第462話 安全保障貿易管理
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
そこからの葵の話は突拍子もなかった。
後藤が思わず困惑の声を上げる。
「おいよぉ、おめぇがそれを言うのかぁ?」
後藤の声に、葵が鋭い目で周囲を伺った。
「せっかく場所を変えたのです。あまり目立たないようにお願いしますね」
とは言うものの、巨大な体躯の大男とスラリと背の高いモデルのような女性、そして日本の平均身長より低い小柄な、だが非常に高級そうなパンツスーツの女性の三人組が一緒にケーキを食べているのだ。目立たないはずがない。
「葵、ここじゃ砕けさせてもらうわよ」
「もちろんです」
夕梨花の言葉に、葵が笑顔でうなづいた。
「あまりにも突飛なことに、私もゴッドも驚いている。もう一度言ってくれないか?」
再び葵が居住まいを正し、ピンと背筋を伸ばした。
「なぜ、ブラック・アイビスの無人ロボット兵に、花菱工業製のAIモジュールが使われていたのか、そちらでも調べてもらいたいのです」
夕梨花と後藤の目が、再び驚きで見開かれる。
「まず、相手がブラック・アイビスだと、どうして分かった?」
「我社の情報網を侮ってもらっては困ります。世界中のどこで、どんな組織が、どんなロボットを使っているのかは、ほぼ把握しております」
ほぉと、後藤が少し関心したような声をもらした。
夕梨花がカラダを少し前へ乗り出す。
「では、なぜあれが無人だと?」
「あのロボットの動きを分析したところ、花菱が開発したAIモジュールによるものだと判断しました」
「ファコムか?」
「はい。そこはもう隠してもしょうがないでしょう。トクボの皆さんが現場で採取した破片から、すでに分析済みだと言うことは分かっています」
後藤がニヤリとした笑顔を葵に向ける。
「新宿で、俺達が尾行していたことも知っているんだろぉ?」
その問いに葵は、声を出さずニッコリとした笑顔で答えた。
「そのなんとかモジュールってのを、おめぇらがダスクに輸出したんじゃねぇのかぁ?」
後藤の言うことは非常に危険である。
安全保障貿易管理の観点から見ると、ファコムの輸出は違法になるのだ。安全保障貿易管理とは、武器や軍事転用可能な貨物・技術が、懸念活動を行なう恐れのある国家やテロリストの手に渡らないよう、輸出や技術の提供を管理することである。これは国際輸出管理レジームと呼ばれる、先進国を中心とした国際的な枠組みだ。核兵器や化学兵器、生物兵器など一般市民を巻き込む兵器、さらにその送達手段であるミサイルを含め、その国際間の移動を制限することで安全保障を図ることが目的である。具体的には、制限する項目や兵器、技術上の内容などについて各国の代表者が話し合い、明確に取り決めている厳格な枠組みなのである。それに日本の企業が加担しているとなると、国際問題にもなりかねない重大案件だ。
「新宿で花菱のなんとかって野郎がダスクのドルジと会った後、おめぇに会っていたことは分かっているんだぜぇ?」
その問いに、葵は落ち着いて紅茶をゆっくりと飲んだ。
「あなたのおっしゃる通りです」
「じゃあなぜ、その話を私たちに聞く?」
葵は紅茶のカップをソーサーにコトリと置くと、夕梨花と後藤の顔を見る。
「実は、わたくしが知っているのはそこまでなのですよ」
「そこまでだぁ?」
「ええ。ダスク共和国軍部の人間と花菱がつながった。そこから先のことは、どうなったのかが分かりません」
夕梨花と後藤が顔を見合わせる。
「どうしてだ? 霧山代表の第二秘書の葵なら、知っていて当然なんじゃないのか?」
夕梨花の言葉に、葵が苦笑した。
「お恥ずかしいことですが、社内にはいくつもの派閥があるんですよ」
「派閥だとぉ?」
葵が肩をすくめる。
「なんと言うか、総身に知恵がってやつですね。他の派閥の動き全てを把握できるわけではないのです」
その言葉に、夕梨花が首をかしげた。
「だとしても、葵の今やっていることは、会社への背信行為じゃないのか?」
「そうだぜぇ、俺たち警察にそんなことを暴露して、裏切り者ってことにならねぇのかぁ?」
葵の苦笑が深まる。
「私は会社、いえ霧山様に仕えている身です。他の派閥が、霧山様の意志とは違ったことをしているとしたら、許せないのですよ」
「私たちと手を組んでも、なのか?」
「はい」
葵の目に、決意のような光が宿っていた。




