第52話 脱出
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「南郷さん!」
レスキューロボットの外部スピーカーから、山崎真也の声が響いた。
陸奥の指示で、港から一直線にここまで走ってきたのだ。
「山崎くんが来てくれたんや」
南郷の返事に、もう一台の外部スピーカーも声を轟かす。
「ボクもいますよ!」
「おお矢崎くんか!ザキーズ揃ってるやん、頼もしいわ!」
二台のロボットはスピードをゆるめ、南郷のEVの近くで停止した。
「これ見てくれや」
トンネルに続く舗装コースには、幅数メートルに及ぶ亀裂が何本も走っている。
「これじゃあEVでは越えられませんね」
「山崎くんもそう思うやろ。めっちゃ向こうから走ってきてジャンプしたろか、と思たけど、多分亀裂に真っ逆さまやで」
「EVの速度ではそうなりますね」
矢崎がうなづいた。
「ほんで君らの出番や!そのレスキューロボの脚力やったら、走り幅跳びみたいにポ~ンて飛べるやろ」
「また無茶なことを」
山崎が苦笑する。
「でも日頃の訓練では、あれぐらいの距離は軽くジャンプしてますから、多分なんとかなると思います」
「さすが矢崎くん、頼りがいあるわ!山崎くんもよろしゅー頼むで!神様仏様ザキーズ様や!」
南郷が大げさに手を合わせ、神社に祈るように柏手を打った。
「今の所生徒たちとは連絡が取れてへん。トンネル内部の状況も、もう少し近づかんと外部からのスキャンじゃよう分からんねや。急いで行ってくれるか?」
《了解です!》ザキーズの声がユニゾンした。
二台のレスキューロボは来た道を数メートル戻ると、きびすを返して亀裂へ向かって走り出した。ガシンガシンと、2つの大きな足音が響き渡る。
ジャンプ!そして見事な着地。二台とも余裕で亀裂の向こう側に立っていた。
「おお〜!10点満点や!」
そんな南郷の言葉には反応せず、二台のレスキューロボはトンネルに向かって走り出していた。
「入り口が見えて来たで!」
両津ロボが指差す方向から、明るい光がさしている。
「お外の光ですぅ!」
「これで入り口さんは出口さんに改名ですわ」
愛理も奈央も、ホッとしてそう言った。
「奈々ちゃん、これで怖くなくなるね」
「も、もうとっくに怖くなんかなくなってるわよ」
ひかりの笑顔に奈々が少しいじけたように答えた。
「お化け」
「ひぃぃ!って、あんたそれもうやめなさいよ!」
奈々と正雄のやりとりにも明るい雰囲気が戻っている。
「ん?また地震や!」
グラグラと再びトンネルに大きな揺れが襲いかかる。積み上がっている落石からミシミシと音が聞こえ始めた。
「こらあかん!みんなはよ出るんや!」
ロボット一台分ほどの落石のスキマから、ひかりたちは順番に外へ出ていく。
落ち着いて、落ち着いて。
あせって岩にぶつかったらまた落盤を起こすかもしれない。
一台、そして一台と、ひかりたちのロボットは全機トンネルからの脱出に成功した。
その瞬間、たった今通ったばかりの空間がドカンと崩れ落ちた。
「あっぶね〜。もう少しでペチャンコだったぜ」
「ペチャンコってなんですかぁ?」
「お相撲さんが食べるごはんだよ」
「それはちゃんこ!こいつが言ったのはペチャンコ!」
「泉崎さんのお胸みたいなものですわ」
「うぐぐぐぅ!」
否定できない奈々であった。
その時各機の無線機から声が響いた。
「君たち無事か?!」
救助隊の山崎だ。トンネルを出たので電波が届くようになったらしい。
「全員無事です!」
奈々が大声で答える。
ひかりたちの元にやって来る二台の真っ赤なロボット。
「あ、レスキュー隊のロボットだ!」
「カッコいいですぅ!」
そんなひかりと愛理に、正雄がニヤリと笑顔を向ける。
「レスキューロボは機動隊で使われているロボットと同型で、救助に特化したスッぺシャルな装備が付いているんだぜ」
さすがロボットマニアの正雄である。
「ケガをしている者はいませんか?」
矢崎の問いに、全員クビを横に振った。
「ではボクたちに追いてきてください。港へ向かいます」
「途中地面に大きな亀裂ができてますが、君たちの教習用ロボットなら越えられると思います」
そう言って動き出そうとした全機の無線に、南郷の声が入電した。
「生徒たちは無事なんやな?」
「はい、全員ケガもありません」
山崎の返事にホッとしてから、南郷の口調が厳しくなる。
「とりあえず生徒のみんなはそこで待機しててくれ」
「そっちで何かあったんですか?」
矢崎の問いに一瞬の間があって、南郷は答えた。
「建設工事中の重機が……暴走してるんや」
全員の顔が、いっせいに青ざめた。