第497話 検査結果
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。アカウントは「@dinagiga」です。なお、毎週月曜と木曜の週二回更新の予定です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「三田先生、ちょっとどいてください」
一人の看護師が、研修医の三田大輔にシッシッと手を振った。
「いや、ここ俺のデスクだから」
抵抗を試みる大輔だったが、例によってそんなものは何の役にも立たない。
看護師はエタノールクロスを手に、容赦なく大輔のデスクをごしごしと拭いていく。
ここはUNH国連宇宙軍総合病院の医局である。
大輔はまだ24歳の研修医だ。外科、内科、小児科と巡り、現在この素粒子内科で研修の日々を送っている。医者らしく、清潔感あふれる好青年、といったところだろうか。
彼のデスクを少し嫌そうな顔をしながら拭いているのは、ナースの相原恵美23歳だ。彼女が動く度に、ショートの黒髪がサラサラと揺れている。スカートタイプのナース服がとてもよく似合っていた。
「毎度毎度、どうしてこんなにデスクを汚すんですか!? 食べかす、こぼしたドリンク……それに、よく分からないもの!」
そう言うと恵美は、素手で触らないよう気をつけながら、謎の茶色い汚れを拭き上げていく。
「だから、汚してるのは俺じゃなくて長谷川先生だから!」
長谷川潤子は彼の指導医だ。潤子にはなぜか、昼食を大輔のデスクでとる習慣がある。おかげで昼休み明けの彼のデスクは汚れ放題なのだ。
「またそんなこと言って、長谷川先生に失礼ですよ」
「いやいや!ホントだってば!」
大輔の言い訳には耳を貸さず、恵美はテキパキとデスクを片付けていく。
「汚れだけじゃないです。雑誌や本がバラバラに積んであるし、これじゃあ書類も書けないじゃないですか!」
「まぁ、それはそうなんだけど」
タジタジの大輔である。
素粒子内科では、毎日の風物詩のような光景だ。おかげで、医局の誰も二人の会話を気にしていない。それどころか、最近ではこの二人は実は付き合っているのではないか? との噂まで広がりつつあった。もちろんそれはデマである。大輔にとっては、まんざらでもない話ではあったが、恵美がどう感じているのかは全く分からない。なにしろ彼女は、今のように毎日小うるさい妹のような態度を続けているのだから。
「ああーっ!」
恵美の叫びと共に、デスクに積まれていた雑誌の山がひとつ盛大に崩れた。
「だから、いつも片付けてくださいって言ってるのにぃ!」
「ごめんごめん、これからは気をつけるよ」
「そんなこと言って、片付けたことないじゃありませんか!」
「そうだっけ?」
バツが悪そうに頭をかく大輔を、恵美は両腕を腰に当てて奮然と見下ろしていた。
こりゃ、脈なしだなぁ。
そんなことを思っていた大輔の耳に、いたずらっぽい恵美の声が届いた。
「あれぇ、そのお手紙、どなたからのです?」
崩れた雑誌の間から、一通の封書が現われたのだ。
それは、少し前に退院していった元入院患者、山下美咲からのお礼状である。
「いや、これはだな、山下さんからの……」
「ラブレターですか!」
「違うって!お礼状が届いたんだよ!」
疑わしげに目を細める恵美。
「ホントですかぁ? お礼状にしては、遅くないですか?」
「いや、届いたのはちょっと前だから」
「へぇ……」
恵美の顔に、ニヤリとした笑顔が浮かぶ。
「それを大切に取ってあると」
「当たり前じゃないか!患者さんからのお礼状だよ、医者として保管していてもおかしくないだろ!?」
「大切に保管ねぇ……じゃあどうして、デスクの上にあったんです?」
「え?」
「うれしくて、毎日ながめていたとか?」
「それは……」
なぜか反論できない大輔である。
「図星ですね?」
「いやいやいや、図星も梅干しも無いって!」
「どうしたんです? 急に昭和みたいなダジャレ言ったりして。三田先生らしくないですよ?」
慌てている大輔の様子がそんなに楽しいのか、恵美の顔から笑みが消えない。
その時、大輔のデスクトップPCから何かを知らせる小さな音が鳴った。
「先生? 今、PCから音がしましたけど?」
恵美の言葉に、あわててPCのディスプレイに目をやる大輔。
「あ、検査結果が届いたみたいだ」
そう言って、マウスを操作する。
「検査結果ですか?」
「ああ。都営第6ロボット教習所から届いたサンプルを、検査部に回してたんだけど……」
大輔はぶつぶつとつぶやきながら、届いたシートを表示させるべく、いくつかクリックを繰り返していく。
すると、パッと画面いっぱいにひとつのデータシートが表示された。
それをじっと見つめていた大輔の表情が、次第に変わっいく。
「先生? どうしたんですか?」
心配げに、恵美が大輔の顔とディスプレイ画面を交互に見た。
だが、専門的な知識のない恵美には、そこに表示されているデータの意味までは分からない。
「いや。これは……」
大輔の目は、驚きに見開かれていた。
「すぐに牧村先生を呼んでくれ!」
「えっと、牧村先生なら確か、お出かけだったと思いますけど」
「あ、そうか」
牧村陽子は、素粒子内科のチーフドクターだ。だが今日は、業務報告のために国連宇宙軍日本支部へ出向いている。それをすっかり忘れていた大輔だった。
「じゃあ長谷川先生を!急いで!」
「分かりました」
恵美は、首から下げている院内用PHSで長谷川潤子を呼び出した。
そう言えばもうすぐPHSのサービスが終わるとか言ってたなぁ。
その後は、何を使うんだろう?
呼び出し音を聞きながら、恵美はぼんやりとそんなことを考えていた。




