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第467話 ボサノバ

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 まどろみを抜けゆっくりと目を開いた美咲の耳に、心地良い音楽が流れ込んできた。

 サンバのようなラテン系の音楽と、アメリカのジャズが融合したような曲ね。

 ぼんやりとした頭でそう感じた美咲は、それがボサノバであることにふと気付く。

 ゆっくりとあたりを見渡すと、そこは宇宙船の中らしきシームレスの壁で囲まれた広い部屋だ。

 美咲は調査宇宙船ハーフムーン号のカフェテリアに戻っていた。

 そこには彼女以外に三人の人間がいた。彼女とテーブルを同席しているのは、情報システム部主任の遠野あかりと、その助手である野沢結菜、田中正明である。広いカフェテリアに美咲たち以外に客はおらず、店内に優雅な雰囲気のボサノバが小さく流れていたのだ。

 さっきの続きね。

 そう思うと、美咲はあたりをよく観察した。

 やはりそのようだ。カフェテリアはついさっき美咲が離脱した時と、全く同じ状況にあるようだ。

 アイくんに質問があって来たんだけどなぁ。

 どうやら彼は、その問いにはすぐに答えをくれそうになかった。

 まだ、彼なりの条件が揃っていないのかもしれない。

 ほんと、アイくんて面倒な性格よね。

 まぁ頼りにはなるんだけど。

 美咲はそう思い、心の中で苦笑した。

「山下副長にも分かっていただくためにも、現状を整理しておきたいと思うの」

 あかりはそう言うと、三人の顔を見渡した。

「まず、私たちの感染状態について、田中くん説明よろしく」

 指名された正明はすっと立ち上がり、美咲に視線を向けた。

「副長に関してはまだ分かりませんが、主任とボク、そして野沢さんに感染した素粒子は、敵対的な意志を持っていません」

 美咲がうなづく。

「私もそうです」

 正明もうなづき、説明を続けた。

「僕たちの脳内の素粒子と、他のクルーに感染しているものとの違いは、現時点では判明していません」

 美咲はふと感じた疑問を口にする。

「その素粒子と、会話はできないのですか? 詳細を聞いてみてはいかがでしょう?」

 その言葉に、あかり、正明、結菜が顔を見合わせる。

 そしてあかりが美咲の目を、じっと覗き込んできた。

「私たちに感染している素粒子とは、なんとなく感情や感覚を感じ合える程度です。もしかして、副長は会話できるのですか?」

 美咲の頭に、袴田教授の解説が浮かぶ。

「我々の分析では、袴田素粒子も、ダーウィンの図版のように進化の度合いによる様々なタイプが存在します。現在判明しているのは五つのタイプ。仮に、A、B、C、D、Zとしておきます。Aはまさに素粒子へと進化したてのもの。Bは本能の赴くままに動く個体。Cは集団で何かの目的に向かって同一行動をとる個体。Dは意志や理性を持ち、それにより行動する個体。そしてZは、現在の我々が遭遇している最も進化した個体、アイさんです」

 やはりアイは特別なのかもしれない。

 おそらく、あかりたちに感染している素粒子はC、またはDタイプなのだろう。

 または、素粒子との共鳴率の違いなのかもしれない。意思の疎通をしっかりと可能とするためには、素粒子との共鳴値が高いことが必要とされるのか?

 もしそうであれば、美咲も生徒たちのように共鳴値が高いのかもしれない。

 美咲は苦笑をあかりに向けた。

「いえ、もし皆さんがそうなら便利だなって」

「確かにそうですね」

 正明が肩をすくめて言う。

「だから、ヤツらと同類のふりをするのが大変なんですよ」

「ふり?」

 それにはあかりが答えた。

「ロイコクロリディウムを知っていますか?」

 美咲が少し顔をしかめる。

「確か、カタツムリに寄生する寄生虫ですよね?」

「ええ。ロイコクロリディウムに寄生されたカタツムリは、運動ニューロンがハッキングされて、まるでゾンビのようになってしまいます。カタツムリは意識を乗っ取られて、自分の意思で自分を動かすことができなくなるんです。私たち以外のクルーは、それと同様の状態になっていると推察しています」

 両手を前に突き出した正明が、まるでゾンビのような動きを真似る。

「だから他のクルーの前に出る時は、ボクらも同様に心を乗っ取られてる状態に見せないとヤバいってわけです。でも、どうすればそう見えるのか、ボクらに感染してる素粒子に聞ければいいんですけど、なんとなくの感覚しか伝わって来ないのでよく分からなくて……で、いつもヒヤヒヤなんですよ」

 まるで綱渡り状態だ。

 これではいつこの三人も、艦長やドクターのように監禁されてしまうか分からない。

 何かするなら、できるだけ早い方がいい。

 だが、美咲には分からないことがあった。

 今彼女が体験しているのは、アイが美咲の脳内でシミュレーションしている過去の出来事である。彼によると、素粒子が残している過去ログの解析結果だそうだ。もしも美咲が行動を起こしたり、或いはあかりたちに美咲が知る最新の情報を伝えたとして、このシミュレーションの結果が変化することがあるのだろうか?

 それとも、何をしても結果は変わらないのか?

 ほんの一瞬の間逡巡した美咲だったが、小さくうなづくと心を決めた。

「あの、私から皆さんにお話したいことがあるのです」

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