」
「待ってくれ。今関係各位へ問い合わせをしている。そんなにすぐに返事は来ない」
「持久戦ってやつかぁ。まあ水も食いもんも積んであるからいいけどよ」
不思議な男だった。乱暴な口調で話しているようで、どこかユーモラスなところがある。だが、そんな雰囲気に騙されてはいけない。相手はテロリストなのだ。
「本庁に記録がありました!」
トクボ部員の声が響く。
「後藤茂文、現在42歳。15年前、JICAの海外協力隊でダスク共和国にボランティアとして派遣、そこで行方不明となっています。戸籍上はすでに死亡扱いです」
ボランティアとして世界に出た男とテロリスト。
一体何があったのか。
白谷はそんなことを思っていた。