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第507話 花菱工業 大沢工場

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。アカウントは「@dinagiga」です。なお、毎週木曜日に更新していく予定です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 花菱工業 大沢工場。

 その無骨な鉄の門扉を前にして、後藤は改めて「本当にここで合ってるのかよぉ」と小声で呟いた。夕暮れの光が、彼の顔に長い影を落とす。隣に立つ小池葵は、そんな後藤を一瞥すると、小さく頷いた。

「ドルジさんの話では、ここで間違いありません」

 葵の言葉に、後藤は苦笑いを浮かべる。

「ここはよぉ、あんたら霧山グループ傘下のロボット工場なんだろぉ? こんなところがダスクと関わりがあるなんて、ちょっと信じられねぇぜ」

 町外れの、いかにも年季の入った小さな工場だ。敷地も狭く、とても最新鋭のロボットを製造しているようには見えない。せいぜい、どこかの下請け町工場といった風情だ。

「あとよぉ、こんな小さな工場で、ロボットなんか作れるのかぁ?」

 後藤の問いに、葵はクスクスと小声で笑う。

「またトボけて。ロボットは小さな部品の集合体です。ここはそんな部品のひとつを作っている場所なんですよ。しかも、最重要な」

 葵の言葉に、後藤は胡散臭そうに片眉を上げた。

「それが、あんたがずっと追いかけてるってブツなのかぁ?」

「ドルジさんの情報が正しければ、そうなりますね」

「あいつ、食わせ者だからよぉ、信じちまっていいのかぁ?」

 再び仰いだ後藤の言葉に、葵は楽しそうに小さく笑った。

「それはあなたのことじゃないんですか? ゴッドさん」

「あんたも言うねぇ」

 後藤はニヤリと右の口角を上げた。その顔には、一筋縄ではいかない男の笑みが浮かんでいる。

「ところでよぉ、これからどうするんだぁ? 忍び込むには、まだ陽が高いんじゃねぇのかぁ?」

 二人の横顔を、夕日の赤い光が照らしている。空は深い茜色に染まり、工場からは微かに機械音が聞こえてくる。

「正攻法で行きましょう」

 葵の唐突な言葉に、後藤は目を丸くした。

「なんだって?」

「本社からの視察です」

 そう言い放つと、葵は大股で歩き始めた。後藤は慌ててその後を追う。

「ちょっと待てって。大丈夫なのかねぇ」

 後藤はブツブツと呟きながら、ジャンパー越しに胸ポケットの硬い物体を手で確かめた。彼の視線は、まだ先の見えない暗闇を警戒しているようだった。

 工場へと続く門は、意外にもあっけなく開いた。守衛室に詰めていた初老の男は、葵が差し出した身分証を一瞥すると、すぐに奥へと通してくれた。葵は淡々とした表情で、後藤は訝しげな面持ちで、工場の建物内へと足を踏み入れる。

 内部は想像以上に整理整頓されており、無駄なものが一切ない。廊下には定期的に清掃が行われていることを示すかのように、埃一つ見当たらなかった。

「でよぉ、巫女さんよぉ」

 後藤は歩きながら肩をすくめる。

「ちょい聞いておきたいんだけどよぉ、これから会う連中は、霧山グループにとって敵ってことなのかぁ?」

 葵は視線も向けずに、後藤にそう言う。

「またトボけるんですか? あなた方警察は、とっくに把握していると思っていましたが?」

 後藤の顔に、いっそう深みのある笑みが浮かぶ。

「じゃあ、あの話はマジってことかぁ。あんたらの内部にいくつもの派閥ができて、もめてるってよぉ」

「まぁそんなところです」

 葵はこともなげに答える。後藤は皮肉げな表情で頷いた。

「暴力団と変わらねぇじゃねぇか」

「そんな下品な人たちと一緒にしないでください。私たちの行動原理は、あくまでも真理の探求ですので」

「真理ねぇ」

 後藤は胡散臭そうにそう言った。彼の顔には、この手の「高尚な理念」を鼻で笑うような色が浮かんでいる。

「そういうお話はまた後にしましょう。さぁ、行きますよ」

 葵は歩みを速め、二人はひとつのドアの前に到着した。その表には「花菱工業 大沢工場 」の看板が掲げられている。扉は自動ドアで、二人が近づくと音もなく左右に開いた。

 その先には、広々としたロビーが広がっていた。受付には誰もいない。代わりに、中央に置かれたソファには、すでに数人の男たちが座っていた。彼らは皆、清潔な作業着を着用しており、顔つきは一様に引き締まっている。その視線は、二人が現れた途端、一斉に葵へと向けられた。まるで、彼女の到来を予期していたかのように。

「お待ちしておりました、小池様」

 その中で一番奥に座っていた、白髪交じりの痩せた男が立ち上がった。彼の顔には深い皺が刻まれ、その目は鋭く光っている。

「私が、この大沢工場の工場長、田丸と申します」


 田丸はそう言うと、深々と頭を下げた。その後ろに立つ男たちも、一様に頭を下げる。後藤は横目で葵を見やったが、彼女の表情は一切変わらない。まるで、当然の対応であるかのように受け入れている。

「田丸工場長。ご足労おかけします」

 葵もまた、形式的な挨拶を返した。まさにビジネスライクである。

「そちらの方は?」

 田丸の視線が、後藤へと移る。後藤は愛想笑いを浮かべ、適当に頭を下げた。

「小池様の同行者でいらっしゃいますか?」

「ええ、そうです。彼も今回の視察に同席させていただきます」

 葵は簡潔に答えた。田丸は特に追及することなく、二人にソファを勧めた。

「どうぞ、お掛けください。すぐにでもご案内させていただきます」

 後藤はソファに腰を下ろすと、周囲の男たちをそれとなく観察した。彼らは皆、口数少なく、しかしその視線は常に葵と後藤に向けられている。警戒しているのか、それとも監視しているのか。後藤の心に、ある種の緊張感が走った。

「それで、田丸工場長」

 葵が口を開いた。

「早速ですが、例の部品についてお伺いしたいのですが」

 田丸の顔色が、微かに変わった。彼の目は、一瞬だけ後藤へと向けられたが、すぐに葵へと戻る。

「例の部品、でございますか」

 田丸はゆっくりと口を開いた。

「一体、どのような情報をお持ちでいらっしゃるのでしょうか」

 その言葉には、明らかに探りを入れるような響きがあった。後藤は内心で舌打ちをする。やはり、一筋縄ではいかない相手だ。

 葵は冷静に、そして淀みなく答えた。

「私たちは、霧山グループの根幹に関わる重要な部品が、この工場で製造されているという情報を掴んでおります。それは、人間と機械を融合させるための、ある種の『鍵』となる部品であると」

 田丸の表情が硬直した。彼の後ろに控えていた男たちも、わずかにざわめく。後藤は、葵の言葉の重さを肌で感じていた。彼女は、単なる視察ではなく、この工場に隠された秘密を探りに来ているのだ。

「一体、誰からそのような情報を……」

 田丸の声には、焦りの色が滲んでいた。

「それはお答えできません」

 葵はきっぱりと拒否した。

「ですが、私たちはその部品の全容を把握する必要がある。それが、今回の視察の目的です」

 田丸はしばらく沈黙した後、ゆっくりと息を吐いた。

「……分かりました。それほどまでに把握されているのであれば、もはや隠し立てする意味もございません」

 彼は観念したように言った。後藤は、葵の堂々とした態度に感心する。しかし、田丸の態度が急変したことに、どこか不自然さを感じていた。あまりにもあっさりしすぎている。

「どうぞ、こちらへ」

 田丸は立ち上がると、ロビーの奥にある扉を指差した。その扉の向こうからは、微かに機械の駆動音が聞こえてくる。

「例の部品が製造されているのは、こちらの第一工場です。ご案内させていただきます」

 後藤は、葵の顔をちらりと見た。彼女の表情は依然として冷静だが、その瞳の奥には、確固たる決意が宿っているように見えた。後藤は、ジャンパー越しに胸ポケットの硬い物体を再び手で確かめた。彼の予感が、何かが始まることを告げていた。

 第一工場へと足を踏み入れると、金属が削れる音、油の匂い、そして無数の機械が稼働する重低音が、五感を刺激した。広大な空間には、巨大なプレス機や切削機械が整然と並び、ロボットアームが正確無比な動きで部品を組み立てている。

「こちらが、部品の最終工程になります」

 田丸は、奥にあるひときわ大きな機械を指差した。その機械は透明なシールドで覆われており、内部で複雑な部品が生成されているのが見て取れる。

「これが、例の……」

 葵が呟いた。後藤も目を凝らす。シールドの中では、小さな金属片がレーザーによって精密に加工され、まるで生命を持つかのように結合していく。それは、あまりにも複雑で、後藤の知識では理解しがたいものだった。

「これは、一体何なんだぁ?」

 後藤は思わず口にした。田丸は、どこか得意げな表情で答えた。

「これは、人間と機械の神経系を繋ぐための、いわば『生体インターフェース』です。この部品を脳に埋め込むことで、人間は機械を思考一つで操作できるようになる」

 後藤はゾッとした。思考一つで機械を操作する。それは、まるでSF映画の世界だ。

「そんなものが、本当に可能なのかぁ?」

「我々の技術は、すでにその領域に到達しています」

 田丸の言葉には、揺るぎない自信がみなぎっていた。彼の目は、狂信的な光を帯びているようにも見える。

「私たちは、霧山様の御心を受け、人類の進化のためにこれを開発しています。人間は、その肉体の限界に縛られすぎている。このインターフェースがあれば、人類はさらなる高みへと到達できる」

「それってよぉ、ダスクの軍事技術に似てるって思うのは、俺だけかぁ?」

 後藤の言葉に、田丸の表情が一瞬固まる。

「……ダスクと我々とは、全く関係ございませんが」

 否定する田丸の声には、動揺がにじんでいた。後藤は「ビンゴだぜ」と、心中でニヤリと笑う。

「関係ない、ですか。ならば、なぜあなた方は、霧山グループの本部である私の部署に、この報告を上げていないのでしょう?」

 葵は鋭く切り込んだ。田丸は、一瞬言葉に詰まる。

「それは……」

「私たち、霧山グループの理想を考えれば、この技術は全ての人類の進化に役立てるべきだと思われます。しかし、あなた方は、これを独占しようとしている?」

 葵の言葉は、田丸の核心を突いていた。田丸の顔から、自信に満ちた表情が消え失せ、代わりに焦燥と怒りが浮かび上がる。

「一体、どこまでご存知なのですか……!?」

 田丸は、これまで抑えていた感情を爆発させたかのように声を荒げた。同時に、彼が率いる作業着の男たちが、じりじりと二人に詰め寄ってくる。

「全てです。私が入手した情報によれば、あなた方はこの技術を使って、霧山グループ全体を掌握しようとしている。そして、ダスクと手を組もうとしている……いったいその先に、何をしようと言うのですか?」

 葵の言葉は、氷のように冷たかった。田丸の顔は、怒りで紅潮している。

「やれ!」

 田丸がそう叫んだ瞬間、彼の後ろに控えていた男の一人が、懐からスタンガンを取り出した。後藤は素早く葵の前に立つ。

「おいおい、あんまり乱暴なことはやめとけよぉ」

 後藤はそう言うと、ジャンパーの胸元に手をやった。彼の視線は、スタンガンを持つ男の動きをしっかりと捉えている。工場内の機械音は、彼らの緊迫した状況をさらに強調しているようだった。

「どうやら、正攻法だけでは済まされないようですね」

 葵が静かに呟いた。その声には、一切の動揺が見られない。むしろ、この状況を予期していたかのような、冷徹な響きがあった。

「あんたらも諦めが悪いねぇ」

 後藤はニヤリと笑った。彼の胸ポケットの硬い物体が、その笑みと同じく、不敵な存在感を放っていた。これから始まるであろう衝突を前に、彼の目は一層鋭く光っていた。

思い切った葵の行動は、凶と出るか吉と出るか?

霧山グループ内の派閥抗争か!?

次回をお楽しみに!

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