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第57話 袴田素粒子の正体

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「小野寺くん、そっちの結果はどうなっている?」

 袴田教授は目の前のディスプレイを見つめたまま問いかけた。

「我々の予想通りです」

 問われた女性、小野寺舞はそう答えた。

「こちらも同様ですね」

 二人とは背中合わせの位置で、やはり何かの結果が映し出されたディスプレイを見つめ、遠野拓也もそう言った。

 東郷大学袴田研究室では、機動隊特科車両隊所属の田中技術主任から届いたサンプルを検査していた。事前に届いた検査データから予測していた通りの結果が、目前のディスプレイに表示されている。

「しかし、やはり現物サンプルがあると、色々なことが分かりますね」

「だから良かった、とはならんのだがね」

 拓也の言葉に、袴田は暗い声音でそう言った。

 そうなのだ。現物を袴田顕微鏡などの最新機器で検査したところ、あまりいい結果が出ていない。それどころか、最悪の結果とも言えるかもしれない。

 袴田が、くるりと椅子をまわして舞と拓也の方を向いた。

「まとめてみよう」

 そう言うと袴田はひと息ついた。

「まず、袴田素粒子がコントロールモジュール全体ではなく、CPU周りにだけ感染しているのは?」

「この素粒子は、意図的にそうしていると思われます」

 拓也の声も暗い。

「つまり?」

 袴田の問いかけに、舞が一瞬とまどってから発言した。

「この素粒子には自我が、知能がある可能性が高い……もちろん、本能なのかもしれませんが」

「そうだね」

 ふっとため息をついてから、袴田がまた切り出す。

「ここまではトクボ技術主任の田中くんの所でも予測していたことだ。この後、トクボにも、そして教習所にも知らせねばならない、我々が見出した新しい仮設をまとめておきたい。遠野くん」

 指名された拓也は、目の前に表示されている、このひと晩の実験データの履歴を見つめる。

「私と小野寺さんは、別々にそれぞれのサンプルを観察していました」

「トクボが持ち帰った重機のコントロールモジュールと、教習所で暴走したものの二つです」

 舞が補足する。

「深夜の2時35分14秒、私が観測していた素粒子のいくつかに不思議な変化が起こりました。袴田顕微鏡によって可視化されたそれは、なんと言うか、形状が少し変わったと言うか……X型であることに変わりはないのですが、奇妙にひねられたりゆらいだりしたんです」

 拓也は一度、ふぅっと息を吐く。

「その理由や目的はよく分かりません。でも、隣で観察していた小野寺さんのディスプレイでも、同様の変化が見られたんです。しかも全く同時刻に」

 ふむ、とうなづく袴田。

「それを二人はどう思ったのかね?小野寺くん」

「最初は偶然だと思いました。でも、遠野くんに言われて両方のディスプレイを同時に観察してみたんです。すると、すぐにまた変化が現れました。しかもまた同時に」

 その言葉を拓也が引き継いだ。

「もしかすると……本当にこれはまだ、もしかすると、なんですが……」

「言ってみたまえ」

 拓也と舞が顔を見合わす。

「量子テレポーテーションではないかと」

 拓也の言葉に、研究室が重い空気に包まれる。

 量子テレポーテーションとは、将来的には物質の瞬間移動を可能にするかもしれない理論のことを言う。

 ここに量子もつれの関係にあるふたつの粒子があるとする。その二つが遠く離れた場所にあっても、一方の状態を観測すると、その観測と同時に離れた位置にあるもう一方の粒子の状態が全く同じに変化する(確定する)。実際には情報が同一になるだけで、テレポートしたわけではないのだが、あたかも瞬間移動したように見えるため、そう呼ばれている。東京大学大学院工学系研究科など、世界中のラボで、数十キロ離れた場所での実験が成功している現実の技術なのだ。

 量子テレポーテーションを用いれば、理論的には距離も時間も関係なく情報伝達が可能になる。例え何光年も離れた場所であっても、同時に同じ情報に変化するのだから通信手段として、こんなに優れたものは他に無いだろう。

「つまり?」

 袴田が拓也をうながす。

「こいつらは、量子テレポーテーションを使って交信しているのかもしれません」

 やっかいだな。

 袴田は思っていた。

 量子テレポーテーションによって通信しているとなると、全宇宙のどんな場所にいる同胞にも一瞬で連絡できる。しかも、意思を持って地球のロボットを暴走させている、とすると……。

「下手なことは言えないが……」

 袴田は二人の顔を見回した。

「これは侵略なのかもしれん」


「奈々ちゃん、私もプリン食べたいな。ひと口ほしいな」

 ひかりが隣に座る奈々に、子犬のようにうるうるとした視線を向けている。

 学食ではデザートタイムに突入していた。

「いいわよ」

 奈々がスプーンでプリンをすくう。

「はい、あーんして」

「あーん、ぱくっ」

 ひかりの顔がいつものようにパッと明るくなった。

「おいし〜い!甘いものは世界を救うよね、奈々ちゃん!」

「両津くん、俺のショートケーキをあげよう。それ、あ〜ん」

 正雄がショートケーキのひと切れを、フォークで両津の顔の前に突き出す。

「いやいや、俺日本茶飲んでるから生クリームはちょっと。って言うか、棚倉くんにあ〜んしてもらいたくないわ!間接キッスになってまうやん!」

「俺は別にいいんだぜ」

「いいんかい!」

 奈々が突っ込む。

「それに、日本茶にはちゃんとおかきが付いてるねん!ケーキ無くても大丈夫なんや!」

「おかきってなんですかぁ?」

「それはね、おかみさんが…」

「それは女将!旅館とかの女将!あられのことを関西じゃおかきって言うのよ!」

「欠けた餅が欠きもちとなって、室町時代の宮中で丁寧に『お』を付けて『おかき』と呼ぶようになった、と言われていますわ」

「そうなんですかぁ」

「両津くん、遠慮しなくていいぜ。君と俺の仲じゃないか。ほら、あ〜ん」

 再び正雄がフォークを突き出す。

「どんな仲なのよ!」

 ふいに横からそのスプーンに食いつく何者かの姿があった。

「パクリっ!おいし〜い!」

「遠野さん、何やってるのよ!」

「なんじゃそりゃ〜!」

 平和な日常が戻っていた。

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