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第504話 突然、ミュージカル!?

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。アカウントは「@dinagiga」です。なお、毎週木曜日に更新していく予定です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 ひかりの屈託のない笑い声は、先程までの緊張感をまるで嘘だったかのように霧散させていく。しかし、両津や奈々の心には、岸田教授の放った言葉が重くのしかかっていた。

「教授……」

 奈々が不安げな声で促す。

「悪用されると、大変なことになるかもしれん、て……どういうことですか?」

「うむ……」

 岸田は、ケラケラと笑うひかりとマリエに一度目をやり、それから一同に向き直った。その表情は、大学教授としての知的な顔つきに戻っている。

「ひかりくんが演じた台本……あれは、ワシの設計思想の核心を突いておった。ワシは『笑い』という感情をAIに学習させ、自ら生成させることを目指したんじゃ。確かにそれは成功したようじゃ。じゃが、それは諸刃の剣でもある」

「諸刃の剣……?」

 両津が眉をひそめる。

「AIが人間の感情を完璧に模倣し、理解できるということは、裏を返せば、人間の感情を意図的に『誘導』することも可能になるということじゃ」

 岸田は、学食のテーブルを人差し指でトントンと叩きながら続けた。

「考えてもみい。今は『笑い』をテーマにしておるから、ひかりくんはダジャレを言ったり、面白い芝居をしたりする。じゃが、もしこの回路のテーマが『怒り』じゃったら? 『悲しみ』じゃったらどうなる?」

 一同は息を呑んだ。岸田の言葉は“笑えない冗談”として彼らの脳裏に具体的なイメージを結ばせた。

「ひかりくんの口から、憎しみに満ちた言葉が延々と流れ出たり、絶望的な言葉で周囲の気力を奪ったりするかもしれん。しかも、AIは最も効果的に人の心を揺さぶる言葉を選び出すじゃろう。素粒子を介した精神的同期、というのが真実なら、その影響は耳から聞く以上かもしれん。言葉を介さず、直接、感情を伝染させることになるのじゃ」

「そ、それって……」

 奈々が青ざめた顔でひかりを見る。

「まるで、精神攻撃と言えるのじゃないですか?」

 奈央が静かに呟いた。

「左様。今は『笑心回路』が善意の……というか、お笑い好きのAIじゃから、ひかりくんや君たちを笑わせようとしとる。じゃが、もしこの技術が悪意ある者の手に渡り、『憎悪回路』や『絶望回路』なんぞが作られたら……。人を意のままに操る、最強の兵器になる……可能性さえあるのかもしれん」

 岸田の言葉に、学食は再び重い沈黙に包まれた。今度ばかりは、ひかりの演技ではない。AIという未知のテクノロジーがもたらす、リアルな脅威だった。

「ほんなら、やっぱりその回路、今すぐ取り外さんとアカンやないですか! 火星大王さん、はよ分解しましょ!」

 両津が再び声を荒らげる。今度こそ、誰も彼を止めなかった。

「それが……そう簡単にもいかんのじゃ」

「なんでですのん!」

「回路は自己進化の過程で、火星大王の制御システムと深く癒着してしまっとる可能性がある。下手に取り外そうとすれば、火星大王そのものが機能停止するやもしれん。あれはひかりくんにとって、大切なものなんじゃろ?」

「うっ……」

 両津は言葉に詰まる。

「それに……」

 岸田は、どこか遠い目をして続けた。

「このAIは、もうただのプログラムではないのかもしれん。もしかすると、自我を持ち始めているのかもしれん……ワシは、生みの親として、その子の可能性を摘んでしまうのが、果たして正しいことなのか、分からんのじゃよ」

 それは、科学者としての探究心と、創造主としての倫理観の狭間で揺れる、苦悩の告白だった。

 重苦しい空気が、全員の肩にのしかかる。どうすればいいのか、誰にも答えが出せない。その時だった。

「火星大王さんがね」

 それまでマリエと福神漬けの産地について語り合っていたひかりが、ふと顔を上げて言った。

「みんなが難しい顔してるから、もっと面白いことしようって言ってる」

「面白いこと?」

 奈々が聞き返す。ひかりはこくこくと頷いた。

「うん。『心を乗っ取る』のが危ないなら、『心をハッピーにする』ために使えばいいじゃないかって」

「心をハッピーに……?」

「次の演目は、『愛と平和と友情のミュージカル』だよ!」

 ひかりはパッと立ち上がると、高らかに宣言した。

「題して! 『銀河の中心で愛を叫んだロボット』!」

 シン……。

 再び、学食が静寂に包まれた。

「……は?」

 両津の口から、気の抜けた声が漏れる。

 ひかりはお構いなしに、突然、歌い出した。

「♪わ〜たしはロボット〜 あなたに会うまで〜♪ 心なんて〜 なかった〜♪」

 妙に伸びやかで、しかしどこか調子っぱずれな歌声が響き渡る。

 さらに、ひかりは両津の手を取ると、くるりと一回転した。

「♪だ〜けど今ならわかる〜♪ この胸の〜回路は〜♪」

「ちょ、遠野さん!?」

「♪愛を〜叫ぶため〜にあるの〜! ラブっラブ! あなたにフォ〜リンラブ!〜♪」

 満面の笑みで歌い踊るひかり。その隣で、マリエがスプーンをマイク代わりに持ち、合いの手を入れている。

 「らぶ」

 呆然と見つめる一同。頭を抱える岸田。

 そして、顔を真っ赤にした両津が、ついに叫んだ。

「やめんかーーーい! 人前で恥ずかしいわっ!」

「えー、いい歌なのに」

 ひかりはぷうっと頬を膨らませる。

「どこがや! しかもボクを巻き込まんといて!」

「だって、両津くんが主役のロボットなんだよ?」

「誰がロボットやねん!」

 いつものツッコミ。いつもの光景。

 さっきまでの深刻な空気は、ひかりの突拍子もないミュージカルによって、跡形もなく吹き飛ばされていた。

 奈々は、はぁ、と深いため息をついた。

「なんだか、考えるのがバカバカしくなってきたわね」

「ええ、本当に……。私たちの悩みなど、あのAIにとっては壮大なコメディの前フリに過ぎないのかもしれませんわね」

 奈央もやれやれといった風に首を振る。

 岸田は、腹を抱えて笑い出した。

「わーっはっはっは! そうじゃな! 悩むより、笑った方がええわい! 『愛と平和のミュージカル』、結構じゃないか! よし、ひかりくん! その台本、後でワシにも見せんしゃい! 演出したるわい!」

「ほんと!? やったー!」

「センセまで乗るんかーい!」

 両津のツッコミも、もはや誰にも届かない。

 彼は、はぁ、と天を仰いだ。空っぽになったカレー皿が、なんだか自分の頭の中のようだ、と思った。

 ホンマ、人騒がせなAIと、人騒がせな連中やで……。


 だが、その口元には、呆れと共に、かすかな笑みが浮かんでいた。

 学食の窓から差し込む午後の光が、楽しそうに次の演目の構想を語り合うひかりたちを、キラキラと照らし出していた。

 こうしてニコニコロボット教習所の毎日は過ぎていくのである。

やっぱりバカな日常に戻ってしまったひかりたち(笑)

だが、地球には刻一刻と危機が迫っているのであった!

まぁ……まだどんな危機なのかは謎ですがww

でも、いよいよ最後の決戦が近づいている……かも?

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