第58話 スクランブル交差点
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
東京都渋谷区道玄坂二丁目。ここには誰もが知っている交差点がある。渋谷スクランブル交差点。世界最大級の交差点であり、毎日50万人以上が通行する東京でも有数の観光地だ。
そんなスクランブル交差点に、一台の巨大なトレーラーが乗り入れてきた。交差点をゆっくりと左折する。そのまま進むと渋谷109だが、トレーラーは西武百貨店の前あたりに停車した。
この道は多くのアドトラックの巡回コースとなっている。側面にアーティストの新譜広告や、ホストクラブの宣伝などを掲示し、大音量で音楽を流しながらゆっくり走るアレのことだ。巨大なトラックを見慣れている歩行者たちは、このトレーラーのことを気にもしていない。
「ねえお母さん、あれ、なんだかおかしいよ」
車好きらしい男の子が母親にそう言った。小学校低学年だろうか。
「いいからちゃんと手をつないで。迷子になっちゃうわよ」
あまりの人通りの多さに辟易しつつ、母親は男の子の手をしっかりと握って前進する。
人が多い場所なのに、どうしてこんなに歩道が狭いのよ!
彼女は心の中でそんな悪態をついていた。
「でもほらあの車、ナンバーが付いてないよ」
男の子の言葉に、彼女もふとトレーラーに目を向ける。
確かにナンバープレートが付けられていない。
「何か事情があるんでしょ。さぁ、行くわよ」
彼女が男の子の手を引いて進み始めようとした時、トレーラーがガクンと揺れた。
そして、ギリギリギリと言う音を響かせながら、側面がゆっくりと上へと開いていく。その形が鳥に似ていることから、ウィングボディと呼ばれる車種である。
「すごい!これ、フルガルウィングだ!」
やはり男の子は車が大好きなようだ。
いきなりウィングが開き始めたため、歩行者の多くが足を止めてその様子をうかがっている。渋谷のこんな場所でウィングボディのトラックと言えば、有名アーティストのゲリラライブに決まっている。そんな期待を込めた人々の顔は、やがて不安で青ざめていく。
ウィングが開くにつれ、その中に何があるのかがハッキリと見えてきた。
ロボットだ。しかも自家用のものよりずいぶんと大きい。
どうしてこんな所にこんなロボットが?
「あれ、アメリカ軍の軍用ロボットだよ?」
男の子は車だけでなく、ロボットのマニアでもあった。
「でも、アメリカ軍のはこんな迷彩じゃないし…」
ロボットはガシン、という音をたてて折り畳まれていたボティを伸ばす。その身長は自家用ロボの1.5倍ほどもある。ゆっくりと立ち上がるロボット。それを、わけが分からないと見つめる歩行者たち。
「お母さん!逃げたほうがいいかも……」
「どうして?」
「あのロボット、機関砲持ってる」
軍用ロボットの右腕がゆっくりと空に伸びた。そのマニピュレーターには20mm機関砲がしっかりと握られている。
ズガガガガっ!
機関砲が空に向けて放たれた。
全く予想していなかった事態に、狭い歩道にパニックの渦が広がる。悲鳴をあげ、我先にここから離れようとする歩行者たち。トレーラーに近づいていた数台の車と自家用ロボが急ブレーキをかける。
母親は男の子を抱きしめたまま、歩道にしゃがみこんでいた。
機動隊特科車両隊所属のロボットチーム「トクボ」の指揮車内で、激しくアラーム音が響いていた。渋谷に暴走ロボット、との通報を受け、すでに待機場所から出動しているのだ。指揮車の後ろには、三台の巨大なトレーラーが続いている。トクボの機動ロボット「キドロ」専用の運搬車だ。
「現場の状況は?」
運搬車に搭載されたキドロの搭乗者が、無線で指揮車に問いかける。泉崎夕梨花である。
「詳細はまだ分からん。現場は相当混乱しているようだ」
トクボの部長、白谷雄三が答える。
「監視カメラの映像では、マルタイはロボット一台のようです」
白衣の女性、トクボ技術主任の田中美紀だ。
「ただ……」
「ただ?」
「これまでの暴走ロボットと、ちょっと違うんです」
美紀の声に、とまどいがうかがえる。
「どう違うんです?」
「自家用でも重機でもなく、軍用ロボットなんです」
どこからそんなものが?
夕梨花だけでなく、トクボ部員の全員がそう思っていた。
「なので、マルタイも機関砲を所持しているようです」
「どこの軍用ロボットなのか、画像から調べてもらっている」
白谷の言葉に、後ろでオペレーションしているトクボ部員が声をあげた。
「分かりました!」
白谷と美紀がその部員に振り返る。
「アメリカ軍正式採用ロボットのコピー品、アイアンゴーレムです!」
驚愕する一同。
アイアンゴーレムは、アメリカ軍に正式採用されている軍用ロボットの粗悪コビーだ。現在の最新鋭機ではなく、ふた世代前のものの設計図から作られている。一体どこで製造されているのか、その詳細はいまだ不明だが、東南アジアの闇マーケットで売買されているシロモノだ。最近では中東での紛争やテロ活動でよく見る機体だった。
「そんなものが渋谷で暴れたりしたら……」
キドロに搭乗する沢村泰三のつぶやきが無線からこぼれた。
美紀が続ける。
「もうひとつ、マルタイはナンバープレートの付いていないトレーラーで運ばれてきたらしいの」
「運ばれてきた?」
もうひとりのパイロット、門脇進が聞き返す?
「ということは……これは暴走ではありませんね」
夕梨花がそう言った時、再び後ろのトクボ部員から声があがった。
「黒き殉教者から犯行声明が出ました!」
「なんだと?!」
白谷が驚きの声をあげた。
黒き殉教者。人類が宇宙に出ることに反対する国際テロ組織だ。手段を選ばないその破壊活動は、世界中で恐れられている。
「ついに日本をも標的にして来たか」
重い沈黙に包まれた指揮車内では、激しいアラーム音だけが響いていた。




