第494話 つながっている?
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。なお、毎週月曜と木曜に更新していく予定です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「よし、大丈夫だ。行くぞ、ドクター」
そう言うと、館山船長は監禁室から外へと足を踏み出した。その後に続く竹田ドクター。廊下は真っ白で継ぎ目のない壁が続いており、右側には大きな窓が並んでいた。窓外には真っ暗な宇宙空間に、美しい星たちが流れている。
この船のメインエンジンは通常ドライブではない。長距離の宇宙飛行を可能にするスリップストリームエンジンだ。
スリップストリームとは、自転車競技や自動車レースで用いられる技術で、前方の車が空気を押しのけることにより、すぐ後方の車の空気圧が低下する現象のことを言う。これにより後方の車の速度は飛躍的に上昇する。宇宙では、亜空間の流れである量子スリップストリームを、ディフレクターを使って艦の前方に流すことでこの現象を起こし、亜光速での飛行を可能としている。もちろんワープやトランスワープ航法などと比較すると、あまり高速とは言えないのだが、エネルギー効率を考えねばならない長距離航行では非常に優れた推進技術と言える。今窓外に流れている美しい星々の軌跡は、この船がスリップストリームエンジンによる航行中であることを示していた。
船長が右手を上げ、ドクターを制止する。ちょうど曲がり角に差し掛かったのだ。先の様子をうかがい、その手を下げる。
「誰もいないようだ。進むぞ」
二人が捉えられていた監禁室はローワーデッキの船尾付近にある。一方、向かう先にある情報システム部は、同じデッキではあるが船首に近い。これまではあまり意識していなかったが、思ったより距離がある。
二人は角を左に曲がると、周りの様子をうかがいながらゆっくりと進み始めた。
「そんなわけで、遠野さんが言う古い言葉とかダジャレは、火星大王、」
その瞬間、ひかりが両津をギロリとにらんだ。
「……さん!が、考えてるって分かったんですわ」
学食を後にしたロボット部の全員は、再び職員室に戻っていた。
そこでは、相変わらず美咲が目を閉じたまま背筋を伸ばして座っている。その様子を見ていたらしい久慈教官。そして陸奥と南郷も、指揮所からこの場所に戻っていた。
陸奥が驚いた声音で言う。
「みんなすごいな。予想はしていたが、それを証明できるとは思ってなかったよ」
「予想しとったんでっか?!」
両津の問いに、南郷が苦笑した。
「偉い学者さんたちの意見も聞いて薄々そうちゃうかな、とは思とったんやけど、ダイナギガ関連の開発とかでなかなか検証する時間が無かったんや」
そう言った南郷に、奈央が質問する。
「薄々、どんな風に考えていたのですか?」
それには久慈が答えた。
「国連宇宙軍総合病院の牧村先生の診断と袴田教授の研究結果から、ある程度の予想をしていたの」
生徒たち全員が息を呑んでその続きを待った。
「機械やロボットの声が聞こえるというのは、素粒子とつながっているんじゃないかって」
奈々がいぶかしげな顔を久慈に向ける。
「素粒子って、袴田素粒子ですか?」
「そうなるわね」
「じゃあ、火星大王さんは袴田素粒子に感染しているってことでしょうか?」
生徒たちの目が驚きに見開かれた。現在地球は、袴田素粒子の侵略を受けている。つまり袴田素粒子は人類の敵ではないのか?
「説明が難しいんやけど」
南郷が肩をすくめて言う。
「実は袴田素粒子には、色んなタイプがあるっちゅーことや。わるもんもいればええもんもいる」
愛理が表情を明るくすると、南郷に視線を向けた。
「素粒子さんにも、正義の味方がいるんですかぁ?」
「いやぁ、正義の味方と言ってええかどうかは分からへんけど色んなタイプがおるっちゅーか……人間にも、色んなやつがおるやん? そんな感じや」
「でもセンセ、火星大王だけやなくてこの教習所にあるロボットに、袴田素粒子反応は出まへんやん?」
両津の疑問に、陸奥が困ったような顔をする。
「それにも色々とあるんだが……そうだな……そろそろその辺について、しっかりと授業した方がいいかもしれないな」
「次の座学でやりまひょか? もちろん小テスト付きで」
南郷がニヤリと笑いながらそう言った。
ヤブヘビだったか? 生徒たちに戸惑いの色が浮かんだ。
「じゃあ、火星大王さんに感染してるのが、ええもんの袴田素粒子やとします。でも、まだ疑問があるんですわ」
両津が首をかしげながらそう言った。
「さっき久慈センセが言った、素粒子とつながるってどういうことでっか? 僕らも、遠野さんと火星大王さんはつながっとるって考えたんですわ」
皆がうんうんとうなづく。
「でも、東京ロボットショーでビッグサイトに出かけた時も、遠野さん、ダジャレ言いまくっとったんです。そんな遠くにも、素粒子の声が届くってことでっか?」
「それに関しては、まだ仮説の域を出ていないわ」
「仮説でっか?」
「そう。袴田教授によると、素粒子同士は量子テレポーテーションを使って意思の疎通を計っている可能性がある、とのことなの」
「そうかぁ、量子テレポーテーションでっか。で、それ何でんのん?」
一斉にガクッとなる教官ズの三人。
「それはね両津くん」
その時ひかりが、左手の人差し指をピンと立てた。
「両津くんが大好きな、看護師さんがいるところだよ」
もちろん奈々から突っ込みが入る。
「それはナースステーション!久慈教官が言ったのはテレポーテーション!」
「両津くんには、脳みその回復が必要だよね」
「それはリハビリテーション!」
「両津くんのお笑いは偽物だよ」
「イミテーション!」
「両津くん!そんなことしたら軽犯罪法違反で逮捕だよ!」
「立ちション!」
「じゃあ奈々ちゃん、一緒に行く?」
「連れション!」
その会話に思わず久慈が割り込んだ。
「そのションじゃないわよ!テレポーテーション!」
量子テレポーテーションとは、将来的には物質の瞬間移動を可能にするかもしれない、と言われている理論のことを言う。
ここに量子もつれの関係にあるふたつの粒子があるとする。その二つはどんなに遠く離れた場所にあっても、一方の状態を観測するとその観測と同時に離れた位置にあるもう一方の粒子の状態が確定する。実際には情報が確定されるだけで、テレポートしたわけではないのだが、あたかも瞬間移動したように見えるためそう呼ばれている。量子テレポーテーションを用いれば、理論的には距離も時間も関係なく情報伝達が可能になる。例え何光年も離れた場所であっても、同時に情報が確定するのだから通信手段として、こんなに優れたものは他に無いだろう。だが、現在の地球の技術では第三の粒子を利用したり、古典通信と言われる現在の通信技術を組み合わせての状況でしか実験に成功していない。袴田素粒子たちは、どんな方法でそれを使っているのか、それはまだ謎のままだった。
「まぁどんな仕組みなのかは分からなくてもいいわ。とにかく、素粒子同士はどんなに遠く離れていても、情報の伝達が可能なんだと思って」
「どんなに離れていても、でっか?」
「ええ。何光年離れていたとしても、一瞬で伝わるの」
すげー。生徒たち全員が驚きの表情になっていた。




