第451話 おでん缶
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「ここのメニュー、やっぱり充実してるじゃん。いいなぁお嬢様」
「だからその呼び方、やめてって言ってるでしょ」
東池袋での一件を終えた夕梨花たちパイロットは、自衛隊市ヶ谷駐屯地と隣接する警察総合庁舎に戻っていた。ここには彼らが所属する警視庁機動隊の特科車両隊がある。
春樹が自販機のひとつをまじまじと見つめながら言った。
「まさか、有名なおでん缶まであるなんて、びっくりだよ」
警察総合庁舎の自販機スペースには、結構な数の自販機が並んでいる。コーヒーや紅茶などのドリンク系はもちろん、菓子、パン、天ぷらうどん、ハンバーガー、焼きそばなどの軽食までが販売されていた。カップラーメンの自販機など、全自動でお湯が注がれ、完成された状態で出てくる。まるでひと昔前の、高速道路のサービスエリアを思わせる風景だ。
「これ、秋葉原でしか買えないのかと思ってた」
そう言って感心している春樹に目をやり、沙羅がため息をついた。
「アキバで売るためだけに、缶詰まで作るわけないじゃない。たまにスーパーで売ってるの、見かけるわよ」
春樹がちょっと驚いた表情になる。
「じゃあどうしてアキバだけ有名なの?」
「そんなこと、私が知ってるわけないじゃない」
そんな会話に後藤が割り込んできた。
「それ、俺ぁ知ってるぜ」
「ゴッドさんが?」
春樹がいぶかしげに後藤を見る。
「俺が知ってちゃおかしいのかぁ?」
「いや……そう言うわけじゃ」
しどろもどろの春樹に、夕梨花が笑顔を投げた。
「ゴッドは缶コーヒーマニアなのよ。だから必然的に自販機にも詳しくなったってわけ」
「缶コーヒーマニア? なんか似合いませんね」
「そんなことねぇぜ。渋いオトコに似合うのは苦味の効いたコーヒーだぜぇ、アンちゃんよぉ」
「そういうもんですかねぇ……それで、どうしてアキバのおでん缶が有名なんですか?」
後藤がニヤリとした笑顔を春樹に向けた。
「ドリンクの自販機にはホットの機能があるだろぉ?」
「ええ」
「だから、そこに入れりゃあいつでもアツアツのおでんが食えるってことを、アキバの業者が思いついたってわけだ。いいアイデアだよなぁ」
だが春樹は、どうやら他のことが気になるようだ。
「あの、それより……ゴッドさんがどうして缶コーヒーなんですか?」
再び後藤がニヤリと笑う。
「苦み走ったいい男って言うだろぉ?」
決まった!そんな顔の後藤である。
「じゃあいつもブラックなんですか?」
「いや、普通の缶コーヒーだぁ」
「じゃあ苦み走ってないじゃないですか!どっちかと言うと、甘み走ってるじゃないですか!」
「なんだそりゃあ?」
まるでコントである。
コワモテの後藤と真面目警察官の春樹の会話は、なぜかいつもこうなってしまう。
言い合うほどに仲がいい……きっとそうに違いない。
夕梨花はそう感じていた。
「それに、よく考えたら苦味が走るってどういうことです? 意味分からなくないですか?」
「そんなこと俺に聞かれてもなぁ……なぁお嬢ちゃんよぉ?」
いきなり話を振られた夕梨花が少し焦ったように言う。
「私だって知らないわよ!でも、落語とかにも出てくるから、きっと江戸の頃には使われてた言葉なんじゃない?」
「おおー」
後藤、春樹、沙羅の三人が思わずそう声をあげた。
「お嬢ちゃんはやっぱり物知りだぜぇ」
なぜか夕梨花の頬が少し赤くなる。
「皆さん!」
その時、同じキドロパイロットの沢村が、自販機コーナーの入り口からひょいと顔を出した。
「そろそろデブリが始まります。会議室に集まってください」
デブリとは、デブリーフィングのことだ。事前打ち合わせのブリーフィングの逆で、何かの後の報告会や反省会のことを言う。
「分かった」
夕梨花のひと言を合図に、この場の全員が会議室へと歩き出した。




