第50話 前進
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「このままじっとしとってもラチあかへんで。進んでみいひんか?」
両津は好奇心が抑えられないようだ。
「そうだね。ハッピーゴーラッキーて言うもんね。ゴーすれば、ハッピーでラッキー!」
「違うわよ!遠野さんみたいな人のことをそう言うの!」
奈々が意外と元気にそう突っ込んだ。
「ありがとう奈々ちゃん!私、ハッピーでラッキー!」
助けを乞うように、奈々機が正雄機の方に顔を向ける。
「俺はフランス語しかしゃべれないぜ」
「あんたアメリカ帰りじゃない!」
「たしか……ノーテンキって意味じゃなかったかしら?」
奈央の言葉に愛理が笑う。
「遠野先輩のことですね!」
ここでいつもの漫才を繰り広げていても仕方がない。
両津はそう思い、ロボットを操作した。
「とりあえず俺、行ってみるわ」
ガシガシと歩き始める両津機。
「しょうがないですわね。わたくしもお供いたしましょう」
奈央機が後に続く。
「マリエちゃんはどうする?」
ひかりの問いにマリエはか細い声で答えた。
「ひかりが行くのなら…」
「じゃあいっしょに行こ!奈々ちゃんは?」
「泉崎先輩も行きましょうよ!」
しばらくの沈黙の後、奈々が弱々しく言う。
「あっちの方、とっても暗いじゃない……」
「大丈夫だよ奈々ちゃん、みんないっしょなら怖くないよ」
「でも……」
その時正雄が、マイトガイスマイルをコクピットのカメラに向けて言った。
「お嬢さん、ここで一人ぼっちになっちまうぜ?」
「ひぇぇ〜!い、行くわよ!」
全員で、両津の後を追うことになった。
「くそ〜、俺ら教官ズもロボットで来るべきやったな」
南郷はトンネルの入口に到着していた。
頑丈なはずの教習コースの舗装には、EVでは超えられない大きな亀裂がいくつも走っている。南郷は所内用携帯端末を取り出し、慣れた手付きで液晶画面をタップした。
「陸奥さん、こりゃあかんわ」
「どうしました?」
「コースの亀裂がでかすぎてEVじゃ進めへん。救助隊のロボット、早よ来てくれへんかな」
「ロボットなら越えられそうですか?」
南郷は亀裂を見つめる。
「そうやな……二足歩行やし、いけると思う」
「了解、救助隊が到着次第、そちらに向かってもらいます」
「頼むで!」
「暗いのいやだよ〜、狭いのもいやだよ〜」
ひかりたちは真っ暗なトンネルをゆっくりと進んでいた。
ついさっき、前方から崩落のような轟音が響いたにしては、路面には特に大きな損傷は見られない。
「奈々ちゃんだいじょうぶだよ。私がついてる!」
「私もついてますぅ」
ひかりと愛理の励ましに、奈々からの返事は無い。
「うぎゅぅぅぅ…」
ただ怯えたような、よく分からない声が返ってくるだけである。
「そうだ!」
正雄が急に大声を出した。
「ひぇぇ!び、びっくりするじゃないの!」
「どうしたの?ジョニー」
ひかりの問いに正雄は満面の笑顔で言う。
「そんなに怖いのなら、シリトリでもしながら進もうぜ!」
「それ楽しそうですぅ!」
「そうだね!奈々ちゃん、シリトリやろうよ!」
ひかりと愛理も賛成した。
「じゃあ…シリトリの『り』からだよ!最初は奈々ちゃん!」
「えっと…り、りんご」
「次は愛理ちゃん!」
「じゃあ…ゴースト!」
「ひぇぇ!」
奈々が小さく悲鳴をあげる。
「マリエちゃん、『と』だよ!」
マリエは少し悩んでから小さく言った。
「時計」
「次は俺の番だな……い、い、い〜!」
「声が大きくて怖いわよ!」
奈々が大声で突っ込んだ。
「じゃあ『縊死』でどうだい?」
「いし?それ何のことですかぁ?」
「足元に転がってるやつじゃない?」
ひかりの言葉に奈々がビクッとした。
「転がってるって…怖い言い方しないでよ!」
「首とかのことかい?」
「そんなこと言ってないよ、石だよ石!」
正雄はいつものマイトガイスマイルだ。
「だが、おしいのは首の方さ。『縊死』ってのは、首つり自殺のことなのさ!」
「ひぇぇ!」
「英語だとhangingだな!」
「ひぇぇ!あんたさっき英語は分からないって言ったじゃない!」
「奈々ちゃん、落ち着いて」
ひかりがなだめる。
「みんな、なんでそんなんばっか言うの?!」
正雄がニヤリと笑う。
「楽しいからさ!」
「もういや〜っ!」
奈々が悲鳴を上げた時、ひかりたちは先行していた両津と奈央に追いついた。
両津機と奈央機は何かを見上げている。
そこには巨大な岩。トンネルの前方を、完全にふさいでいた。
「さっきの音、この岩が落ちてきたからやろな」
「そうですわね」
「これじゃ進めないね」
がっくりと肩を落とす一同。
「残念だぜ。ゴールは目と鼻の先、耳と口の前だったのにな」
「まだコースの半分ぐらいやで」
そんな会話が全く耳に入っていないのか、奈々の悲鳴が真っ暗なトンネルに響いた。
「暗くて狭いの怖いよ〜!」




