第54話 重機
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「なんじゃこりゃ〜!」
両津のいつものセリフが、地面に走る大きな亀裂に響いた。
なんじゃこりゃ、なんじゃこりゃ、なんじゃこりゃ、と、反響しながら下へと降りていく。
「すごいね、でも割れチョコみたいでおいしそ〜」
ひかりは一番大きな亀裂をのぞき込んで、びっくりするぐらいのんきにそう言った。なぜか笑顔である。
「食べられないわよ!」
いちおう突っ込んでおく奈々。
「割れたおせんべいとかマカロンて、安くておいしいんだよ、奈々ちゃん」
「そうね。ガトーショコラとかラングドシャとかも、ヒビが入ったのは安いわよね、って、そうじゃなくて今は地面の亀裂の話しなの!」
ついにノリツッコミまで身につけたか、両津はそう思っていた。
「君たちの教習用ロボットなら越えられると思います、なんてレスキューさんが言ってましたけど、どうやって越えるのでしょう?」
「難しいですぅ」
奈央と愛理も亀裂をのぞき込んでいる。
七人の目の前には数本の亀裂が走っていた。数メートルの幅がある大きなものが三本、そして小さな亀裂が無数にある。
「こりゃ無理ちゃうか?」
「そうね。救助隊のロボットって、私の姉が乗ってる機動隊のものと同じなんでしょ?」
奈々が正雄に聞く。
「よく覚えたね、俺のライバルさん。俺のセリフをいつも注意して聞いてくれているんだね、ベイビー」
「違うわよ!……でも、あの機種だからそんなことができたんじゃないかな」
「まあひと世代前の型とは言っても、あの機動力なら軽々飛び越えられると思われるぜ」
「しゃーないな。ほんならここで待機やな」
両津はそう言ってため息をついた。
「ところで、待機ってなんですかぁ?」
愛理が今さらの質問をした。
「お魚の形をしたお菓子だよ。あんことかカスタードクリームが入ってておいしいよ!」
「それはたい焼き!愛理ちゃんが聞いてるのは待機!」
「俺は抹茶味が好みだぜ」
また始まった。でも遠野さんてボケの才能あるよなぁ、天然やけど。
両津はそんなことを考えていた。
「はさみ撃ちでいきましょう」
「了解や」
陸奥と南郷は、通称重機と呼ばれる建設工事用ロボットと対峙していた。その重機は、まさに暴走と呼ぶにふさわしい暴れ方をしている。自分のまわりのものを、手当たりしだいに破壊しているのだ。
真っ赤なボディのレスキューロボは、自家用や教習用ロボットよりもサイズが大きい。ほぼ1.5倍ほどの身長をしている。そしてパワーも桁違いだ。倒れた建物を持ち上げてのレスキューなども視野に入れて設計されている。だが、目の前の重機はレスキューロボをしのぐ上背とパワーを持っていた。大きさは自家用ロボの約二倍。パワーは数倍だ。機動隊で採用されている最新型ならともかく、ひと世代前のこいつでまともにぶつかっても勝負にならないのは明白である。
「俺が後ろからはがい締めにしますから、南郷さんは正面右下あたりにあるコントロールモジュールを鉄骨でぶち抜いてください!」
陸奥も南郷も、各種ロボットの構造を熟知していた。暴走ロボットに対抗するためには、必要不可欠な知識なのである。
二台のレスキューロボが、重機の前後からじわりじわりと進んでいく。
重機はまだ気付いてはいない。
いや、暴走なのだから、気付くという表現はおかしいか。
そんなことを考えながら、南郷は右マニピュレーターで鉄骨を握り直す。
「よし!」
陸奥はそう叫ぶと重機に向かって走り出した。
「俺も行くでぇ!」
南郷も突進する。
その時、重機がレスキューロボに気付いたように顔を上げた。
陸奥機が重機の後ろに肉薄する。
だが、重機は腰に内蔵されている回転関節をぐるりと回して、陸奥機の方を向いた。前後が逆になったのだ。
「ちっ!」
陸奥の舌打ちが聞こえた。
「たしけて奈々ちゃ〜ん!」
その頃ひかりの火星大王が暴走していた。大きな亀裂ギリギリのところでぐるぐると走り回っている。ひかり機が亀裂に近づくたびに亀裂の端が少し崩れ、その破片が奈落の底へ落ちていく。
「あらあら、よりにもよってこんな場所で暴走するなんて、遠野さんもおちゃめですわね」
「危ないですぅ」
「これって、工事現場の暴走ロボとおんなじ暴走やろか?」
心配顔の両津に奈々が言う。
「違うわ。遠野さんのいつもの暴走よ」
「じゃあほっといてもええか」
「いいえ、あのまま走り回っていたら、いつか亀裂に転落するかもしれないわ。私が止める!」
奈々がコクピットの操縦レバーを引いた。ぐおんと排気して動き出す奈々機。
「うへ〜!」
ひかりの悲鳴を振りまいて、火星大王が速度を上げる。ガシン、ガシン、と言う足音のリズムが次第に速くなっていく。
「おいおい、これはマズいんじゃないのかい、ベイビー」
火星大王の走る半径が段々大きくなっていく。
「あのままじゃ落ちちゃいますぅ!」
「遠野さん!止まりなさい!」
奈々の叫びもむなしく、ひかり機は走る速度をぐんぐん上げていく。
「奈々ちゃん!私どうすればいいの〜?!」
一同が見守る中、火星大王は……空中を飛翔していた。
一番大きな亀裂を飛び越えたのだ。
「飛んでるやん!」
「すげーぜ」
「すごいですわ」
「カッコいいですぅ!」
そんなひかり機につられて、後を追って走っていた奈々機もジャンプしてしまう。
「また飛んでるやん!」
「すげーぜ」
「すごいですわ」
「泉崎先輩もカッコいいですぅ!」
亀裂を飛び越え、ひかり機の後を追う奈々機。
「俺らもできるんちゃうか?」
「そうだな、やってみるか?」
「怖いけど、できそうな気がしてきたですぅ」
「マリエちゃんはどうしますか?」
奈央の問いにマリエはいつものか細い声で答える。
「ひかりについて行く」
「んじゃ、決まりやな」
全員が決意を固めた。




