第502話 笑心回路
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。アカウントは「@dinagiga」です。なお、毎週木曜日に更新していく予定です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「良心回路は、主人公の人造人間、つまりロボットのジローに人間的な善悪の判断基準を与える装置なのです!」
学食では、奈央による良心回路の解説が続いていた。
「正義とは何かを理解し、行動を選択できるようにする素晴らしい回路なのです! ですが、まだ未完成にも関わらず、設計者の光明寺博士が行方不明になってしまいます!」
話を聞いている全員が息を呑む。
「それでどうなるねん!?」
「不完全な良心回路を胸に抱えて、ジローは常に正義と悪のはざまで苦しむのであった!」
「めっちゃおもろそうやん!」
そう言った両津に、愛理がふくれっ面を向けた。
「人造人間キカイダーは、日本特撮史に残る名作なのですぅ!」
「子供向けとは思えへんなぁ」
そう言って感心顔の両津に、奈央がニヤリとした笑顔を向けた。
「なので、ミニスカートのお姉さんとか、ちょっと大人なシーンも含まれていますわ」
「ホンマかいな!?」
「ホンマですぅ!」
愛理が大きくうなづく。
「放送時間も、純粋な子供向けとは言えない土曜の夜8時からでしたし、制作側も大人の視聴者を意識していたのかもしれませんわね」
両津が奈央の顔をじっと見つめる。その眼差しは真剣そのものだ。
「それ見たいやん」
「分かりました。後で配信のアドレスを教えてさしあげますわ」
「頼んだで!」
サムズアップの奈央。
「ほんならカレー食おか」
急に気を抜いてそう言った両津に、岸田が思い切りツッコミを入れた。
「ワシの回路の話はしないんかーい!」
「あ、忘れとった」
頭をポリポリとかきつつ、てへへと笑う両津。
マリエが両津の制服の裾をくいくいと引っ張った。
「なんや?」
「そういう時は、てへぺろ」
「あ、こういう時に使うんか! ほんなら行くで……てへぺろ♡」
シンと、静寂に包まれる学食。
それを破ったのは奈々だ。
「それで、岸田教授の笑心回路って、どんなことに使うものなんですか?」
「ボクのてへぺろは無視かーい!」
両津の抗議は、てへぺろ同様に皆に無視された。
「実はのぉ……」
岸田はゆっくりと語り始めた。
大学教授である岸田は、実は若い頃からお笑い芸人に憧れていたという。そこで、いつか自分でコントなどの台本を書くために、面白いことや笑える言葉のフレーズなどをメモしていた。だがAIの時代になり、その全てを独自の回路にまかせることにした。
それが笑心回路なのだ。
楽しい言葉、ギャグ、ダジャレなど、お笑いに使えそうなフレーズを記憶し、回路に溜め込んでいく。それが笑心回路の機能なのである。
「でじゃ、遠野くんのお父さんに火星大王を中古で売った時、それを取り外すのを忘れておったと言うわけじゃ」
「それ、大切な回路ちゃいますん!?」
両津の驚きに、岸田はひょうひょうとした声で答えた。
「回路に蓄積されとるギャグなんて、全てワシの脳にも入っとるからな! わーっはっはっは!」
高笑いである。
そんな岸田を無視して、奈々が考え込むようにつぶやいた。
「つまり、その回路がためこんだお笑いのフレーズが漏れ出で、ひかりの口から出てるってことかしら?」
「お嬢ちゃん、かしこいのぉ! ワシもそうじゃないかと思っとるんじゃ」
奈々をべた褒めする岸田。だが、奈々は浮かない表情を浮かべる。
「それって、危険じゃないでしょうか?」
「どういうことや?」
両津もいぶかしげな顔になる。
「だって、AIの考えてることが、ひかりの口から出るんでしょ? それって、いつかひかり自身がそのAIに乗っ取られたりしないのかしら?」
生徒たちが一斉に岸田に視線を向けた。
「そうじゃのぉ……」
ゴクリと、誰かがつばを飲み込む音が聞こえた。
「無い……とは言えないかもしれんのぉ」
静寂に包まれた学食に、ひかりとマリエがカレーを食べる食器の音だけが響いていた。
ついに明らかになった笑心回路の秘密!
でも……そんな危険をはらんでいるの!?




