第469話 未来から来た女
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
美咲は、三人にゆっくりと語りながらも思考していた。
これまで美咲は今自分がいるこの場所は、アイが美咲自身の脳内でシミュレーションしている世界だと考えてきた。だが思い出してみると、アイがそう語ったわけではない。あくまでも美咲の想像なのだ。
では、こんな可能性は無いだろうか?
アイは素粒子である。袴田教授によると、人間には簡単には知ることの出来ない宇宙の真理に近いところにいる存在であるらしい。そのため量子テレポーテーションなどの、超と呼んでもいいほどに高度な技術を使うことが可能だ。であれば、美咲にとって理解の及ばない量子力学的技術により、美咲の精神を過去に送り込むことができてもおかしくないのではないだろうか。
美咲には、アイになら可能なような気がしていた。
あのアイくんなら、それぐらいやってしまえるかも。
美咲にとって誇らしくもあり恐ろしくもある。
例えば今ここで、美咲の手で過去の出来事を変えてしまったとしたら、いったい何が起こるのだろう?
脳内シミュレーションであれば、美咲が目覚めればそこで全ては元通りだ。だがもし、何らかのカタチで過去に飛ばされているとしたら、世界線そのものに変化が現われるかもしれない。美咲が目覚めた時、そこは彼女が生きてきた世界線ではなく、分岐した別のタイムラインになっている可能性はないだろうか?
そこまで考えた時、美咲はブルッと小さく震えた。
だが、それを今考えることに意味はあるのだろうか?
量子論に疎い美咲には、結論を導き出すことはできないだろう。それなら、今自分に出来ることを精一杯やるべきじゃないのか?
美咲がそんな迷いの中にいた時、正明の明るい声が聞こえた。
「てことは、競馬とか当て放題じゃないですか!」
あまりに突拍子もない言葉に、美咲の中から悩みが吹き飛んでいく。
「だって、菊花賞とか天皇賞とか、有名なレースの結果なら、さすがに真面目な副長でも覚えてたりするでしょ?」
正明が好奇心に満ちた目を美咲に向ける。それは楽しそうにキラキラしていた。
「競馬って」
思わずプッと吹き出してしまう美咲。
結菜が正明をたしなめるように言う。
「下品ね。どうせなら、宝くじの当選番号の方が確実じゃない?」
「でも、そんなに細かい数字はさすがに覚えてないかなぁって」
そしてあかりが呆れた声を出す。
「君たち、どっちもギャンブルじゃないの。そんなことより、新技術の方が知りたいでしよ? 画期的な発明とか」
「主任、それでひと儲けしようって腹でしょ?」
「私はそんなに腹黒くありません」
あわてて美咲が三人の口論を止める。
「ちょっと待ってください!それより、私が未来から来たってこと、信じるんですか?」
そう言った美咲に、三人がキョトンとした顔を向けた。
「だって副長、ウソはつかないでしょ?」
「私もそう思います」
正雄と結菜の言葉に、あかりもうなづいている。
「皆さんって」
美咲の顔に、思わず笑顔が溢れ出した。
それに答え、正雄も笑顔を返す。
「ボクたちこう見えて、宇宙物理の専門家ですよ? タイムリープの可能性ぐらい、よく知ってるつもりです」
「だからこそ、たった三人にこんなデッカイ宇宙船のシステム全てを任されているんですよ」
そう言った結菜に、あかりが肩をすくめる。
「だから残業の毎日ですけどねぇ」
カフェテリアが楽しそうな笑い声に包まれた。
そうだ。この三人は国連宇宙軍や国際宇宙開発局に選ばれた地球の頭脳なのだ。おそらくトップから数えたほうが早いだろう。知識も、そして判断力も抜群なのだ。
「分かりました。まずは、私が知っている袴田素粒子についての全てから、お話しましょう」
美咲は小さくうなづくと話し始めた。




