第479話 バナナ・ボート
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
奈央の説は一理ありそうに思える。
ひかりの火星大王は、今から15年以上も昔のロボットだ。とっくに生産が終了しており、先日の東京ロボットショーではフルモデルチェンジされた新型が発表されている。
一方、他の生徒たちが乗っている教習車は最新型がほとんどだ。なにしろこの教習所に入る時に政府から、愛車購入用に結構な額の補助金が出ているからだ。おかげでほとんどの生徒は、自分が好きなメーカーの最新機種を選んでいた。大和と心音に関してはあまり値の張らない大衆車ではあるが、最新型の現行機種に変わりはない。
「そう言われたら、昔のロボットに乗ってるの、遠野さんだけやもんなぁ」
そう言うと両津は、まだひょこひょことステップを踏んでいるひかりに目をやった。
奈々もひかりに目を向けながら言う。
「そうよね。いつもひかり自身が知ってるはずのない古い言葉がよく出てくるもんね。しかも、それってどういう意味って聞いても、知らない!なんて言うことが多いわ」
奈央もひかりを見つめている。
「つまり、火星大王さんが思ったことをひかりが反射的に口に出している、ってことかもしれませんわ」
「やっぱり一心同体じゃねぇか」
正雄はそう言うとニヤリと笑い、ふところから何かを取り出す……ような仕草をした。だが何も持ってはいない。その仕草は、彼お得意の例のやつだ。ギロチンカッターで葉巻の吸口をカットし、バーナーで火を付ける。そして口に加えて少しずつ吸っていく。
「葉巻は、肺にまで煙を吸い込んではいけないんだぜ」
そう言うと正雄は、ふーっと煙を吐き出す……仕草をした。
「やっぱりハバナシガーは最高だぜベイビー」
奈々が肩をすくめて言う。
「ハバナかバナナか知らないけど、それ、そろそろ飽きてきたわよ」
正雄も同様に肩をすくめた。
「ハバナはいいが、バナナピールには幻覚作用があるのさ。そんなもの吸うヤツの気が知れないぜ」
「あんたどっちも吸ってないじゃないの!」
再びひかりが叫ぶ。
「バナナボート!」
「海水浴かよっ!」
奈々の高速ツッコミだ。
だが、それには答えずひかりが歌い出す。
「デーオ!イデデイデデ、痛ぇ〜よぉ♪」
奈央が落ち着いた顔で奈々に振り向いた。
「レジャー用のバナナボートではなくて、ジャマイカ民謡の方だったみたいですわ」
「だとしても、痛くはないでしょ!」
ひかりの歌は続く。
「今月は足りない、借りねばなぁ〜な♪」
「ジャマイカ民謡が、日本語のお金借りる歌になっとるで?」
両津が不思議そうに南郷の顔を見た。
「今月は足りとるわ!」
その言葉に久慈が吹き出す。
「南郷さん、そういうことではなくて」
陸奥は苦笑している。
「ジャマイカ民謡を、どうして遠野が日本語で歌ってるのか、ということですよ」
「あー!そういうことかいな、両津がボクのこと貧乏や言うてるのかと思いまして」
ガハガハ笑う南郷。
その時、どこからか男の歌声が聞こえてきた。迫力のある、年配男性の声だ。
「Come, mister tally man, tally me banana〜♪」
職員室の引き戸を開き、入ってきたのは雄物川である。
「懐かしい歌が聞こえたのでな、思わず来てしまったよ」
ニコニコとなぜか上機嫌だ。
「雄物川さん、この歌ご存知なんでっか?」
南郷の問いに、雄物川は懐かしそうにうなづく。
「昭和30年代、1960年代後半頃に日本で流行した歌なんだよ。そして」
雄物川がひかりに視線を向けた。
「さっき遠野くんが歌ったのは、当時庶民の間で大流行していた替え歌だ」
バナナ・ボートはジャマイカ民謡だが、世界的に大ヒットしたのはハリー・ベラフォンテが歌った1957年版である。その後日本でも、浜村美智子、江利チエミ、ブルー・コメッツなど、多くの有名歌手がカバーを発売した。記憶の新しいところでは、ORANGE RANGEが「ORANGE BOAT」と言うタイトルでアルバムに収録していたりする。
両津が、まだ歌い続けているひかりを見る。
「やっぱり古いもんばっかりやなぁ。これ、ホンマに火星大王……さんのせいなんやろか?」
首をかしげる両津に、奈々が言い放つ。
「それ、火星大王に直接聞けばいいんじゃない?」
ひかりが歌を止め、奈々に詰め寄った。
「さ!ん!」
「はいはい、火星大王、さ!ん!」
「よろしい!」
そんなひかりを眺めつつ皆は思っていた。格納庫へ行ってみようと。




