第55話 攻防
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
久慈、そしてレスキュー隊員の山崎と矢崎の目の前で、一進一退のバトルが繰り広げられていた。
陸奥と南郷が乗るレスキューロボは、機動隊ロボットチームのマシン「キドロ」のように強化された装甲は有していない。逆に災害地等での機動力を考え、できるだけ身軽になれるよう薄型の外部装甲が採用されている。
「重機の一撃をくらったら、レスキューロボじゃひとたまりもないです」
山崎が悔しそうに三台のロボットを見つめる。
「それにしても陸奥さんと南郷さん、すごいな。さっきから重機の攻撃を紙一重で避け続けてる」
「でも、避け続けていたらラチがあかないのも確かよ。どこかで仕掛けないと」
感心する矢崎に、久慈の言葉には焦りがうかがえた。
「陸奥さん、こんな曲芸みたいなこと続けてたら、こっちのバッテリーがやばいで!」
「分かっています!」
普段はあまり求められない激しい動きに、レスキューロボのバッテリーがぐんぐん減少している。キドロの場合、予備バッテリーが強化されている上、指揮車に装備されたカートリッジに交換することで活動時間の延長が可能だ。だがノーマルタイプのレスキューロボに、そんな気の利いた機能は無い。一方重機の方は、長時間の工事が可能なように大型バッテリーが積まれている。
「こいつの回転式関節、ホンマやっかいやな!」
最初の二人の作戦はこうだ。前後からはさみ撃ちにする。後方から陸奥が近づき、重機の左右のアームを抑える。人間で言うところのはがい締めだ。強大なパワーで振り払われる可能性が高いが、陸奥機が取り付いた一瞬、重機の動きが止まるだろう。そこを南郷機が、右手に握った鉄骨でコントロールモジュールを貫く。
だが、重機の回転式関節はそれを許さなかった。ぐるぐると回転し、前後を入れ替えてしまうのだ。
そんなバトルフィールドに、ガシンガシンと響くロボットの足音が近づいてくる。猛烈なスピードだ。久慈が振り向いて確認する。
「あれは……火星大王……遠野さん?!泉崎さんも!」
猛スピードで接近してくる火星大王の後ろを、奈々のデビルスマイルが追って来ていた。
「あの子たち、待機を命じておいたのに!」
山崎と矢崎が顔を見合わせる。
だが、三人の驚愕はこれからだった。
「ちょっと待ってくれや〜!」
「お二人、人生を生き急ぎすぎですわ〜」
「速いですぅ」
「マイトガイの俺が追いつけないなんて、二人とも惚れ直したぜ」
残りの全員も、全速力でやって来ているのだ。
「あんたに惚れられた覚えはないわよ!」
ひかりを追いながらも、奈々は正雄への突っ込みを忘れない。
泉崎さんと棚倉くん、けっこういいコンビちゃうかなぁ。
両津はそう思いながら走っていた。
「奈々ちゃん!どうしよ〜?!」
「とにかく止まりなさい!」
猛烈な勢いで、ひかり機と奈々機が久慈たち三人の横を走り抜ける。
「どこ行くのよーっ?!」
「私に聞かれてもわかんな〜い!」
「あんたに聞かなくて誰に聞くのよ?!」
山崎が久慈に不安な顔を向ける。
「あれって、まさか重機と同じ暴走でしょうか?」
久慈は苦笑する。
「いいえ。遠野さんはいつもああなの」
「はぁ」
その時、先に走り抜けていった以外の教習用ロボの一団が、三人の近くまでやって来る。
とっさに立ちはだかるレスキューの二人。
「止まれ!」
「この先は危険だ!ここで停車するんだ!」
急ブレーキをかける五台のロボ。シートベルトが胸に食い込んだ。
「いって〜、やっぱり急ブレーキはあかんなぁ」
「授業で教わった通りですわ」
「痛かったですぅ」
「マイトガイは痛みなんてヘッチャラなのさ!」
正雄の言葉に、山崎と矢崎が久慈を不思議な顔で見る。
「彼も、いつも通りよ」
久慈の苦笑が深まった。
「みんな見てみ!あっちで暴走ロボとセンセたちが戦ってるで!」
両津機が指差す先では、重機と二台のレスキューロボの戦いが繰り広げられている。
「すごいですわ。わずか数センチでよけていらっしゃいます」
「ここからそれが見えるなんて、君、とっても目がいいんだね、ベイビー」
「カメラをアップにしたらええんや!」
両津の突っ込みに正雄が操作ボタンをいじる。
「本当だ。よく見えるようになったぜ」
その場の全員がため息をついた。
「陸奥さん、南郷さん、遠野さんと泉崎さんがそちらに向かっています!」
久慈は携帯端末に叫んだ。
「なんだと?!」
「今こっちに来たら危ないで!」
そんな声をよそに、火星大王とデビルスマイルは猛スピードでバトル現場に接近していた。
「遠野さん!そっちに行ったら危ないわ!教官のお二人と重機が戦ってるのよ!」
「じゅうきって何だっけ?」
「うきぃぃーっ!」
「遠野!止まるんだ!」
「遠野くん、止まらなあかん!」
皆の声もむなしく、ひかり機は重機に向かって全速力で走っていく。
「うわっ!飛んだ!」
「さきほどみたいですわ」
「カッコいいですぅ」
「すごいぜ」
猛スピードでジャンプした火星大王は、そのまま重機に向かって突っ込んだ。
「ひかりキィィッ〜ク!」
頑丈な火星大王の激突に、ドカーン!と轟音がして重機の動きが一瞬停止した。
「今や、陸奥さん!」
南郷が右手の鉄骨を重機の上を越えて陸奥に投げた。
ジャンプしてそれを受け取る陸奥。
そのまま重機の正面右下、人間で言う脇腹に鉄骨を突き立てる。
そのままロボの全体重をかけて押し込む。
ぐしゃっ!……と嫌な音がして、重機がガタガタと痙攣を始める。
そしてヒザから崩れ落ちるように倒れ込む。
プスン……重機の動きが完全に停止した。
「すげー!」
一同から上がる歓声。
「遠野!エンジンを切るんだ!」
陸奥の言葉にひかりが反応した。
「あ、そうだった!」
イグニッションキーを左に。
プスンと、火星大王も停止した。




