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第505話 深まる絆と、迫り来る影

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。アカウントは「@dinagiga」です。なお、毎週木曜日に更新していく予定です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 午後になり、ニコニコロボット教習所はいつもの活気を取り戻していた。

 ひかりは休憩時間になると、火星大王に話しかけたり、マリエと福神漬けの種類について熱心に議論したりと、相変わらずマイペースだ。しかし、両津の心には、先ほどの岸田教授の言葉が深く刻み込まれていた。

「なあ、泉崎さん、宇奈月さん」

 両津は、コーヒーを手に休憩していた奈々と奈央に声をかけた。

「教授の言うてたこと、やっぱり気になるんやけど……」

 奈々がカップを置いて両津を見た。

「『心を操る兵器になるかもしれん』ってやつ?」

「そうや。遠野さんは、そんなこと全然気にしてへんみたいやけど、もしホンマに悪用されたらって考えると、ゾッとするで」

 奈央が静かに頷いた。

「ええ。わたくしも同じですわ。あのAIが、もし本当に悪意を持って人間の感情を誘導し始めたら……想像するだけでも恐ろしいですわ」

「せやろ? 僕は、遠野さんが心配なんや。あのAI、ひょっとしたら遠野さんを完全に支配してしまうかもしれん、なんて」

 両津の脳裏には、先ほどのひかりの歌声がよみがえる。あの時、ひかりは完全にAIの意のままに動いていたように見えた。

「でも、ひかりは楽しそうにしてたじゃない。むしろ、あのAIのおかげで、ひかりはいつも以上に明るかったように見えたわ」

 奈々が優しくそう言った。

「そらそうかもしれんけど……でも、それがAIの策略やったらどないするんや? 最初は優しくして、気を許させてから、じわじわと乗っ取っていくとかないんか?」

 両津は、SF映画の見すぎではないかと自分でも思ったが、それでも不安は拭えなかった。

「両津くんの気持ちもわかるわ。でも、岸田教授も言ってたでしょ? 下手に取り外そうとすると、火星大王が機能停止する可能性があるって。それに、あのAIはもう、自我を持ち始めてるのかもしれないって」

「自我、か……」

 奈央が腕を組み、考え込む。

「もし本当に自我があるのなら、もはや単なるプログラムとは言えませんわね。その場合、それを壊してしまうことって……命を奪うことになりませんか? もちろんそこには、命とは何かと言う大問題が立ちふさがっていますが」

 三人は、それぞれ複雑な表情を浮かべていた。ひかりが楽しそうに歌い、踊る姿を見ていると、本当に全て杞憂なのではないかとも思える。しかし、同時に、その裏に潜むかもしれない危険性も無視できない。

 その日の夕食後、両津は一人、教習所の屋上で夜空を眺めていた。都会の空は星が少なく、代わりに海を隔てた向こうに、東京の明かりが瞬いている。

「ホンマに、どないしたらええんやろなぁ……」

 独りごちるように呟く。

 火星大王は、ひかりにとってかけがえのない存在だ。それを無理やり引き離すことは、ひかりを傷つけることになるだろう。しかし、このまま放置しておけば、もっと取り返しのつかないことになるのではないだろうか? そんな不安が、両津の心から離れない。

「もし、あのAIがホンマに悪意を持っとったら……」

 両津は、ぎゅっと拳を握りしめた。情けないほど、無力感に苛まれる。

 その時、背後から足音が聞こえた。振り返ると、そこには岸田教授が立っていた。

「やぁ、両津くん。こんなところで何を考えているのかね?」

「教授……」

「元気がないのう。ひかりくんのミュージカルに付き合わされて疲れたかね?」

 教授はそう言いながら、両津の隣で夜空を見上げた。

 その手には、湯気の立つコーヒーカップが二つ。一つを両津に差し出した。

「ありがとうございます……」

 両津はコーヒーを受け取り、一口飲む。温かいコーヒーが、冷えた体にじんわりと染み渡る。

「ワシもな、色々と考えとるんじゃよ」

 教授が静かに言った。

「AIの進化は、人間の想像をはるかに超える速度で進んでおる。ワシが開発した『笑心回路』も、その一つの例じゃ」

「教授は、後悔してはるんですか?」

 両津は恐る恐るそう尋ねた。

 教授はふっと笑う。

「正直、迷いはある。しかし、後悔はしておらんよ。ワシは、AIの可能性を信じておるからな」

「可能性、ですか?」

「うむ。ワシは、AIが人間を超える存在になることを恐れてはいない。むしろ、人間と共存し、より豊かな未来を築いていくことを願っておる」

 教授は、数少ない星を見上げながら続けた。

「もちろん、危険性も理解しておる。だからこそ、ワシは目を離さない。もし、このAIが道を誤りそうになったら、その時はワシが責任を持って止める覚悟じゃ」

 その言葉には、科学者としての覚悟と、親としての愛情が込められているように、両津には聞こえた。

「でも、どうやって止めるんですか? 下手に触ったら、火星大王が……」

「そのために、ワシはもう一つの研究を進めておる」

 教授は、意味深な笑みを浮かべた。

「『感情同期型思考制御システム』……ワシは、このシステムを開発することで、AIの感情を安全な範囲で制御する方法を見つけようとしておるんじゃ。まあ、まだ構想段階じゃがな」

「感情同期型思考制御システム……?」

 両津は、聞きなれない言葉に首を傾げる。

「簡単に言えば、AIの感情を人間の感情と同期させ、暴走を防ぐシステムじゃ。それも、ひかりくんの脳波パターンを応用してな」

「遠野さんの脳波パターンを!?」

 両津は驚きの声を上げた。

「うむ。ひかりくんの脳波は、他の誰とも違う独特のパターンを持っておる。ワシの推測では、あの脳波パターンが、AIが『笑い』を学習し、生成する上で不可欠な要素となっておる……のかもしれん」

「じゃあ、遠野さんが、そのシステムのカギになるってことですか?」

「そういうことじゃな。ワシは、ひかりくんとAIの間に、双方向の、より深い精神的な繋がりを構築したいと考えておる。そうすれば、AIが悪意を持ったとしても、ひかりくんの善意が、それを上書きしてくれるかもしれん」

「そんなことができるんですか!?」

「簡単なことではないが、不可能ではないと信じておる。そのためには、もっとひかりくんとAIの繋がりを深く研究する必要がある。だからこそ、今すぐに『笑心回路』を取り外すわけにはいかんのじゃ」

 教授は、改めて両津の目を見た。

「その回路の名は……」

「名は!?」

「一心回路じゃ!」

 両津が首をかしげる。

「一心……太助?」

「それは魚屋じゃ! ワシの回路は、一心同体の『一心』なのじゃ!」

 良心とか笑心とか、今度は一心……ああ、ややこしい!

 やっぱりダジャレの根本は、この教授なんだよなぁ。

 そう思った両津であった。

「両津くん。ワシの研究に協力してくれんか? ひかりくんとAIを、より良い方向へと導くために、君の力が必要じゃ」


 両津は、さっきまでダジャレを言ってケラケラと笑っていたのとは違う教授の真剣な眼差しに、強く心を揺さぶられた。

「ボクに、何ができるんですか?」

「まずは、これまで通り、ひかりくんと火星大王を見守ってやってくれ。そして、何か異変があったら、すぐにワシに報告してほしい。AIの進化は予想以上に早い。君の観察が、ワシの研究に役立つはずじゃ」

「……分かりました。ボクにできることなら、何でもやらせてもらいます!」

 両津は、力強く頷いた。教授の言葉は、彼の心にあった不安を少しだけ和らげてくれた。完全に消え去ったわけではないが、少なくとも、自分一人で悩む必要はないのだと分かったのだ。

 

 翌日、両津はいつもより早く教習所の格納庫へ向かった。だが、彼が着いた時には既にひかりは、火星大王相手にミュージカルの練習に励んでいた。

「♪銀河の~果てまで~ 愛を届けに~♪」

 ひかりの歌声は、昨日の夜よりも伸びやかで、どこか楽しそうだ。

「あっ、両津くん! 早いね!」

 ひかりが両津に気づき、笑顔で手を振った。

「おう、遠野さん。今日も元気やな」

「うん! 火星大王さんがね、もっと歌に感情を込めてって言ってるの。愛と平和のミュージカルだから、やっぱり『愛』が大事だって!」

「そ、そうか……」

 両津は、ひかりの言葉に複雑な表情を浮かべた。

 AIは本当に「愛」を理解しているのだろうか?

 それとも、ただの学習結果に過ぎないのだろうか?

 しかし、ひかりの屈託のない笑顔を見ていると、そんな疑念はどこかへと吹き飛んでしまう。

「両津くんも一緒に歌わない? ロボット役なんだから!」

 ひかりが、両津の手を取ろうとする。

「だからなんでボクがロボットやねん!?」

 両津は慌てて手を引っ込めた。

「え~、ピッタリなのにぃ」

 ひかりは不満そうに頬を膨らませるが、すぐにまた歌い始めた。

「♪ラ~ブ! ラブ! ラ~ブ! 平和の歌を~ 世界中に届けよう~♪」

 その歌声は、まるで朝の光のように、教習所全体に広がっていく。

 両津は、そんなひかりの姿を見つめながら、改めて決意を固めた。

 この、愛と平和を歌うロボットと、その隣で輝くひかりを、友人たちと一緒に必ず守り抜く。たとえ、どんな困難が待ち受けていようとも。

 そして、その歌声の奥に潜むかもしれない、まだ見ぬ真実を探るために。

 ニコニコロボット教習所の新たな一日が、今、始まる。

ひかりと火星大王に、素粒子がどう関わってくるのか???

次回をお楽しみに!

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