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第454話 閑話・職員室9

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「お茶でもいれましょうか?」

 職員室に、久慈の声が優しく響いた。

「あ、久慈さん、すんまへん」

 そう言った南郷が、まだ目を閉じている美咲に目をやる。

「山下センセ、ずっと眠ったまんまでんなぁ。いつになったら起きるんやろ?」

 陸奥も美咲に視線を向けた。

「眠ってるのとは、ちょっと違うらしいですよ」

「そうなんでっか?」

「ええ。ほら、背筋がピンと伸びてるでしょ? 眠ったら、座ったままじゃいられませんよ」

「確かにそうでんなぁ」

 美咲を見る南郷の目に、不思議そうな色が浮かぶ。

「せやけど、袴田素粒子に感染してる状態って、どんな気分なんでしょうねぇ」

 その時、久慈が三人のもとに戻ってきた。

「はい、紅茶です」

 お盆からソーサーに乗ったティーカップを各人の前に置いていく。イギリスの名門ウェッジウッドのフェスティビティマグである。あふれんばかりのフルーツや花々の束を縄でつないだ花綱が巻かれたデザインだ。表情豊かな凹凸の型押しで、立体感のある装飾が実に美しい。

「ありがとう」

「ありがとさん!」

 二人は久慈に礼を言ってカップに手を伸ばした。

 柑橘系の爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。ベルガモットだ。

「山下センセには礼を言わんとあきませんなぁ。センセが買ってきてくれはったこのアールグレイ、めっちゃおいしいわ」

 南郷がカップを持ち上げ、スッとひと口含む。そしてそれをそのまま飲み下して言う。

「なんちゅーか、口の中から鼻に抜ける香りがすんばらしいっちゅーか」

 そんな南郷を見て、陸奥の顔が緩んだ。

「南郷さんも、いっぱしの紅茶通になりましたね」

「ツーと言うか、スリーですわ」

「何言ってるんですか」

 久慈がクスクスと笑う。

「いや、スリーよりフォーやな。紅茶フォー!」

 両手を上げ、人気の一発屋芸人のモノマネをする南郷。

「それは面白くないですよ。やりすぎです」

 そう言ってニッコリと笑う久慈に、南郷が照れたように頭をかいた。

「あらそうでっか? すんまへん!」

 そして紅茶をゆっくりと味わう三人。

 ゆったりとした時間に、フッとリラックスした息を吐いた陸奥だったが、その目がスッと厳しくなる。

「昨日は色々とありましたね」

 南郷が、ティーカップを片手に大きなため息をついた。

「そうでんなぁ。マスコミ発表だと相手は謎のテロリストの新型ロボットってことになってましたなぁ」

「そうですね。一国の特殊部隊が東京の地下で活動していたなんて言ったら、世間は大騒ぎになりますからね」

 久慈の目も真剣だ。

「しかもそれが無人のロボット兵だったなんて、絶対に言えませんね」

「でも、一部のワイドショーでは、それに近いこと言っとったらしいですよ」

「どんな風に?」

「ロボットの専門家とか言う学者が、あれは人間が操縦する動きやない!なんて」

「それでどうなったんですか?」

 南郷が肩をすくめる。

「暴走してたんだから当たり前やん、てことで落ち着いたらしいですわ」

 陸奥も久慈も、安堵の息をもらした。

 ティーカップをデスクに置くと、陸奥が視線を南郷に向ける。

「それで、キドロが来る前に暴走ロボットと戦ったロボットのことは、どう報道されてました?」

 その問いには、久慈がスマホをタップしながら答えた。

「それについては……あった、これだ。つい今しがた、霧山グループから正式に発表があったんです」

 陸奥と南郷が、久慈が差し出したスマホの画面を覗き込む。

「あれは我社が開発している最新型乗用ロボットのプロトタイプです!まだ発表前ですが、偶然にも近くでテスト運転中だったのでキドロの応援に駆けつけました!……だそうです」

 三人の表情が苦笑に包まれた。

「よう言うわ。あんなとこにおったんが偶然なんて思われへんで。しかもあの黒いのが乗用? どう見ても軍用やわ!……知らんけど」

 久慈がプッと吹き出した。

「南郷さん、知らんけどって」

 陸奥もニヤニヤしている。

「南郷さん、流行り言葉はあまり似合いませんよ」

「ほんまでっか!そらそうかもしれませんなぁ……知らんけど」

 思わず爆笑に包まれる三人である。

 その時、美咲の目がゆっくりと開かれた。

「あ、山下センセ!おはようさん……とちごて、お帰りなさい!」

 美咲はひとつ大きく息を吐くと、顔を上げて三教官を見た。

「ただいまです」

 久慈が心配そうな声で美咲に問いかける。

「カラダは大丈夫なんですか? アイさんに会いに行った後は、いつも疲れたような顔、してますけど」

 ニッコリと笑う美咲。

「心配いりません。情報量が多くて、いつも整理するのが大変なだけなんです」

 そんな美咲に気を使っているのか、陸奥がゆっくりと聞いた。

「それで、遠野のお母さんたちには会えましたか?」

「はい。前回途切れたところから、コンティニューした感じで」

「コンティニュー?」

「なんて言うか、眠ったら昨日の夢の続きを見れた、そんな感じかもしれません」

「へえ、なんやオモロそうでんな」

 南郷は興味津々のようだ。

 久慈も陸奥同様に、ゆっくりと優しく質問する。

「今回、何か新しいことは分かりましたか?」

 その言葉に、ハッと目を見開く美咲。

「実は、雄物川所長に、ぜひ相談したいことがあるんです」

「所長に?」

「はい。いくつか大変なことが分かったんですが、どうすればいいのかが見当もつかなくて」

 顔を見合わせる三教官。

 陸奥が美咲に向き直る。

「分かりました。じゃあ今からみんなで地下へ行きましょう」

「お願いします!」

 美咲の返事に、皆立ち上がってエレベーターへと歩き出した。

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