第446話 猫灰だらけ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「沙羅」
「何よ?」
「狭い」
「贅沢言わない!」
袴田素粒子が感染したキドロから脱出した春樹は、沙羅機のコクピットにいた。
エアバッグから抜け出した春樹を沙羅がすくい上げ、自機に乗せたのである。
「でもこの椅子、観光バスの補助席みたいで居心地悪いよぉ」
新型キドロのコクピットには、緊急時のために複座のような補助席が装備されている。だが、それはあくまでも緊急事態のためのものであり、十分な大きさが確保されているとは言い難い。特に身長の高い春樹にとってその席は、ちょっとした拷問のような座り心地なのだ。
「拾ってもらえただけでも感謝しなさい!」
「ボクに何か手伝えるかなぁ」
「いいから黙っておとなしくしてて!そうじゃないと舌噛むわよ!」
そう言うと沙羅は、右レバーをぐいっと引きながら左のペダルを踏み込んだ。
「うぎゃっ!」
いきなり動いたキドロの振動で、春樹は舌を思い切り噛んだのであった。
「田中くん、どう対処するのがいいと思うかね?」
白谷の言葉に、ほんの少し考え込んだ美紀だったが、すぐにサッと顔を上げた。
「袴田研究室からのアドバイスだと、トンネルを崩壊させて素粒子の進路を妨げれば、一時的にはその加速を止められるとのことです」
ただ、袴田からのメッセージにはこうも書かれていた。
これはあくまでも一時的な対処プランであると。なぜなら、より加速された素粒子なら、崩落させた土砂なども突き抜けてしまうからだ。そのため正式な対応策としては、より強力な防御シールドをトンネル内部に張る必要があるのだと。
「よし、今はまずそれで対応しよう」
白谷の言葉に、美紀が無線に言葉を投げる。
「素粒子の加速を止めるために、地下トンネルを崩落させます」
後藤から飄々とした声で質問が返った。
「どうやってトンネルを崩すんだぁ?」
それには白谷が答える。
「機関砲での攻撃を許可する」
東池袋は、街なかどころか繁華街のど真ん中である。こんな場所での発砲は、周辺の建物などへの被害が計り知れない。そのため今回の作戦では機関砲の使用は認められていなかった。だが、キドロで地下トンネルを崩落させるには他に方法は無いだろう。
白谷の言葉を美紀が引き継ぐ。
「ゴッドさんのチームはトランスポーターへ戻って、機関砲の準備をお願いします。泉崎さんのチームは、無人ロボットの足止めを!」
「了解だぁ。んじゃお嬢ちゃんよぉ、しばらく待っててくれよなぁ。俺と押坂のおねぇちゃんで機関砲取ってくるからなぁ」
後藤のその言葉に、夕梨花がうなづく。
「大丈夫よ。こっちは私たちに任せて!」
「じゅあおねぇちゃん、急ぐぜ!」
そんな会話に、春樹が割り込んできた。
「沙羅だけじゃなくて、こっちのキドロにはボクも乗ってます!」
「お? アンちゃん、生きてたか」
「生きてますよ!それにボク、アンちゃんじゃありません!」
「アンちゃんが誰なのか、分かったのかぁ?」
後藤の問いに、うーんと考え込む春樹。
「アントニオ猪木ってのは冗談なんですよね? じゃあ……アンパンマン?! いやいやいや!どっちかと言うと、アンパンマンは沙羅の方でしょ!」
「私のどこがアンパンマンなのよ?!」
「顔が丸いところ」
「うきーっ!」
二人のやりとりに、後藤が水を差す。
「どっちが丸顔でもいいからよぉ、さっさと行くぜ」
「了解!」
そう言うと沙羅は、先行してトランスポーターへ向かった後藤機の後を追った。
「おい!今度は二機のキドロが、現場から離脱しようとしとるで!」
両津の叫びに、ロボット部の全員が再びテレビ画面に目を向けた。
いったい何が起こっているのだろう?
謎の暴走ロボットたち。
それに立ち向かった、やはり謎のロボットたち。
感染防止シールドを装備しているはずの新型キドロの暴走。
そしてなぜか今、二機のキドロが現場から離れようとしている。
「謎だらけだぜベイビー」
「結構毛だらけ猫謎だらけ!」
そう言ったひかりに愛理が顔を向ける。
「どうして猫さんが謎だらけなんですかぁ?」
それに再びツッコミを入れる奈々。
「猫謎だらけじゃなくて、猫灰だらけよ!」
だが、それを聞いた愛理は余計に首をかしげた。
「どうして猫さんが灰だらけなんですかぁ?」
今度は奈央が愛理に向き直る。
「結構毛だらけ猫灰だらけ。これは映画『男はつらいよ』で、主人公の寅さんがいつも言ってる言葉ですわ。その意味は……私にもよく分かりません」
ロボット部のハカセ、奈央にも分からないことがあるのか……。
学食にそんな空気が広がった。
その時ひかりがまた叫ぶ。
「驚き桃の木山椒の木!あたりき車力車引きよ!てやんでぇ!」
今度は大阪弁ではなく江戸っ子だ。
「わけが分からないですぅ」
だが、疑問に首をかしげているのは愛理だけではなかった。
なぜ猫が灰だらけなのか?
その謎が解ける者は、学食にはいなかった。




