第459話 低糖質パンのススメ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「もうパンの話はええやろ?」
南郷がそう言って手をパンパンと叩いた。
ひかりの顔がパッと明るくなる。
「南郷教官!今、パンパンって!」
「え? 何がや?」
首をひねる南郷に両津が指摘する。
「センセ、手をパンパンて叩きましたがな」
「いや、これはパンのこととちゃうで!みんながうるさいから叩いただけや!」
ひかりがニヤッと笑う。
「教官もパンが好きなんでしょ?」
「まぁ……嫌いではないわなぁ」
「ほら!」
「いや、今は授業中や!パンの話してる場合やないで!」
「お嫌いですか?」
「お好きです」
「ほら!」
ついひかりの言葉に乗せられてしまう南郷である。
陸奥が苦笑する。
「南郷さん、授業を進めましょう」
「そやった!すんまへん」
再びひかりがニヤリと笑う。
「陸奥教官はどんなパンが好きですか?」
今度は陸奥がニヤリと笑った。
「黄金色でシュワシュワしたやつかな」
その言葉には、奈々が勢いよく突っ込んだ。
「それはシャンパン!」
「泉崎、よく分かったな」
関心したような顔を奈々に向ける陸奥。
「はい。いつもひかりに鍛えられてますから」
そんな奈々の言葉が聞こえたのかそうでないのか、突然ひかりの笑顔が爆発する。
「奈々ちゃんすごーい!それってなぞなぞかな?」
「なぞなぞ?」
「うん!黄金色でシュワシュワしたパンはなぁに?って!」
奈々がなるほど、といった表情になる。
「パンはパンでも食べられないパンはなぁに?ってやつね」
ひかりが腰を低く落とし、何かをすくい上げるように右手を下から出した。
「それは一宿一飯!」
「そのパンじゃないわよ!」
「おひけぇなすって!」
「何を控えるのよ?!」
「さっそくのお控え、ありがとうござんす!軒下3寸借り受けましての御仁義、失礼さんにござんす!手前生国と発しますは、」
「ストーップ!答えはフライパンよ!」
ひかりの仁義が長くなりそうなので、奈々があわてて正解を叫んだ。
「金曜日?」
「それはフライデー!」
陸奥と南郷が顔を見合わせて肩をすくめる。
「そろそろパンの話はやめて、授業を始めへんか?」
その時、奈央が真面目な表情を皆に向けた。
「その前にひとつだけご注意がございますわ」
皆口を閉じ、奈央に視線を向ける。
「パンは糖質量の多い食品ですわ。太りやすいので食べる時には糖質をチェックした方がいいと思われますわよ、ねぇ愛理ちゃん」
そう言えばそうだ。
愛理の父は有名シェフであり、低糖質料理の開発でも世間の話題となっている。パン、そして糖質についてなら、この中で愛理がいちばん詳しいかもしれない。
伊南村雅人42歳。愛理の父は高校卒業からずっと、様々なジャンルの料理店で料理人やシェフとして生きてきた。だが40歳になったのをきっかけにスッパリと業界から身を引いたのである。惜しむ声も多かったが、それを問われても雅人はひょうひょうと答えるのみだった。
「理想の低糖質料理を開発したいんです」
そしてつい最近、雅人が出店した低糖質料理の店がワイドショーで取り上げられ、一躍時の人となっている。
愛理が誇らしげに言う。
「食後の血糖値が急上昇と急降下を起こす状態を「血糖値スパイク」と言いますぅ。急激に上がった血糖値を下げるために、人のカラダはインスリンを分泌して、血液中の糖を脂肪として吸収するんですぅ。つまり、血糖値スパイクこそが太る原因なのですぅ……と、お父さんが言ってました」
すげー、まさに専門的!
一同目を丸くして愛理を見つめる。
「それと、血糖値スパイクの急激な変化は毛細血管に悪影響を及ぼすのですぅ。そして様々な病気の原因となるんですぅ。血糖値スパイクを起こさない料理、それこそ私のお父さんが目指している究極の健康料理なのですぅ」
教室が拍手に包まれる。
愛理の頬が、少し赤くなった。
その時、最近少しばかりダイエットに興味のある奈々が質問する。
「でもね、ご飯も麺も、そしてパンも、主食って炭水化物が多いんでしょ? 炭水化物って糖質よね?」
「そうですぅ」
「じゃあ、何を食べればいいの?」
この場の全員の目が、好奇心でキラキラしている。
奈々の言う通りだ。
糖質がダメなら、主食が全滅である。どうすれば太らない食事が可能になるのだろう?
「だからお父さんのお店が大繁盛なのですぅ」
もっともだ。愛理の父は、その目的のために店を出したのである。
南郷が急に身を乗り出して愛理に迫った。
「お父さんの店、通販はしてへんのか?!」
生徒たちはそんな南郷の下っ腹あたりに目をやる。
多分南郷はダイエット中なのだろう。
「残念ながら、してないですぅ」
がっかりと肩を落とす南郷。
「でも」
「でも?」
「お父さんのお店で出してるパンを仕入れてるところなら、通販してるはずですぅ」
おおーっ!と、教室がどよめきに包まれる。
「それ、教えてくれへんか?!」
「いいですぅ」
愛理によると、低糖質パンと言うのがあるという。
小麦粉の代わりに、全粒粉、小麦ふすま、大豆粉などの原料を使ったパンとのこと。それらは低糖質なだけでなく、たんぱく質や食物繊維が多く、血糖値スパイクが起こりにくいのが特徴らしい。
「お父さんがおすすめのお店は、名古屋のココレクトさんですぅ」
教室内に、一斉にスマホにメモを取るタップ音が響き始めた。
「食パン一枚の糖質は普通25グラムぐらいなんですけど、ココレクトさんのならたったの2.7グラムだってお父さんが言ってたですぅ」
「十分の一やないかい!」
すげー!と、再びメモを取る音が聞こえる。
ここはいつから、教習所ではなく健康食教室になったんだ?
陸奥は苦笑しながら肩をすくめていた。




