第495話 密会
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。アカウントは「@dinagiga」です。なお、毎週月曜と木曜の週二回更新していく予定です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「本当にあなたは変わった方だ。ずいぶんと珍しい場所に私を呼び出したものです」
ダスク共和国国軍資材調達課課長のドルジが、やれやれと肩をすくめた。
ここは東京スカイツリーの施設、スカイツリータウンにあるソラマチ商店街の入口前広場だ。そのままの名前のここ「ソラマチひろば」では、夏は涼し気な噴水が上がり、それ以外の季節には休憩スペースとしてテープルと椅子が並んでいる。後藤とドルジは、そんな広場でひとつのテーブルを囲んでいた。
「ここはよぉ、内調の兄ちゃんに教わったのさ。木を隠すなら森の中ってな」
そんな後藤の言葉にドルジが呆れ顔になる。
「いえいえ、私のようなダスク人とあなたのように大きな方は、全く隠れられていませんよ」
二人に同席している女性が、フフッと小さく笑った。
「確かにそうですね。インバウンドの観光客のほとんどはアジア人ですから、あなたのような顔立ちの方は珍しい」
「まぁそうなんですが、私はゴッドさんの巨体の方が目立つと思いますけどね」
そんな会話に、後藤がわざと苦笑して見せる。
「俺ゃあ目立ったりしてねぇぜ。慎ましやかに暮らしてる一般人だからなぁ」
「砂漠で暴れていた一般人なんかいませんよ」
ドルジの声には、皮肉なのか称賛なのか判別がつかない色が乗っていた。
「それはそうと」
ドルジが後藤と並んで座っている女性に話を向ける。
「どうしてあなたが、ゴッドさんと?」
ニヤリとした笑みを浮かべる後藤。
「まぁ成り行きと言うか、彼女の方から頼み込んできたんだぜ、なぁ?」
「頼み込んではいませんが、そんなところでしょう」
ドルジが目を丸くする。
「驚いた。お二人は敵対しているとばかり思っていましたが」
後藤の目がギラリと輝いた。
「ああ、今でも敵対してるぜぇ、なぁお姉ちゃんよぉ」
「そうですね。私達は敵同士です」
ドルジが、わけが分からないとばかりにポカンと口を開いた。
「ところでよぉ」
後藤がドルジに身を寄せ、声を潜める。
「あんた、どうしてこのお姉ちゃんのこと知ってるんだぁ?」
ドルジは今更何を聞くのか、という表情を後藤に向けた。
「新宿で後藤さんが私に接触した後ですが、あの日のことは詳細に調べさせてもらいましたので」
「さすがダスクのスパイだな。いや、シャンバラのエージェントだからか?」
「ご想像にお任せします」
その時、二人と同席している女性、小池葵が立ち上がりスーツの内ポケットから名刺を取り出した。
「もちろんご存知だとは思いますが、ちゃんとご挨拶を」
名刺には、霧山グループ総帥・霧山宗平の第二秘書の肩書きがある。
「霧山の秘書、小池です」
「あ、すいません。私の国には名刺というものが無いので」
そう言うとドルジは名刺を受け取ってから、すまなそうに頭を下げた。
「あなたもご存知だとは思いますが、ダスク軍の資材調達課課長、ドルジです」
「そしてシャンバラの?」
ニヤリとした笑みを葵に向けるドルジ。
「それを言うのは、ちょっとはばかられますので」
そんな二人のやりとりを面倒臭そうに見ていた後藤が、やれやれとばかりに爆弾発言を投下した。
「今日はよぉ、ぶっちゃけた話をしにきたんだぁ。このお姉ちゃん、霧山の秘書と同時に、黒き殉教者の幹部でもあるんだよなぁ」
とっさに、すごい勢いで右手を懐に差し込むドルジ。
一方の葵も、すでにその手をスーツの右ポケットに入れていた。
「おいおい、物騒だなぁ。ここは東京の超有名観光地だぜぇ? こんな場所で野暮はよそうぜぇ。話をしに来たって言ってるじゃねぇか、ドルジさんよぉ」
「ですが、黒き殉教者の、しかも幹部って」
ドルジの額に、いつの間にかじんわりと汗が浮いている。
先に右手をポケットから抜いたのは葵だった。そしてゆっくりと金属の椅子に腰を下ろす。
「ほらよぉ、お姉ちゃんは戦う気は無いってよぉ」
葵の様子に、ドルジも右手を取り出して不安げに腰を下ろした。
「シャンバラと黒き殉教者の関係は、ゴッドさんも知ってるでしょう?」
「ああもちろんだぜぇ。付かず離れずってやつだろぉ? 敵になったり協力したり」
「そんなに簡単なものじゃありませんよ」
憤慨するドルジの声に、再び後藤の顔が面倒そうになる。
「霧山の手下で黒き殉教者の幹部のお姉ちゃんが、わざわざあんたに会いに来たんだぜぇ。こんなにおもしろいことってないじゃねぇか。ちゃんと話を聞こうぜ?」
「確かに、興味はありますが」
そんな会話を聞いていた葵が、フッと後藤に視線を向けた。
「ゴッドさん」
「何だぁ? 俺何か間違ったこと言ったかぁ?」
葵の顔に苦笑が浮かぶ。
「どうして私が、黒き殉教者の幹部だと?」
今度は後藤の顔に驚きが浮かんだ。
「おいおい、今さら何言ってるんだぁ? あんた、あの時の巫女じゃねぇかよぉ」
葵の苦笑が笑みに変わり、プッと小さく吹き出した。
「あなたって人は」
「なんだぁ? 俺の言ってること、正解だろぉ?」
葵とドルジが、顔を見合わせて笑みを深める。
「確かに変わった方ですよね」
「そうなんですよねぇ」
「なんで二人が意気投合してんだよ? 意味分からねぇぜぇ」
憤慨する後藤を無視して、ドルジが真顔を葵に向けた。
「それで、そんなあなたが危険を犯してまで私に会いに来たのは、どうしてなのです?」
「実は、どうしてもお話を聞きたいことがありまして」
スカイツリーを吹く風が、ザッと枯れ葉を舞い上げた。




