第499話 スペシャルゲスト登場
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。アカウントは「@dinagiga」です。なお、毎週木曜日に更新していく予定です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
ゴホンと、大きな咳払いが教室内に響いた。
南郷教官である。
「みんな注目や!」
わいわいと騒がしかった生徒たちだったが、一瞬で静かになり南郷を見つめた。
まさか、また例の謎のコントを見せられるのだろうか?
彼らのそんな心配をよそに、南郷はなぜか居住まいを正す。
「今日はこの教室に、ゲストの方をお招きしてるんや!」
ゲスト?
テレビのバラエティ番組じゃあるまいし、ゲストってなんだ!?
生徒たち全員が不思議そうに首をかしげた。そんな彼らを無視するように、南郷が教室の入口に向けて左手をサッと振り上げる。
「それではご登場です!本日のゲストはんは、この方でっせ!」
「わしじゃーっ!」
そう叫んで教室に飛び込んできたのは、一人の元気そうな老人だった。
ビシッとスーツを着こなしているので、恐らくまだ何かの現役なのだろう。
思わずぎょっとして、席についたまま後ずさるようにのけぞる生徒たち。
そんな中、両津がその老人の頭を指差して叫んだ。
「スキンヘッドや!ピカピカや!」
老人がキッと両津に視線を向ける。
「スキンヘッドじゃない!ヘアレスヒーローと呼んでくれい!」
「なんやそれ!?」
首を傾げた両津に、奈央から説明が入る。
「最近海外のSNSでよく使われている言葉ですわ。ヘッドポリッシャーと共に、広く使われています」
「おお!お嬢さん、よく知っとるな!」
老人から奈央に賛辞が飛んだ。
「あ!岸田のおじーちゃんだ!」
その時ひかりが立ち上がり、明るい顔を老人に向けた。
「おじいちゃん!?」
生徒たちの顔が、ますます疑問でいっぱいになっている。
ひとつ咳払いをすると、南郷が説明を始めた。
「この方は、城南大学文学部歴史遺産学科の岸田教授や!」
「わしが岸田じゃ!」
「あ!」
両津が目を丸くする。
「岸田教授って、火星大王さんの前の持ち主の!?」
「持ち主じゃと!? もっとカッチョ良くオーナーと言ってくれんか、君」
ちょっと不服そうに、頬を膨らます岸田。
ひかりの顔がパッと明るくなる。
「オーノー!」
「おお〜!ひかりのダジャレは相変わらずキレがいいのぉ!」
「てへへへ」
少し照れたのか、ひかりの頬が赤くなる。
マリエが、そんなひかりをじっと見つめて聞いた。
「あのおじぃちゃん、小野さんて言うの?」
「オーノー!」
「わしは小野じゃなくて岸田じゃ!それにおじぃちゃんでもないぞ」
そう言って岸田はペコリと頭を下げた。
「おじぃちゃんじゃなくて、おじぎちゃんじゃ!」
やっぱりダジャレである。
がはがはと笑う岸田。
マリエは、サッパリ意味が分からずに首をかしげている。
「岸田先生、アムステルダム育ちのマリエには、日本語のダジャレはちょっと難しいですわ」
困った顔を岸田に向ける南郷。
「そうか? マリエちゃんと言ったか? ワシがこの子ぐらいの歳には、もうダジャレしか言っとらんかったんじゃがのぉ」
「アムステルダム育ちだって言っとるやないですか!」
「だから富山県生まれじゃろ?」
岸田のその言葉に、奈々が思わず立ち上がって突っ込んだ。
「それはアムステルダムじゃなくて黒部ダム!」
その奈々の突っ込みをきっかけに、次はひかりが身を乗り出す。
「じゃあフランスのパリだ!」
「それはノートルダム!南郷教官が言ったのはアムステルダム!」
「父さんにもぶたれたこと無いのにっ!」
「ガンダム!」
「ウルトラセブンが持ってるカプセル怪獣」
それには奈央が突っ込んだ。
「それはウィンダムですわ!」
「あ〜ら奥様、今日も暇なのでお茶などいかがぁ?」
「有閑マダム!」
「最近、夕方に新聞が読みたくなっても、家に届かないんだよなぁ」
「それは有閑じゃなくて夕刊!」
「やっぱり“とらや”に限るわぁ」
「それは羊羹!」
「奈々ちゃんはいつもカッコいいよ!」
「そ、それは勇敢……」
「そして両津くんはなーんにも分かってない!」
「鈍感!」
「ちょっと待て!」
それには両津が割り込んだ。
「なんや話がズレとるで!アムステルダムはどこ行ったんや!?」
確かにそうだ。
いつの間にかアムステルダムではなく、よく分からないダジャレに突入している。
そんなひかりと奈々のやりとりを傍観していた岸田が、ニッコリと好々爺のような笑顔を見せた。
「二人、息が合っとるなぁ、いいコンビじゃ」
「私たち、満腹トリオって名前なんだよ!」
ひかりがとびきり嬉しそうにそう言った。
「トリオじゃと? もう一人はどこにいるんじゃ?」
「火星大王さん!」
岸田は何かを察したのか、なるほどとばかりにうなづき南郷に顔を向ける。
「君が言っとったのは、このことじゃな?」
「はい、そうなんですわ」
「ところで、満腹トリオと言うのは、もしかして“てんぷくトリオ”から取ったのかい?」
また出た“てんぷくトリオ”。
生徒たちの目が両津に向けられる。
「古すぎて、さすがのボクにもよく分からへんって言ってるやん!多分……三波伸介さん、戸塚睦夫さん、伊東四朗さんのトリオやったと思うわ」
「さすがの猿飛!」
ひかりの以前と同じボケには奈央が再び反応した。
「それは80年代の漫画、そしてTVアニメですわ」
さすがのオタク、である。
その時、成り行きを見つめていた正雄が、ニヤリと右の口角を上げながら言った。
「満腹トリオはいいが遠野くん、君は満腹なのかい?」
キョトンとするひかり。
「ううん、私満腹じゃないよ。お腹ペコペコだよ?」
ひかりの言葉に、一同ハッとする。
皆同様に腹ペコなのである。
奈々が肩をすくめて南郷を見る。
「いやいやアカンて、まだ授業中やから!」
その時タイミングよく、教室のスピーカーからチャイムの音が流れた。
「じゃあ、学食に行きましょうか?」
奈々の言葉に、生徒たちだけでなく岸田も声を揃えて叫んだ。
「賛成〜!」
南郷が肩をすくめる。
「しゃーないなぁ。じゃあ続きは学食でやろか」
生徒たちは大いに盛り上がるのであった。




