第51話 大岩
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
相模湾を照らす太陽は、もう真上まで登っている。水面でキラキラと踊る光の反射が美しい。
都営第6ロボット教習所第2教習コース。相模湾の、茅ヶ崎と大島のほぼ中間地点に作られた広大な埋立地だ。その面積は優に大島を超えている。
橋や地下道などが無いここの入り口は、実に簡素な港湾施設だ。数隻の船が入れる船だまりに、コンクリートの船着き場が突き出ている。
陸奥と久慈が見つめる中、今まさにその港に巨大な運搬船が入港しようとしていた。
船着き場に設置されている巨大なマジックハンド状のクレーンが、近づいてくる運搬船にゆっくりと伸びる。
ガコン、と言う音を立て、ハンドの部分が船体側面の接岸金具をつかみ、船着き場に引き寄せた。ロボット技術の進歩は、こういったところにも浸透している。もちろんAI制御の全自動である。
接岸した運搬船から二台のロボットが降りてくる。真っ赤にペイントされたボディに、白文字で「Rescue」と書かれている。救助隊の目印だ。機種としては警視庁機動隊特科車両隊のロボットチームと同型だが、安定運用のため操作がこなれたひと世代前のものが採用されている。奈々の姉・泉崎夕梨花が乗っているのは、この機種の最新型だ。
「陸奥さん、久慈さん!状況は?!」
陸奥の端末に入電する。
救助隊員の一人、山崎真也だ。いかにもレスキュー隊員らしい、ガッシリとした体格をしている。隊員服の肩が、筋肉でぐいっと盛り上がっていた。
「先程知らせた通り、生徒たちがロボットに乗ったまま、コース途中のトンネルに取り残されている可能性が高い」
陸奥の言葉にもうひとりの救助隊員が聞く。
「南郷さんはどちらに?」
矢崎一郎。こちらも同様の雰囲気だ。ガッシリとした体が窮屈そうに、オレンジの隊員服に包まれている。所内では、この二人のことはザキーズと呼ばれていた。
「南郷さんはEVでトンネルに向かったんですけど、コースに大きな亀裂があって、EVでは進めなくなっているそうです」
久慈が苦しそうな表情を見せる。
「南郷さんによると、二足歩行のロボットなら越えられそうとのことだ」
陸奥の言葉に、レスキューロボは即座に行動に移った。
「では、我々は現場に向かいます!」
真っ暗なトンネル内では、相変わらずのやり取りが続いていた。
「この大岩、なんとかしないとですわね」
「なんとかなるんですかぁ?」
「さぁ」
奈央と愛理の会話は相変わらず要領を得ない。
「頭がいい奈々ちゃん、怖がってないで何か方法を考えてよ〜」
ひかりが奈々機にロボットの顔を向ける。
火星大王のヘッドライトが、奈々機をスポットライトのように照らした。
「急にこっち向いたらまぶしいじゃない!」
「あ、ごめん奈々ちゃん」
ひかり機が急いで顔をそむける。
「おっと、顔をそむけられてしまったかい泉崎くん。こりゃ遠野くんにも嫌われたみたいだぜ」
「『も』って何よ『も』って!他に誰が嫌ってるのよ?!」
「奈々ちゃん、私だけは嫌ってないよ」
あわててひかりが否定する。
「私だけはって、遠野さん以外みんなから嫌われてるとでも言うの?!」
「ちがうよ〜」
ひかりは困り顔だ。
「漫才やってないで、どないしたらええか三人も考えてや」
両津は呆れ顔だ。
すると正雄が、ニヤリと不敵な笑いをコクピット内のカメラに向けた。
「俺にいい考えがある」
「棚倉さんたのもしいですわ」
「ですですぅ」
「どないすんの?」
「俺の棚倉キックで、ズバーンと粉砕してやろうじゃないか!」
水を打ったように静かになる一同。
ハァ……奈々がため息をもらした。
「あんたねぇ、そんなことしたらもっと崩落するかもしれないじゃない」
奈々以外も、より大きなため息をもらした。
「仕方ありませんね。では、こうしませんか?」
「どうするんですかぁ?」
一同奈央に注目する。
「不本意ですが、入り口から出ましょう」
「はい?」
全員の顔にハテナマークが浮かんだ。
「俺ら、閉じ込められたんやないの?」
「ディスプレイに表示されている、レーダーのオーバーレイを見てくださいませ。ほら、入り口の所」
「ホントだ!入り口の方にけっこう大きなスキマが開いてる!」
わっと歓声が上がる。
「なんで今まで言わへんかったんや?!」
奈央がニッコリと笑った。
「本来入り口は入るためのものです。そこから出るなんて、お行儀が悪いですわ」
「あちゃ〜」
両津がズッコケる。
「もうええ。みんな、入り口から出るで、入り口から!」
入り口を強調した両津の言葉に、皆いっせいに入り口へ歩き出した。