第483話 呼びかけ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「私たちの中の素粒子……別の自我のことだが」
船長が、何かに迷っているように目を動かした。
それが何を意図しているのかが分かっているのか、ドクターがひとつうなづいた。
船長がスッとドクターに視線を合わせる。
「呼び出すことは可能だろうか?」
二人共、その危険性に思い至っているのだろう。彼らの目には迷いが浮かんでいる。
「分かりません。この半年ほどの間、存在は意識できてもコンタクトには成功していません。それに……」
「うむ。もし呼び出すことに成功した場合、外のクルーたちのように心を乗っ取られる可能性があるかもしれない、と?」
「その通りです。医学的にも科学的にも、全く状況が分かっていないのが現状です。何が起こっても不思議ではありません」
そう言うとドクターは肩をすくめた。
ブラックコーヒーの香ばしい香りと、オレンジペコの爽やかなそれが部屋を満たしていく。
「だが、やってみようじゃないか」
船長がドクターに笑顔を向けた。
「今の私達にできることは限られている。それをひとつずつ試していくしかないだろう」
ドクターもゆっくりとうなづく。
「そうですね。ただ、呼び出すと言っても、その方法すら分かりませんが」
「そうだな……ひたすら心の中で呼んでみるしかないだろうな」
二人同時に苦笑する。
それからの数十分、彼らは目と口を閉じ、ひたすら自分の中の存在に語りかけた。
まるで夢見るように、睡眠時のまどろみのような感覚に包まれていく。
掴めそうで掴めない。
見えそうで見えない。
そんな歯がゆい感覚が続き、深い霧のように真っ白なベールに包まれていく。
最初に目を開けたのは船長だった。
「難しいな」
ドクターも目を開ける。
「そうですね。とらえどころが無いと言うか、存在が違いすぎて認識できないと言うか」
「そうだな。言語体系自体が違いすぎて、コミュニケーションは不可能なのかもしれん」
同時に大きなため息をつく二人。
ドクターが顔を上げ、船長に視線を向ける。
「あちらさんからの呼びかけを待つしか無いのかもしれません」
「ふむ、今はどうにもならんと言うことか」
「そのようです」
彼らとコミュニケーションが取れた場合、この船の現状や彼ら自身について何らかの情報が得られるかもしれない。そんな期待は見事にしぼんでしまった。
「誰か他にも、私たちのように自我を保っている存在がいてくれるといいのだがな」
船長の期待は当然である。他にも同士がいた場合、現状を打破できる可能性は大きく広がってくる。
「私たちが監禁される直前に見たクルーたちの様子では、あまり期待はしない方がいいかもしれません」
そう言いつつ、ドクターがわずかに首をかしげた。
「ただ、情報システム部の三人は、少し表情が違っていたように見えました。希望的観測ってヤツかもしれませんがね」
自分の言葉に自信が無いのか、ドクターは自嘲気味に笑顔を浮かべた。
船長が、何を見るでもなくフッと天井を見上げる。
「もし彼らが無事なら、何らかの手を打ってくれている可能性はある。いや、そう信じたい、と言ったところか」
船長の言葉は途中から次第に小さくなり、まるで独り言のように変化した。




