第49話 地震
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「なんだって?!それはどういうことだ?!」
陸奥は所内連絡用の携帯端末へ大声を出した。
ロボットジムカーナを管理する仮設指揮所の簡易テントは、先程の大きな揺れですでに倒れてしまっている。
ピッと通信を切る陸奥。
「なんかあったんか?」
南郷の声もいつになく真剣だ。
「今の揺れ、地震ではないらしい」
「じゃあさっきのはいったい?」
久慈の問に、陸奥は首を左右に振る。
「まだ分からん。現在震源地の特定を急いでいるそうだ」
「こりゃ、今日のレースは中止やな」
南郷の声は残念そうだ。
「そうですね。コースの状況を確認しないと危険ですからね」
久慈もうなづく。
陸奥がもう一度携帯端末の画面をタップした。
「みんな聞こえるか?」
返事がない。
「こちら陸奥、聞こえているものは返事をしろ!」
端末からは、かすかなホワイトノイズが流れている。
「こりゃトンネルやな」
基本的に連絡用端末の電波は、教習所内の全ての場所に届くように設計されている。建物内や地下、トンネルなど電波が届きにくいところには中継用のアンテナが立てられていた。
「トンネル内のアンテナが、今の揺れで故障したと?」
久慈が心配そうにトンネルの方向を見る。
「このだだっ広いサーキットコースや。他の場所ならどこにいても電波は届くやろ」
両手を広げてそう言った南郷に、久慈が言う。
「まさか落盤じゃ……」
その言葉が終わらないうちに、陸奥が端末の緊急アイコンをタップした。
「こちら陸奥、緊急優先連絡だ。生徒たちがコース途中のトンネル内に取り残されている可能性あり。念の為、救助隊の出動を要請する!」
「陸奥さんと久慈さんはここで救助隊の誘導をたのむわ。俺はトンネルへ様子を見に行ってみる」
そう言うと南郷は所内移動用のEVに向かった。
「ものすごい音がしましたわ」
「びっくりしましたぁ」
奈央も愛理も、意外なほど冷静だ。
先程トンネル内に響き渡った轟音と同時に、照明は全てが消えている。各ロボットのヘッドライトを除いて真っ暗な闇がひかりたちを包んでいた。
「すごい音、前の方から聞こえたよ。何があったんだろ」
ひかりが小首をかしげる。
トンネルはゆるやかなカーブを描いており、この位置からではヘッドライトが届いていない。
「どうしたらええやろ。見に行ってみる?」
そんな両津の提案に奈央が答える。
「こういう時は、動かずに助けを待ったほうがいいのではないでしょうか?」
「そや、無線や!」
両津が、ハンドレバーのアクセスボタンをぐっと押す。いつでも連絡できるように、教官への無線がセッティング済みなのだ。
「教官ズのみなさん!聞こえますか?両津です。南郷センセ!」
無音である。
「ダメみたいですぅ」
肩を落とす一同。
「奈々ちゃん大丈夫?」
ひかりの心配そうな声が各機の無線に入電する。
「確かに、眉毛が怖いデビルスマイルがいつもと違って妙に静かだな」
正雄が珍しく心配げだ。
「泉崎さん?」
「泉崎先輩?」
しばらくの沈黙の後、奈々のか細い声がみんなに届いた。
「暗いよ〜、狭いよ〜、怖いよ〜」
奈々は極度の怖がりな上に、閉所恐怖症の気があるのだ。
「あ、奈々ちゃん、お化けと狭いところが怖いんだった!」
「お化けとか言わないでよ!」
奈々が大声でひかりに突っ込む。
「元気になりましたわ」
「良かったですぅ」
正雄がニヤリとイタズラ小僧のような笑みを浮かべて言った。
「お化け」
「ひぇぇ〜!」
「オマケ」
「……」
「お化け」
「ひぇぇ〜!」
「面白いな、これ」
「私で遊ばないでよ!」
奈々もけっこう元気そうである。
EVでトンネルへと向かっている南郷の端末から陸奥の声が響く。
「南郷さん、今どこです?」
「もうちょっとでトンネルや」
コース以外の場所はまだ舗装されていない。南郷のEVはガタガタと大きく揺れている。
「地震の原因はまだ分かりませんが、震源地が判明しました」
陸奥の声に焦りの色がうかがえる。
「どこや?」
「この埋立地の中心です」
南郷が目をみはった。
「それ、どういうことや?」
「分かりません。それから、」
「それから?」
一瞬の沈黙の後、陸奥が言った。
「微弱ですが、袴田素粒子の反応が出ているんです」
「なんやて?!」
東京湾の施設と違い、ここの防御シールドはまだ最新型に交換されていない。その工事の真っ最中である。
「急いでください!」
「了解や!」
南郷は激しく揺れるEVの速度を上げた。




