表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/508

第58話 スクランブル交差点

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 東京都渋谷区道玄坂二丁目。ここには誰もが知っている交差点がある。渋谷スクランブル交差点。世界最大級の交差点であり、毎日50万人以上が通行する東京でも有数の観光地だ。

 そんなスクランブル交差点に、一台の巨大なトレーラーが乗り入れてきた。交差点をゆっくりと左折する。そのまま進むと渋谷109だが、トレーラーは西武百貨店の前あたりに停車した。

 この道は多くのアドトラックの巡回コースとなっている。側面にアーティストの新譜広告や、ホストクラブの宣伝などを掲示し、大音量で音楽を流しながらゆっくり走るアレのことだ。巨大なトラックを見慣れている歩行者たちは、このトレーラーのことを気にもしていない。

「ねえお母さん、あれ、なんだかおかしいよ」

 車好きらしい男の子が母親にそう言った。小学校低学年だろうか。

「いいからちゃんと手をつないで。迷子になっちゃうわよ」

 あまりの人通りの多さに辟易しつつ、母親は男の子の手をしっかりと握って前進する。

 人が多い場所なのに、どうしてこんなに歩道が狭いのよ!

 彼女は心の中でそんな悪態をついていた。

「でもほらあの車、ナンバーが付いてないよ」

 男の子の言葉に、彼女もふとトレーラーに目を向ける。

 確かにナンバープレートが付けられていない。

「何か事情があるんでしょ。さぁ、行くわよ」

 彼女が男の子の手を引いて進み始めようとした時、トレーラーがガクンと揺れた。

 そして、ギリギリギリと言う音を響かせながら、側面がゆっくりと上へと開いていく。その形が鳥に似ていることから、ウィングボディと呼ばれる車種である。

「すごい!これ、フルガルウィングだ!」

 やはり男の子は車が大好きなようだ。

 いきなりウィングが開き始めたため、歩行者の多くが足を止めてその様子をうかがっている。渋谷のこんな場所でウィングボディのトラックと言えば、有名アーティストのゲリラライブに決まっている。そんな期待を込めた人々の顔は、やがて不安で青ざめていく。

 ウィングが開くにつれ、その中に何があるのかがハッキリと見えてきた。

 ロボットだ。しかも自家用のものよりずいぶんと大きい。

 どうしてこんな所にこんなロボットが?

「あれ、アメリカ軍の軍用ロボットだよ?」

 男の子は車だけでなく、ロボットのマニアでもあった。

「でも、アメリカ軍のはこんな迷彩じゃないし…」

 ロボットはガシン、という音をたてて折り畳まれていたボティを伸ばす。その身長は自家用ロボの1.5倍ほどもある。ゆっくりと立ち上がるロボット。それを、わけが分からないと見つめる歩行者たち。

「お母さん!逃げたほうがいいかも……」

「どうして?」

「あのロボット、機関砲持ってる」

 軍用ロボットの右腕がゆっくりと空に伸びた。そのマニピュレーターには20mm機関砲がしっかりと握られている。

 ズガガガガっ!

 機関砲が空に向けて放たれた。

 全く予想していなかった事態に、狭い歩道にパニックの渦が広がる。悲鳴をあげ、我先にここから離れようとする歩行者たち。トレーラーに近づいていた数台の車と自家用ロボが急ブレーキをかける。

 母親は男の子を抱きしめたまま、歩道にしゃがみこんでいた。


 機動隊特科車両隊所属のロボットチーム「トクボ」の指揮車内で、激しくアラーム音が響いていた。渋谷に暴走ロボット、との通報を受け、すでに待機場所から出動しているのだ。指揮車の後ろには、三台の巨大なトレーラーが続いている。トクボの機動ロボット「キドロ」専用の運搬車だ。

「現場の状況は?」

 運搬車に搭載されたキドロの搭乗者が、無線で指揮車に問いかける。泉崎夕梨花である。

「詳細はまだ分からん。現場は相当混乱しているようだ」

 トクボの部長、白谷雄三が答える。

「監視カメラの映像では、マルタイはロボット一台のようです」

 白衣の女性、トクボ技術主任の田中美紀だ。

「ただ……」

「ただ?」

「これまでの暴走ロボットと、ちょっと違うんです」

 美紀の声に、とまどいがうかがえる。

「どう違うんです?」

「自家用でも重機でもなく、軍用ロボットなんです」

 どこからそんなものが?

 夕梨花だけでなく、トクボ部員の全員がそう思っていた。

「なので、マルタイも機関砲を所持しているようです」

「どこの軍用ロボットなのか、画像から調べてもらっている」

 白谷の言葉に、後ろでオペレーションしているトクボ部員が声をあげた。

「分かりました!」

 白谷と美紀がその部員に振り返る。

「アメリカ軍正式採用ロボットのコピー品、アイアンゴーレムです!」

 驚愕する一同。

 アイアンゴーレムは、アメリカ軍に正式採用されている軍用ロボットの粗悪コビーだ。現在の最新鋭機ではなく、ふた世代前のものの設計図から作られている。一体どこで製造されているのか、その詳細はいまだ不明だが、東南アジアの闇マーケットで売買されているシロモノだ。最近では中東での紛争やテロ活動でよく見る機体だった。

「そんなものが渋谷で暴れたりしたら……」

 キドロに搭乗する沢村泰三のつぶやきが無線からこぼれた。

 美紀が続ける。

「もうひとつ、マルタイはナンバープレートの付いていないトレーラーで運ばれてきたらしいの」

「運ばれてきた?」

 もうひとりのパイロット、門脇進が聞き返す?

「ということは……これは暴走ではありませんね」

 夕梨花がそう言った時、再び後ろのトクボ部員から声があがった。

「黒き殉教者から犯行声明が出ました!」

「なんだと?!」

 白谷が驚きの声をあげた。

 黒き殉教者。人類が宇宙に出ることに反対する国際テロ組織だ。手段を選ばないその破壊活動は、世界中で恐れられている。

「ついに日本をも標的にして来たか」

 重い沈黙に包まれた指揮車内では、激しいアラーム音だけが響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ