第48話 トンネル
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
第二教習コースのトラックを、六台のロボットが疾走している。まだスタートしたばかりのため、ほぼ横一線、順位にほとんど差は出ていない。
そんな集団から取り残され、スタート地点でおいっちに、おいっちにと、足踏みしているロボットが一台。ひかりの火星大王だ。四角いブロックで構成されているその無骨なボディに、少し暖かくなってきた冬の日差しが反射している。
「遠野!早くスタートするんだ!」
陸奥から激が飛ぶ。
「えーとえーと、こうだっけ?」
ひかりが操縦レバーをぐいっと引いた。
「あれれ?」
スタート地点からバックで走り出す火星大王。
「どうして後ろに走っちゃうの?」
火星大王を見つめる三教官。
「あいつバックギアに入れたのか」
「彼女、器用ね」
「陸奥さん、あれって暴走ちゃうんか?」
呆れたような南郷の言葉に陸奥が苦笑する。
「通常運転です」
ひかりの顔がパッと明るくなる。
「じゃ、こうすればいいんだ!」
操縦レバーをぐぐっと回すように動かす。
火星大王はバックのまま、反転してスタート位置に戻ってきた。そしてそのままコースを爆走して行く。バック走行で。
「彼女、器用ね」
「ほんまやで」
「アメリカ仕込みのメリケン走行さ!この俺に追いつけるかな?」
正雄のコバヤシマルが先頭を走る。
「メリケンって何ですか?」
「さぁ」
愛理の疑問を奈央がひとことで粉砕する。
「アメリカンが訛ってメリケンになったのさ!」
正雄がニヒルにそう言った。
「たまに本当のこと言わないでよ!拍子抜けするじゃないの!」
奈々はなぜか怒っていた。正雄の答えは正解であるのに。
「奈々ちゃ〜ん!」
火星大王がものすごいスピードで追いついてくる。しかもバック走行で。
後方を常に表示しているディスプレイをチラリと見て、奈々は驚きを隠せない。
「遠野さん、どうしてバックなの?!」
「前向きに走れないけど、こうすればバッチリだよ〜」
みるみる接近してくる火星大王。
「あんな走り方でなんで追いつけるねん?!」
「不可思議ですわ」
「すごいですぅ」
その時、全員の正面ディスプレイにオーバーレイが表示された。
「遠野さん!この先のパイロンで360度ターンがあるわ!あなたはそこで前向きに切り替えなさい!」
奈々のアドバイスにひかりがうなづいた。
「うん!やってみる!」
七台のロボットの足音が、広大な埋立地に響き渡る。
先頭の正雄機が、一番にパイロンに到着。
「よし!俺の華麗なターンをその目に焼き付けるんだ!」
姿勢を低くし、少しボディをひねってパイロンの周りを回る。自動車で言うドリフト走行に近い動きである。
次にマリエ機が、最小限の動きでサッと回転する。
「負けてられないわ!」
奈々機はマリエとは逆に、豪快な動きで360度をターンした。
奈央機、愛理機も無難にこなし、最後はいよいよひかりの番である。
「遠野さん、今よ!」
「りょうか〜い!」
ひかり機がパイロンに到着、ぶん!と音が聞こえそうな大ぶりで大回転。その途中でロボットの方向を入れ替えようと奮闘する。だが、まるでフィギュアスケートの三回転ジャンプのように、くるくるくるっと回りだした。
「目が回るよ〜」
そして、ターンが360度を超えたひかり機は、そのままスタート地点へ向けて爆走していった。
「遠野さん!」
「あちゃ〜、もどっていってもーた」
「大変ですわ」
「ほんとですぅ」
「アクロバティックなギャルだぜ」
そんな騒動の中、マリエ機が正雄機をスッと抜いて先頭に立つ。
「お先に」
マリエの静かな声が、全ロボットの無線に届いた。
「さすが俺のライバル、ライトヴァイオレットガールだぜ!」
「どうしてマリエさんがそんな名前なんですかぁ?」
愛理の疑問に、今度は奈央がちゃんと答える。
「たぶん、髪の色が薄紫だからじゃないでしょうか」
「さすがアメリカ帰りですぅ〜」
「ヴァの発音がなんかムカつく!ヴァの発音が!」
奈々の眉毛に次第に角度がついてくる。
「奈々ちゃ〜ん!」
どこでターンしたのか、ドシドシドシっと野暮ったい足音を響かせて、ひかりの火星大王が再び追いついて来た。今度はちゃんと正面を向いて走っている。
「すごいなぁ、また追いついて来たやん」
「私たち全力で走っているのに、確かにすごいですわ」
「びっくりですぅ」
「あいつも俺のライバルさんだぜ!」
六台のロボットは、マリエを先頭に戦闘機の三角編隊のような陣形で走っている。
「この先はトンネルだ!ヘッドライト点灯!」
無線機に陸奥の声が届く。
《了解!》
全員の声が揃った。
そしてトンネルに突入。次々とヘッドライトが点灯されていく。サーチライトのような光が七本、各機の進行方向を照らす。だが、トンネルはゆるくカーブしており、前方がどうなっているのかは把握できなかった。
「このトンネル、どんくらいの長さなんやろ?」
両津が疑問を口にする。
「メインディスプレイを見てごらんなさい。オーバーレイが出てるわ」
「ホンマや。えーと、三キロぐらいやから三分ぐらいで出れるかな」
「しかし、遠野くんが戻って来たのはビッくらポンやったなぁ」
南郷がふぅ〜っと息をつく。
「でももう他のみんなに追いついてるわ」
仮指揮所に設置されたミニディスプレイに、七つの光点が光っている。
「ん?地震か?」
仮指揮所のテントがゆさゆさと揺れ始める。
「おい、これけっこう大きいで」
「走りにくいですぅ」
トンネルの中も、地震に襲われていた。
「地震よ!みんな一旦ストップして!」
奈々の叫びに、全機が急ブレーキをかける。路面を擦る大きな音を立てて、七台のロボットが停車した。
「これ、けっこうヤバいんちゃう?」
次第に揺れが大きくなっていく。
「奈々ちゃん、怖いよ〜」
「私もですぅ」
「このトンネル、崩れたりしませんわよね?」
「縁起でもないこと言わないで!」
前方からミシミシと嫌な音が響いてきた。
どんっと、下から突き上げるように大きな揺れがトンネルを襲う。
「きゃっ!」
「うわっ!」
オートバランサーのおかげで、ロボットは簡単には倒れない。だが、コクピットに置かれている固定されていないものが暴れ始める。このままでは乗っている人間のほうがケガをしかねない。
その時、大音響と共に天井が落ちてきた。




