第478話 火星大王がやって来た
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「じゃーん!」
ひかりの父、遠野光太郎が満面の笑みを浮かべて両手を広げた。
「これが、今日から我が家の家族の一員、火星大王だ!」
ひかりの自宅前の道路に、一般的な自家用ロボットサイズの赤い機体が立っている。大きさこそ普通車だが、各パーツがゴツゴツと角張っているため、ひかりには少し大きめに見えた。
彼女がまだ六歳、幼稚園の年長組の頃である。
「お父さん!すごいね!」
ひかりの隣ではしゃいでいるのは兄の拓也、11歳の小学五年生だ。
全世界が火星基地の完成に湧いていた時代である。大人も子供も火星からのテレビ中継に胸躍らせ、一大宇宙ブームが巻き起こった頃だった。「火星」や「宇宙」と言った言葉がその年の流行語大賞にノミネートされ、みんなが宇宙時代の到来に沸き立っていた。そんな時代の最新鋭マシンこそ火星大王に他ならない。世界的な大ヒット商品となったため、現在でもアメリカの現代文化博物館に常設展示されている。
「♪ボクのおうちに王者がやってきた〜!
その名は火星大王、正義のロボット〜!
マーズキングっ! おぅ、おぅ、おぅ!」
拓也が飛び跳ねながら、そんなCMソングを歌っている。
ひかりは、赤い角張ったロボットを見つめながら首をかしげた。
「このロボットさん、前にも持ち主さんがいたの?」
おっと驚きの目をひかりに向ける光太郎。
「ひかり、どうしてそれが分かったんだい?」
ひかりは幼い目をじっとロボットに向けながら言う。
「わかんないけど、そんな気がしたの」
「そうなんだ、この火星大王は中古でゆずってもらったんだよ」
当時の光太郎はまだ30歳だ。仕事は大学で研究者をしている。結婚してなんとか家を構えることには成功したが、大学からもらえる給料で新車を買うことは難しい。そんな時に声をかけてくれたのが、彼が働いている城南大学文学部歴史遺産学科の恩師・岸田教授だった。
「子供が二人もいるんだ。自家用ロボットでドライブにぐらい連れて行ってあげなさい」
そう言って自分の愛車を中古で安く譲ってくれたのだ。
この時教授はすでに80歳を超え、ロボット免許の返納を考えていたと言う。
「わしじゃーっ!」
その時突然、火星大王の影から一人の老人が飛び出してきた。
ぎょっとして後ずさるひかり。
だが老人の顔を見るなり、パッと明るくなる。
「あ!岸田のおじーちゃん!」
岸田教授と遠野家は家族ぐるみの付き合いであり、ひかりにとって教授は祖父のような存在だった。
「わしゃまだおじぃちゃんではないぞ!」
そう言って岸田はペコリと頭を下げた。
「おじぃちゃんじゃなくて、おじぎちゃんじゃ!」
いきなりダジャレをぶちかまし、がはがはと笑う岸田。
ひかりは、サッパリ意味が分からずに首をかしげる。
「岸田先生、ひかりの歳じゃまだダジャレは理解できませんよ」
困った顔を岸田に向ける光太郎。
「そうか? ワシがひかりちゃんぐらいの歳には、もうダジャレしか言っとらんかったんじゃがのぉ」
「さすがに縄文時代の話は知りませんよ」
「ワシをいくつだと思っとるんじゃ?!この馬鹿弟子め!弟子が馬鹿でし!なんつって!」
そして再びガハガハと笑う。
もちろんひかりは首をかしげたままだ。
そんなひかりに、光太郎が肩をすくめながら言う。
「岸田先生が、この火星大王を中古で安くゆずってくれたんだよ」
光太郎の隣に立っているひかりの母、あかりがひかりの肩に手を当てる。
「さぁ、先生にひかりからもお礼を言おうね」
「うん!ありがとう、おじーちゃん!」
ひかりの笑顔に、岸田はますます上機嫌になった。
「おじぃちゃんじゃない、お兄ちゃんじゃ!いや、キティちゃんじゃ!」
光太郎が苦笑する。
「それはさすがにムリがありますって」
「ありがとう!キティちゃん!」
ひかりの言葉に、岸田が破顔した。
「ほれ!ひかりちゃんには通じたぞ!」
そしてガハハ笑いである。
「まぁ、それでいいですよ。じゃあ記念の写真撮りますから、みんな火星大王の前に並んで」
そう言ってカメラを構える光太郎。
「おや……おかしいな。このカメラ、壊れてるんじゃないか?」
クスッと笑うあかり。
「お父さん、レンズのキャップが付いたままですよ」
「さすがだね。機械に強いお母さんで良かったよ」
「キャップは機械じゃないよ」
今度は拓也が笑う。
「そう言えばそうだな」
「遠野くんは研究室でも機械音痴で有名なんじゃよ」
岸田もうれしそうだ。
ひかりの父は考古学者である。ひかりにはさっぱり分からない難しい研究をしている。
母は国連宇宙軍のコンピュータ技術者だ。もちろん母の仕事もひかりにとってはさっぱり分からない。でも、いつもひかりは思っていた……お父さんもお母さんもかっこいい!
「なるほど」
と、両津がうなづいた。
「そのおじぃちゃんセンセの言ってたことを、火星大王が覚えとるってことやな」
ひかりがキッと両津を睨む。
「火星大王、さ!ん!」
「あ、ごめん、火星大王さんやった」
両津が小さく頭を下げる。
「その可能性が高いのではないでしょうか。遠野さんにはいつも火星大王さんの声が聞こえる、逆に遠野さんが聞いていることも火星大王さんに聞こえていると考えた方が良いでしょう」
そう言いながら、奈央がゆっくりとうなづいた。
両津がハッとひらめいたように顔を上げる。
「で、火星大王……さんが、古いこととかダジャレとかを考えとるってことか!」
「そうなのかもしれませんわ」
正雄がヒューっと、口笛のような音を……口で言った。
「それはすげーな。と言うことは、遠野くんと火星大王……さんは、一心同体ということかいベイビー!」
ひかりが軽くステップを踏みながら叫ぶ。
「一心同体少女隊!」
ぶふっと、南郷が飲んでいた紅茶を吹き出した。
「少女隊て、ボクの青春やないか!」
「ないか!外科!産婦人科!」
ひかりは絶好調である。と言うことは、火星大王が絶好調なのだろうか?
るんるんと浮かれているひかりと違い、生徒たちは皆格納庫の方角を見つめていた。




