第53話 緊急事態
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から書き進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
都営第6ロボット教習所のセカンド教習コースに、巨大な破壊音が轟いた。まだ建設中の校舎の壁が、ベキベキと音を立てて引きはがされる。
自家用とは違う、巨大なロボットが暴れているのだ。重機と呼ばれる工事用のこいつは、自家用ロボットの倍以上の大きさがある。しかもそのパワーは倍ではきかない。重い鉄骨を運んだり、鉄筋を切断するだけの馬力を誇っている。
そんなデカブツが暴れているのだ。
「陸奥さん、どうなってるねん?」
EVで戻ってきた南郷である。よほどあせっているのか、珍しく髪が乱れていた。
「見ての通りですよ」
陸奥と久慈、そして南郷の前方で、ガゴン!ガゴン!と、重機が校舎の屋根をその巨大なアームで砕いている。
「こりゃ緊急事態やな」
「そうですね」
久慈も悲痛な表情を見せた。
「まず最初に最新型のシールドを設置すべきでした。今言っても手遅れですが」
「このままやと、せっかく進んでた第二校舎の建設がパァになってまうで」
「山崎くんと矢崎くんは?」
陸奥の問いに南郷が答える。
「こっちに帰ってくるように伝えた。生徒たちは危ないから、トンネルから出た所で待機しとってくれと」
「全員無事なんですね?」
心配顔の久慈。
「大丈夫や。ケガひとつ無いそうや」
「良かった」
その時、ガシンガシンと2つの大きな足音が近づいてきた。真っ赤なボディにRescueの白文字。レスキューロボが戻って来たのである。
「おお!ウワサをすればなんとやら、ザキーズが帰って来よった」
走るスピードを落とし、三人の近くに停車する二台のレスキューロボ。
陸奥がすかさず携帯端末を操作する。
「山崎くん、矢崎くん、レスキューロボの運転を、私と南郷さんが代わる。2人ともここで降車してくれ」
《了解!》端末から二人の声がした。
「まさか教習所内で暴走ロボットが出るなんて思わんかったわ」
両津がため息をつく。
「最近暴走ロボが増えていますからね。いつどこに出ても驚きませんわ」
「宇奈月先輩すごいですぅ」
「株式投資で度胸はバッチリですわ」
おほほほと、奈央が笑った。
「奈々ちゃん、私の火星大王もおんなじ暴走なのかな?」
心配げなひかり。
「何言ってるのよ。遠野さんの暴走は、運転技術が未熟なだけでしょ」
「トホホのホ」
「まぁ、私たちと一緒に教習してれば、いつか暴走しなくなるわよ」
奈々はいつもひかりのことを素直に励ますことができなかった。つい突き放したり、皮肉っぽく言ってしまう。
「泉崎さんて、ツンデレなのですわ」
「そこがまた魅力なのですぅ!」
奈央と愛理の間ではオタク同士の会話が成立している。
「なあ、俺からみんなにちょっとした相談があるんだぜ」
正雄のロボットが皆を見渡した。
「何よ?」
奈々が警戒しながら問い返す。
「暴走ロボットを止めるのは市民の義務だ」
「そんなのあんたが決めてるだけでしょ!」
「正雄くんはどうするのがいいって言うの?」
ひかりが聞く。
「ニヤリ」
と、口に出して言う正雄。
「俺達も現場に行って、教官たちと一緒に暴走ロボットを止めようぜ!」
「いやいやいやいや、危ないからここで待機ってさっき言われたじゃない!」
奈々はゲンナリしていた。
「う〜ん……マリエちゃんはどう思う?」
ひかりの問いにマリエはか細い声で答えた。
「ひかりが行くのなら…」
「いやいやいやいや、危ないから待機だって!」
「そうやなぁ、俺らが止めるのは無茶やと思うけど、どうやって暴走してるのを止めるのか、見てみたいのも確かやで」
「いやいやいやいや、待機してろって!」
「ロボット運転のいいお勉強になるかもしれませんわね」
「そうかもですぅ」
「奈々ちゃん」
「うぎゅぅぅ〜」
奈々はコクピットでガックリと肩を落とした。
「分かったわよ!行けばいいんでしょ、行けば!」
「やった〜!みんなでハッピーゴーラッキーだよ!」
「わけ分かんないわよ!」
「陸奥さん、この機体、機動隊のキドロと同型やけど、ひと世代前のシロモノや。しかも戦闘用の装備は何も持ってへんで。どうするんや?」
陸奥機のコクピットに響いた南郷の声に、陸奥が笑う。
「何言ってるんですか、南郷さんのCQB(クロース・クォーター・バトル、近接戦闘)の技術なら、大した相手じゃないでしょ?」
南郷もフフッと笑う。
「その言葉、そのままお返しや」
経歴は違っているが、二人とも軍関係のロボット部隊に所属した経験があった。
南郷機が落ちていた鉄骨を一本、右腕で拾い上げる。
「ほな、行きまひょか」
二機はダッシュで飛び出した。




