第480話 合成コーヒー
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
その部屋にはほとんど何もなかった。
真っ白な壁と天井、床は薄いグレー。
家具は白いテーブルと椅子が二脚、多少の日用品が収められた戸棚。
そしてベッドがふたつのみである。
「やはり、彼らの目的がサッパリ分からんな」
貫禄のある年配の男性はそう言うと、大きなため息をついた。伸縮性のある着やすそうなグレーの私服姿で、テーブルに向かった椅子に腰掛けている。この宇宙船の船長・館山俊彦である。
「聞こえている音からすると、この船はずっとどこかへ向かって飛び続けているとは思いますが、行く先がいったいどこなのか……」
白衣の男が首をかしげる。
もう一脚の椅子に座った彼は、ドクターの竹田君人だ。
船長よりは少し若めに見えるが、恐らくアラフィフほどの年齢だろう。
二人はこの殺風景な部屋に監禁されていた。まぁ監禁とは言っても、特に取り調べが行なわれるとか拷問されるとかはなく、ただ部屋から出られないだけなのだが。
「しかし我々人類が、ここまでAIに頼っていたとはな」
船長が苦笑する。
それは、ここに閉じ込められた二人の実感だ。宇宙船での業務はもちろんプライベートにおいても、AIのサポートの無い生活は考えられないのが現代である。監禁され、そのサポートの全てが無くなった今、二人はつくづくそう思っていた。
会議や作戦立案などで何かを考える時には、AIの提示する情報をベースにする。
プライベートでメッセージを書く時でさえ、適切な文言をAIに作ってもらってから微調整するのが日常になっている。
ドクターも船長同様に肩をすくめた。
「漢字がどんどん書けなくなっているとは、いつも思っていたのですけどね」
皮肉な笑いを浮かべるドクター。
二人が監禁されてからすでに半年近い時間が過ぎようとしている。その間、いったい何が起きているのか、二人で何度も考察を繰り返してきた。だが、AIからの情報や記録から一切遮断されたこの部屋では、大した結論に至ることはできそうにない。
「やはり、ここから出ることが必要、というわけだ」
それについては何度も話し合ってきた。だが、その可能性の欠片さえ見いだせていないのが現状である。
「とりあえず、ここまでで分かっていることをもう一度まとめておこう」
船長はそう言うと、目の前に置かれているカップを持ち上げ、その中身をひと口すすった。熱々のブラックコーヒーだ。合成コーヒーとは言え、この船のメニューの味はなかなかのものである。最新のフードプロセッサーは、ホンモノの材料を使った高級料理に負けない美味しさを、しっかりとクルーに届けてくれる。それが最新鋭の宇宙船、ハーフムーンの売りでもあるのだ。
「そうですね。何か見落としていることが無いか、詳細に思い返してみましょう」
そう言うとドクターも、ドリンクをひと口飲む。
爽やかな香りの紅茶、オレンジペコである。
ドクターは彼らが手にしているカップから、壁のフードプロセッサーに目を移した。
「ことの発端は、カフェテリアの自動調理器の故障でした」
そして二人で、克明に記憶をたどっていった。




