第492話 ヤツが帰ってきた
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「あいかわらず、日本のオニギリは美味そうだな」
アメリカ人宇宙物理学者ダン・ジョンソンが、愛菜の手元を見ながらそう言った。
現在ISSはランチタイムの真っ最中だ。HSN・袴田素粒子防御シールドSatellite Network保守プロジェクトルームでも、メンバーはそれぞれが用意した昼食に舌鼓を打っている。
「今日の具はね、ツナマヨとおかかよ」
愛菜は手に持っている三角の物体を、ダンにも見えるように掲げた。
「たった二つでよく足りるよね」
そんな愛菜を不思議そうな目で見ているのは、フランスの宇宙生物学者レオ・ロベールだ。彼は片手に、アルミホイルに包まれたクロックムッシュを持っているのだが、ランチボックスにはもうひとつのカタマリが入っているのが見える。
「同意だね。俺の今日のランチなんて、ハンバーガー、チキンバーガー、それにテリヤキで三個だからね」
「さすがにそれは食べすぎじゃないか?」
ダンの言葉に、レオがそう言って笑った。
「いやいや、クロックムッシュふたつの方が、カロリーが多いと思うぜ」
「ボクが言ってるのは量のことで、カロリーではないよ」
「はいはい、そこまで」
ダンとレオの間に、愛菜が割って入る。
「ここじゃしっかりと栄養をとることが大切よ、だからどっちも正解。ちなみに、糖質量はおにぎりが一番だと思うわ」
そう言った愛菜に、ダンが笑顔を向けた。
「それって暗に、頭脳労働は私よ!って言ってるのかな?」
「脳の唯一のエネルギーは糖質ですからね」
それにニッコリと笑顔で返す愛菜。
三人ともブルーのジャンプスーツ姿だ。それがこのプロジェクトルームの制服でもあり日常服だ。この部屋にはもうひとり、白いジャンプスーツの男がいた。衛星モニタールームの野口守だ。例の謎の宇宙船の発見以来、彼は愛菜たちと同じプロジェクトルームでその観測を続けている。
「ボクのおにぎりは伊南村チーフと違って、ちょっと変わり種です」
そう言って、持っている三角形の物体を二つ、上に上げた。
「おこわとお赤飯ですよ!」
「おこわ?」
ダンが首をひねってその物体を見つめる。
「ええ。食べるのにちょっと勇気が必要なおにぎりです!」
今度はレオが首をかしげた。
「どうして?」
ニッコリと笑う守。
「おー怖っ!……なんつって!」
守のそんな言葉を無視するように、ダンは赤飯のおにぎりに注目していた。
「これ、ライスだろ? どうして赤いんだ?」
「えーと」
助けを求めるような目を、愛菜に向ける守。
日本人ならそのくらい知っておきなさいよ、という顔で愛菜は簡単に説明した。
「小豆を煮ると、赤い煮汁が出てくるの。お赤飯の赤い色はその赤よ」
「チーフ、物知りですね!」
だが、ダンの疑問はそれだけではなかった。
「どうしてライスを赤く染めるんだ? おいしくなるのかな?」
「まぁ、味もあるけど、日本じゃ昔から赤い色は邪気を払うって言われていて、お祝い事の時にお赤飯を炊く風習があるの」
「守、何かお祝い事があるのかい?」
「いやぁ、そういうわけじゃないんですけど、ボクも邪気を払おうかなって」
そう言ってポリポリと頭をかく守。
次に首をかしげたのはレオだ。
「さっきから言ってるジャキって何だ? 僕が知ってるのは、車を持ち上げるヤツかな」
「それはジャッキね。邪気を払うってのは、悪いことを遠ざけるって意味よ」
ダンが口笛をヒューっと吹く。
「すごいな、この赤いオニギリにそんな効果があるのか?!」
「そうね……」
愛菜が少し考え込む。
「科学的に言うと、ポリフェノールかしら」
「どういうことです?!」
守までもが不思議顔になり、愛菜に視線を向けた。
「小豆から出たポリフェノールが、成人病を予防してくれたり免疫力を上げてくれる。これって、邪気を払ってくれてるってことにならないかな?」
「なるほど!現代風の解釈だと、そう言っていいかもしれませんね!チーフ、天才かも」
愛菜はうふふと笑うと、自分のおにぎりにパクリと噛み付いた。
「ジャキを払うポリフェノールオニギリ、興味あるなぁ」
「半分食べます?」
興味津々のダンに、守は自分のオニギリを二分割し、はいと手渡した。
「サンキュー」
その時だった。プロジェクトルームに、派手ではないが緊迫感のあるアラーム音が響いたのは。一同が首をかしげる。
「こんなアラーム音、聞いたことないわ」
「あ、すいません!」
守は三人に頭を下げると、手を伸ばしてコンソールをタップする。
「ボクが個人的にセットしておいたんです」
そしてモニター画面に向かい、何かの操作を始めた。
「例の宇宙船が光学望遠鏡で捉えられたら、音が鳴るように」
三人の目が大きく見開かれる。
「じゃあ?」
「はい。多分、肉眼でそのカタチが判別できるくらいには、捉えたはずです」
守がコンソールをトントンといくつかタップすると、その姿がスクリーンに現われた。まだずいぶんと距離があるらしく、輪郭がぼやけたふわっとした映像だ。
「シャープネスフィルター、かけていきます」
すこしずつ、ハッキリとした姿を見せていく物体。
ダンが低い声でつぶやいた。
「こりゃ、やっぱりアイツだな」
そこにあるのは、地球のどの国の衛星や宇宙船でも無いと思われる、まさに異形の飛翔体だった。




