第448話 お尻のまわりは?
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「結構毛だらけ猫灰だらけや!」
南郷が嬉しそうにそう叫んだ。
「何が結構なんですか?」
久慈が不思議そうな顔を南郷に向ける。
職員室を後にした南郷、久慈、そして陸奥と美咲の教官全員は、すでに教習所地下にある対袴田素粒子防衛中央指揮所に集まっていた。東京地下の謎のトンネルに潜むダスク共和国の特殊部隊・ブラックアイビスの掃討作戦に出た警視庁機動隊のキドロ部隊だが、袴田素粒子の攻撃を受けたことで、この一件はこの中央指揮所の案件にもなったのである。
「キドロ標準装備の30ミリ機関砲なら、あのトンネルを崩落させるなんて簡単やと思いましてな。大変結構なことになってきたなぁと思いましたんや」
指揮所の全員が見つめる先には、巨大な仮想スクリーンが浮かび上がっていた。そこには、トクボ指揮車から送られる現場の映像が映し出されている。そしてその中では二機のキドロが、巨大な機関砲をトンネルに向けていた。
再び南郷が笑顔で叫ぶ。
「まさに、結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻のまわりは、」
「ストーップ!」
南郷の言葉を、勢いよく陸奥が制した。
「南郷さん。久慈さんと山下さんの前ではそこまでです」
あっと、何かに気付いたのか、南郷が気まずそうな表情になる。
「あちゃ〜、すんまへん。御婦人方の前やったわ」
すると久慈が真面目な顔を南郷に向けた。
「今の時代、男も女もないですよ。それ、全部聞かせてください」
「ホンマでっか?!」
南郷の顔がパッと明るくなる。
「ほんなら行くで!」
陸奥は肩をすくめている。
「結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻のまわりはクソだらけや!」
ドヤ顔の南郷。
陸奥は、だから言ったのにと呆れ顔だ。
「聞かない方が良かったです」
苦笑する久慈。
だが美咲は、特に気にもとめていないようにキョトンとしていた。
「あの、どうして猫が灰だらけなんですか?」
顔を見合わせる教官ズ。
そして三人揃って雄物川に視線を向けた。
こういうことは年の功だ。雄物川所長なら知っているかもしれない。
陸奥が口火を切る。
「この言葉って、映画の寅さんに出てくるテキ屋の売り口上ですよね?」
雄物川はうむとうなづいた。
「そうだが、もっと昔からある言葉だ」
へぇっと、陸奥も驚きの表情になる。
「縁日の屋台などでは、江戸時代頃から使われている。それが有名になったのが、寅さんの映画ってわけだ」
「でも、どうして猫が灰だらけになるんですか?」
雄物川の表情が柔らかくなる。
「実はね、江戸の頃は猫が灰だらけになることが、日本の冬の風物詩だったんだよ」
「風物詩、ですか?」
陸奥が不思議そうな顔になった。
「昔は各家庭にかまどがあった。夜になると、人はかまどの火を消して眠ってしまう。すると猫は、暖を取ろうとかまどの灰の中に潜り込むことが多かったんだよ」
美咲の顔がパッと明るくなる。
「だから猫灰だらけ!」
その時、スクリーンの向こうから、耳をつんざく轟音が響いてきた。
ズガガガガ!
二機のキドロが、地下トンネルへ向けて30ミリ機関砲を放ったのだ。
もうもうと立ち昇る土煙。
ガラガラと崩れる瓦礫の音が響き渡る。
30mmの大口径機関砲から射出されたNATOの標準共通弾である30x113mmBは、地下トンネルの天井を数メートルに渡って崩落させていた。




